また、人生の一部を切り売りしてしまった。
また、この肉体が老化していった。
また、この精神の中にシースノーが降り積もった。
まただ。
こうして過ぎ去っていった時間が取り返せない。
こうして追い去っていった肉体も取り戻せない。
こうして積み重なっていった末那識を振り払えない。
まただ。
愛しているよ、君を愛している。この世で今まで出会った人の中で、誰とも比較できないくらい愛しているよ。
ありがとう、本当にありがとう。この世でこんなに幸せな人間はいない。皆さんのお陰です。
呪いの言葉に変えたって、空の清浄な境地に置き換えたって、またの繰り返し。
いやいや、時間すらも超越する、といううたい文句だったな。ならば何よりも速いのだ。
錯覚よ、私は貴方に感謝します。
錯誤よ、信仰よ、前提の絶対化よ、論拠の絶対化よ、結論の絶対化よ、私は貴方方に感謝いたします。
左手と右手を合わせて叩き、それでも音が鳴らないのを知っているからなのです。
感謝です。笑いです。快活に智慧なのです。
まただ、とはもう言わない方々と一緒にるのが楽になるのですね。
もう分ってしまったのですよ。もう判ってしまったのですから、解ってしまったのです。
まただ。ありがとう。
ありがとう。まただ。
執筆者:藤崎 道雪
また とひとこと ぽろりと背がむいて
じゃぁ とふたこと すっかり背をむけて
だんまり さんこと のっそりのっそりとおのいて
はらはらが はらはら と
執筆者:藤崎 道雪
気も漫ろ
空も漫ろで、大雨前の静かな曇り空
なんだかだるさが残るが、それも昨夜の小さなホテルのレストランで食べた余韻なのかもしれない。
野菜ジュースを2缶キューっと飲むと、腹に何とも言えずググッと貯まって元気が出てきた。
そうそう、だるさの原因は、朝起きた時に右の奥歯の親知らずが鈍く痛かったからだ。
歯肉がはげてきて外側からめくれているので、歯磨き以外に楊枝がいるようになり、気が付くと舌で歯列を超えて撫でている。舌では取れないほどの溝になってしまっているのに。もう、癖だ。これがほんとの口癖だw
その小さなホテルのレストランは、ハーブのチキンが抜群に旨い。1200円で4分の1程を出してくれ、皮がかすかにパリっとして抑え目なハーブの品がいい。肉を食べたくなると、そこのチキンを思い出している。白いソファー生地の椅子も背もたれが傾き、店内がホワイトで統一されていて、キッチンが客席と同じくらい占めている。レンガ造りの大きな窓からは階下に歩く自然な姿が目に入ってくる。店内で満席になったことは無かったが、お昼は並ぶほどだと言う。夜に行くとショットバーのように暗すぎず、かといって居酒屋のように猥雑でもなく、コンビニのように不健康な明るさではない、ほっとする光量に懐かしさを覚えてしまう。そんな世界で、鼻をくすぐる仄(ほの)かなチキンの旨みとハーブの僅(わず)かながらの、ツン、とする香り。
午後4時を回る大部屋の外で、しとしとと葉を伝う灰色の雨ももう少し日暮れに掛かれば、
ほっとする光量になりそうだ。
気も漫ろ
空も漫ろで、大雨前の静かな曇り空
執筆者:藤崎 道雪