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壱岐津 礼
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2011年07月06日(水)
まどか☆マギカ―――「面白ければ好きになる」というわけではない件

※100%ネタバレです。作品内容についての説明は一切行いませんので未見の方は回避された方が吉です。記事タイトルの通りですので、「まどマギは神」「一点の非難・否定も許さん」という方も以下に進まれない方が良いと進言いたします。

 きっかけはtwitterだったんですけれども―――私のタイムライン内で大層評判、というか好評だったんですね。かなり熱烈に賛辞を贈ってらっしゃる方もいて、特に、最終回が放映された頃には「うわ、なんだろな」とい思う盛り上がりでした。
 とはいえ、深夜枠(寝てるし。録画するのもストレスなんすよ、コロコロ時間ズレるから)だったのと、途中から参入というのはあまり好きで無かったので、最初にまどマギの名を見てからTV放映終了するまではスルーしてました。
 しかし!
 幸いというか余計なお世話というか、もうだいぶ前になりますがニコニコが生放送で全話一挙放送を企画しまして、放送時間は遅かったんですが、幸か不幸かタイムシフト視聴できる身だったもので「これはもう、正体を見定めるしかないか!」と思い立ち、実行した次第です。
 で、結論―――。
 面白かった。
 クオリティ高いと思いました。

