息を吸うて 息を吐く
数秒止めて 息を吐く
それだけで 息苦しく
たったそれでだけで たったそれだけで
たった3分もタイミングをずらせない
たった一言の10秒だけで
たった3ヶ月もない
たった一人の人
たった
たった
北極点に徒歩で後2日まできた。
氷の悪魔ブリザードが激しい純白を叩きつけてきて、冬の太陽は全くそっぽを向いてしまった。
降り注がない日光の輝きを地に育った野獣の皮で補おうとしているけれど、凍傷で左親指以外、右親指と人差し指以外は夏になっても戻りはしなくなってしまった。
薄雪の掛かったクレパスにそりも食料も無線機も犬たちも全て飲み込まれてしまったから、必死で飛び上がったから、もうナイフの他には服しか残っていない。
意識すらも朦朧(いしき)としてきた。
頭部すらも振幅を大きくしてきた。
単振り子のようにゆっくりと長く体を揺らしながら、
クレパスに再び戻る雪の遊びを、ぼぉっとぼぉっと眺めていた。
此処に右ひじ裏から切り出した黒赤い鮮血をドバドバとなげ掛けても、切れパスはなくならないし遭難事故だってなくならないし。
透明の涙、白濁の粘液、全身の肌色を切り出して掛けたって決してなくなりはしない。
私の行動は何だったのだろう、などという甘ったるい言葉を掛けてみても、私の使命や個性や社会的地位や家族内の関係を思い出しても、自然は決して妥協をしてくれはしない。
白い悪魔ブリザードが終わっても、もう既に自然は決して取り込んでいったものを返してはくれない。
ここに、右肘の裏からドバドバと景気良く鮮血を拭きかけ、さえも。
ただ静かだ
ただブリザードが静か過ぎている。
ただただ
後悔が思いつく、人からの励ましも他人からの励ましも、そして無言であったのだった。。
ただただ静かだ
ただ、私という個別性と獣皮と一緒に運んで入れて欲しくなる
ただただ静かだ