君はあの日の少女のように小雨の夕暮れに両手で顔を覆いながら泣いていたね
初めて、鮮血のついた痰(たん)を吐いて、その鮮やかなものが僕の体の中にあったのかって、驚いて、それでやっと受け入れられるようになって落ち着いて歩き出し、初めて触れたのが、ストレートの黒髪に純白のワンピースの少女だった
声を掛けようか少し迷ったけれど、少し通り過ぎて、そして声を少しだけかける、そんなつもりだったのだけれど
しくしくとあの少女のように他人の同情を誘うようでもない素振りが、より一層心が今も引き付けられている
もうすっかり封印して、完全に忘れるまで数年もかかったあの少女
僕はやっぱり忘れられなかったのかも知れない
無意識という言葉が今やっと僕の人生の中に現れてきたような気がした
曇天の下、灰色の道路の上でジーンズに白いシャツだけれど瞳の水滴のレンズでぼやけているとすっかりすっかり一緒になる
そういえば、出会いは大学のサークルを探していた日、ちょっと小雨が降っていたっけ。その中で君はまるで、見たこともない大天使のように、仏様神様のように輝いていたんだっけ
「ひどぃ・・・」
君はささやくようにつぶやいた
一緒に入ったサークルで君は明るくて優しくて少し涙もろい、僕にはもったいない、なんて言われる人だった
けれど、僕の愛は絶対に変わらなかったし揺らぐこともなかった
これからも揺るがせてはいけないし変わってもいけないんだ
あの少女との出遭いのように、そして合うべくして会った君への忠誠も
修羅の世界へと引き戻す愛欲、衝動、激情、偶然
私はまた探し続けるのだろう、永遠の愛の対象を
無意識と自覚しても尚、決して抗(あらが)えない贖(あがな)いを
執筆者:藤崎 道雪(校正H18.6.2)
噛み殺したのは眠気の欠伸ではなく退屈のその、その先だったのかもしれない
美醜を超えた麗しき白磁の君
観えては避けたのは唯我独尊ではなく自由闊達のその、その先立ったのかもしれない
情愛を超えた融合していく白磁の君
クリップでパチリと止めたのは私の心全てだったけれど、その先に動かされていたのだった
四肢と深淵をも奪い取った白磁の君
バンとビデオのケースの中に人生と恋愛と伴侶と世界と全ての事を詰め込んだのだけれど、決して治まりはしなかったのだった
生涯を賭けて唯一無二の存在である白磁の君
喜怒哀楽も性愛も全ての精神も気遣いも精神的支えも私の中は全て白磁の君のものだ
手も足も目も仕草も社会的地位も金銭も呼吸して吐く息さえ私の外の全ては白磁の君のものだ
だが、それだけでしかなかったのだ
だが、それだけでしななかったのだ
流す涙も君のもの 流す理由も君のもの
たれる糞尿も君のもの たれる理由も君のもの
だが、君に捧げられないものがあるって
だが、君に捧げられないものがあるって
執筆者:藤崎 道雪
久しぶりの日差しは夕暮れになっても強かった
茶畑がコンビニの食料品のように整頓させられて並び、より一層、夕暮れの紅色を艶っぽくさせた
ふと、風に誘われて茶畑の切れ間まで視線が広がった
段々畑のようになった丘を埋め尽くすのは何百という数え切れないほどの木々たちだった
少し深い色、濁った色、浅黄色、信号機の青色まであった
そこへ強風が襲い掛かっていった
ざぁざぁざぁと大合唱してくれた
ばぁばぁばぁと葉裏は真っ白だった。
ちらちらちらと見えるペチコートのように
さらさらさらと昼を撫で取るハンカチのように
吹き抜けては、また吹き抜けていく、その白濁のざわめく波に
やっと気がついて、そっと気がついて、夕暮れ色と藍色のネクタイを外した
(注記:「ネクタイ」は中世欧州では女性から送られるもので、ネクタイを着ける事は意中の女性がいる事を意味していた)
執筆者:藤崎 道雪
観えているのは、思想的な国体であって、国際政治の力学であって、異性の根源的衝動であって、同性の現象的理由であって、分析と結合という学術であって。
見えているのは、五元素であり、7色であり、姿形であり、質量と物性であり、文字ですらある。
それらを全て吹き飛ばしていくのが彼の音楽だ。
欲求や衝動や強欲が、観えも見えも破壊しつくようにではなく、優しく包み込むように中性子の流砂の中に放り込んでくれるように。
原子の粒ごとに分散させられるような無感動や無感覚で、やっと吹き飛ばしてくれるのだ。
もう、唾液や精液や血液の粘度がなくなっていく喜び
もう、肌色や白髪や陰毛の色素がなくなっていく哀しみも五月雨のような流砂の中で、さらさらと。
執筆者:藤崎 道雪
僕の右手を、ぐいと内側にまげて、ちょっとしたテクニックで胸の内側へ入れてみる
魂(たましい)という精神的な塊(かたまり)、というよりも命という肉体的な塊に近い手のひらサイズのボールを2,3個、コロンと胸の前の白い大きな机の上に投げ出してみた。おそるおそる取り出したのに、ボールの後を埋めるように血がドクン!ドクン!と鳴ってきた
コロコロと、手の届く限界で止まったボールを、ぼーっと見てみた
何だろうこの塊は 何か意味があるんだろうか 何か良いものなんだろうか 何だか悪いものなんだろうか
浮かんできた言葉たちに頭の中を占領されてしまったので、ぼーっと見てみた
命の塊であることは確からしい
お父さんやお母さん、死んじゃったおじいちゃんやおばあさんを見ていると、このボールが段々減っていって、しおしおのよぼよぼになっていったのが分かるから
そのうち私も白髪(しらが)みたいにボールのパワーがなくなっちゃう現象が起こるんだろうな
それにしてもこの塊、口から食べれるんだろうか?
それにしてもこの塊、壊れて消えたりするのかな?
それにしてもこの塊、大切な誰かに上げられないのかな?
それにしてもこの塊、誰かのをもらえないのかな?
おばあちゃんのようにボールの穴ぼこには、何か滓(おり)ような心理的な塊が入り込むのかな
おじいちゃんのようにボールの穴ぼこは、何か自信のようなものを全て吸収してしまうブラックホールなのかな
執筆者:藤崎 道雪
キラキラと七色に茶髪と黒服と囁(ささや)きと笑い声と酩酊(めいてい)と円(つぶ)らな瞳とファンデーションが輝くネオン
むわっとする香水と酒造の臭いに目を閉じて、GWを過ぎる生暖かい夏の風に身をさらさらと泳がせれば浮かび上がってくる涙に滴(したた)る白磁の肌
1つ、1つ1つ君の肌の中に真摯(しんし)な塊が積もっていく喜びの、そして変革していく驚きの、君自身の過去への哀しみの涙
与えられた本能とあふれ出して止まらない程の欲望と情動の世界の中で金品に還元できない、直ぐに蒸発していってしまう白磁の涙
執筆者:藤崎 道雪