 でも私、この話、嫌い。
 鬱展開することは、前以て断片的情報によって知っていました。残酷ととれる描写もあることも。だからそれは別にいいんです。ストレスフルな展開だなと思いながら「あー、うん、なるほど」と、当初はそれなりな見方してたんです。
 嫌悪感が高まっていったのは話が収束に向かった辺りからで、皮肉なことに大好評だった最終回において決定的に嫌いになってしまいました
 この辺りの経緯はね、私がこういう感情を抱いてしまったという結果については、まどマギを純粋に楽しんでらした人に対して忸怩たるものがある。申し訳ない気分にもなります。でもね、私の価値観において、あのラストはどうしても「良かったね」とは言えないものだったんです。
 だって、あれって何も解決していないよね?
 魔法少女は大人になることができない。
 魔法少女になったが最後、どこまでも魔法少女でいるしかない。普通の人が享受してる人間らしい営みに帰ることは絶対にできない。
 ただ「魔女」にはならなくなっただけ。
 彼女達はその存在の終わりまで「少女」であることに縛り付けられてる。―――そもそも、「成熟したら『魔女』になる」という設定自体、少女が大人の女になることに対して、何か含みあるんかいな、と勘繰っちゃうとこありますけど。
 確かに、ある年齢までの少年少女というものは、特にフィクションに於いては一種眩い輝きを持ちます。だからと言って例えば少女じゃなくて少年をですね「ずっと少年の時間に縛り付けたい」と願う……人もいるかもしれない世の中色んな人がいるから、でも私は願いません望みません。どんなだらしない男になっても、好きでいられなくなっても「うわ、どーしょーもね」って愚痴るだけです。「時よ止まれ」とは言いませんよ。
 例えばさやかが―――上条はほんとダメな男だなという描写でしたけど、あれはまあ、さやかを破滅させる為に用意されたツールみたいなもんだったので特に憎いとも思いませんでしたけど、さやかが、「あんな男に入れ込んじゃって、あの時の私、青かったよねw」と笑える未来を…、未来を手に入れられる可能性を、少しでも手にすることができてたなら…。あの性格じゃ、ずぶずぶにダメンズウォーカーになりそうな気もするけど、「ただ一人の男の為に破滅する」だけで終わるよりもマシな人生じゃないですか。
 でも、この話はそれ、許さないんですね。さやかは絶対的に「一人の男の為に人生の全てを捧げる少女」でなければならないんです。捧げた余りが有っちゃいけないんです。
 しかも、当初は「已むを得ない状況下」であったとしても各々が自身の意思で選択したように見せかけられた「魔法少女になる」という結果が、タイムパラドックスを織り込んだ為に、「実は選択の余地なんか与えられてなかった」「彼女達が魔法少女になることは最初から決定事項だった」と露呈されてしまった。世の中で何が残酷かって、一人一人の人間から「自分の人生を選択する権利」を奪うことですよ。その残酷が最終的に解決されるどころか、より強固に全てのキャラを縛ってしまった。まどかの「願い」によってですよ。
 キャラの行動を責める気はないですよ、物語の残酷性がダメだというんでもないんですよ。キャラを操る意図、残酷性の扱いに対して「何よ、それ!?」と言いたくなったんですよ!
 まどかは、というか作り手はまどかに全ての魔法少女の意を汲ませてないですよね?多少なりとも配慮したように見せかけた相手はほむらとさやかだけで。マミさんと杏子は?
 マミさんも杏子も何が起きたか知らされてない。縛られている自覚が無い。自覚が無いから解放される為に足掻く意思を持つことすらできない。という部分はあまり明確には語られてないけど。
 杏子は、そりゃ、まどかにとってちょっとばかり遠い存在だったかもしれない。けどマミさんは仲良くしてたでしょ?マミさんの事情を聞いてやるせないとは思わなかったの?どの時間軸でもマミさんとは一緒にいたじゃない。無視しちゃっていいの?それって自然な展開なの!?
 皮肉なことに、マミさんも杏子も、「魔法少女」の中では、年齢的に少女であっても精神的には半ば「大人」になりかけていた。気配を感じさせるキャラだった。
 マミさんの、表面を取り繕って、良い人を装って、でも自分の側に引き込む気満々だったあの欺瞞、こちらへ来てはダメと言いながら連れ歩いて二人の「選ばれた私達」という優越感をくすぐり続けたあの欺瞞、まどかとさやかだけでなく自分自身の良心も騙そうとした。優しい人だったのも本当で、哀しい人でもあったけれども嘘つきで、そういう矛盾を内包した人格って、一途な「少女」よりもずっと「大人」に近いじゃないですか。
 杏子の「自業自得にしちゃえばいいんだよ」という「諦観」と「達観」、「力は全部自分の為に使う」と言い切っておきながら、裏腹に崖を転げ落ちていくさやかを見捨てられなかった利他の心(さやかは杏子にとって、ただの他人よりも険悪な仲の相手だったんですよ?)その葛藤も、他の三人よりずっと「大人」じゃないですか。
 象徴的なことに二人とも「魔女」になる前に命を落とすことで強制退場させられてる。
 ソウルジェムをグリーフシードで浄化し続けたらどれだけもったか分からない。身体は果たして成長できたかどうか分からない。けれども「魔女」にならず、精神面だけでも「成熟」できたかもしれない可能性を、この話は潰してる。隠してる。その先を見られないようにしてしまった。
 一方で、他の魔法少女よりも何倍も長い時間を「経験」したほむらは、その経験にも関わらず一向に「成長」に向かわなかった。いつまでも近視眼的で未熟で包容力に欠けて稚いままだった(成長できてたら、まどかが主人公張れなくなってたでしょうけどね)。
 で、まどかには、ほむらの未熟、非寛容、稚さを愛でることを選ばせた。
 どんだけ『成長』を拒絶するのかと。
 そして、あれだけの犠牲を払ってなお、変わらず魔法少女は悲劇的な存在でなければならない
 何故「悲劇的でなければならない」かというと、これ、サディズムなんです。ま、私はそう解釈しますね。
 人間って、他者の悲劇を傍観する時に愉悦を覚える傾向を持っているんです。汚いやつ、嫌なやつを虐げるのは、もう安心してできるので無意識にやっちゃいます。でも、無垢で、好ましく見える対象が悲劇に遭う様は、また格別の快感をもたらすんです。
 私の中にもそういうサディスティックな要素ってのはあります。だから、まどマギに反応して、「面白い」と感じた。
 この物語は詰まるところ「サディスティックな欲求を充足させる」為に構築されている、と、私は捉えています。
 ヒーローヒロインものは元々サディズムと相性いいんですけれど、深夜枠だからブレーキ外して、思いっきりサディスティックな方向にふかした作品かな、と。少なくとも途中までは。
 最後まで徹底して、飾らず紛らわさずサディズム姿勢を貫いてくれたら、或いは私は好意を抱いたかもしれない。けれど最後の最後で「なんとなくイイ話」のように誤魔化してしまった。そうでしょう?誰も救われてない。皆「悲劇的な魔法少女」のまま縛られている。なのに何か良いことが成し遂げられたような口ぶりで語る。
 そんなの、DV男が後ろめたさから殴った女の青タンに湿布貼るようなもんじゃないですか!
 物語を綴る人は嘘をつくのが仕事ですよ。だから嘘つくのは全然かまわない。フィクションに触れる時はいつでも「騙される覚悟」完了してますよ。怒ってるのは、「その騙し方はお作法がなってないんじゃないの!?」ということですよ。「騙すならボロが見えないように騙しきってよ!」ということですよ。
 徹底的に壊すか、徹底的に救ってよ!中途半端はやめてよ!!そのいい人ぶった顔が仮面なのバレバレでキモチワルイのよ!!

 とはいえ、出来上がったものは今更どうにもならないし。
 そもそも、私は「私のオーダー通りの話を作って」と言える立場じゃないし。多分、私は失礼なやつなんですよ。すみません。
 ここまで読んで傷つかれた方、申し訳ありません。どうか私が何と言おうと、ご自身の感性を信じてください。
 まどマギの存在そのものを否定する意図はありません。
 ただ、こういう感想も存在してもいいよね?い?い?よ?ね?

 正直、この気持ちを書き綴っていいのかどうか、「嫌いだっつぅくせに、そこまで執着してるの!?」と思うと悔しくもあったし、時間の流れるに任せていればそのうちどうでもよくなるかな、とも考えたんですが、なかなか吹っ切れなかったので。失礼しました。
 これを憑き物落としとして、もう、まどマギについては言及しないようにしたいと思います。