ものかき部

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「 合理的不具合の現象主義 」
2005年07月15日(金)



 強すぎる性的衝動がこの日常世界を破壊しつくし、再構築しろとせがむ。
 胸倉(むなぐら)に豪壮な太陽を放り込み、四肢の赤き血潮を滾(たぎ)らせてコントロールを奪い、脳までも湯豆腐を投げつけたように犯すのだ。
 それはこの肉体の前にある異性の死肉だけに反応するのだ。
 天使などもこの肉体の前の偶像化にすぎないのだから、この日常世界を瓦解させようとする。

 安寧の世界などありはしない。
 彼女だ! 彼女だ! 目の前の彼女だ! 目の前のものなのだ! 目の前の死肉なのだ!
 決して決して、抽象的な美そのものではない。決して決して内臓やその中の便や脳ではない。
 ただの、皮や筋肉や骨格や脂肪やそれらの動きだけなのだ。

 10年で何とも醜く悍(おぞま)しく朽ち果てていく死肉でしかないのだ。
 そのためだけにこの永遠の真理を内包した世界を破壊尽くそうと、この肉体の持つ充満したエネルギーすらも全て全滅させようとするのだ。
 それで良いのだ、と祈れ。あかんかった、と縋(すが)れ。哀しいよ、と歩き出せ。それだけなのだ、と取り込め。
 
 安寧の世界などありはしない。
 彼女だ! 彼女だ! 目の前の彼女だ! 目の前のものなのだ! 目の前の死肉なのだ!
 決して決して、抽象的な美そのものではない。決して決して内臓やその中の便や脳ではない。
 ただの、皮や筋肉や骨格や脂肪やそれらの動きだけなのだ。

 観えてくるのは永劫に広がる性(さが)の世界と、永遠の種の営みと、懺悔と後悔と肯定と衝動と感情と個体の高度化とそれらの結合だ。
 そして最深部に現れ出す、過ぎ去った数々の死肉とそれらへの衝動の残滓(ざんし)が。
 私は彼女を愛している。
 最も一般的な意味においても、最も根底的な部分においても、自らの信条を裏切っている点でも、自らの肉体の形骸化に足を捕られている点でも、愛している。
 そうだ、私は彼女を愛している。 


追記:原題は「私は彼女を愛している」です。ものかき部 2003年05月15日(木)「夕祭り街」を参照して下さい。

執筆者:藤崎 道雪

「 光りに順位を 」
2005年07月02日(土)



 額から自然と汗が吹き出して、汗の球のようにキラキラと太陽を反射した。
 サドルの下から上がってきた強い風が、キラキラに口付けをして吸い取っていく。
 強い風に連れられて視線を空へと広げていくと、ますます目が細くなった。

 ささやくように何百枚と揺れている鶸色(ひわいろ)。盛り上がって圧し掛かるような萌葱(もえぎ)が、反対の左側からは裏葉柳(うらはやなぎ)が更々と細長く踊っている。数本の幹や葉に見え隠れする枝のオーブグリーンがアクセントをつけながら、若竹色の向こうに全てに降り注ぐ煌(きらめ)きが天使のように笑い合いながら捉え所なく流れていく。
 瓶覗(かめのぞ)き色に変わったお堀の石の上には、濛々(もうもう)ビリジャンが溢れ出していた。

 この吹き抜ける風に、神を感じる。
 この吹き抜ける風に、神を信じる。
 この全ての世界を規定した、この1つ1つの事象に、と区別する前に神を信じる。

 決して鉄道の駅の出口に立った人々に導かれるのではなく、決して本来的に生じた汗が風を感じさせてくれたのを謀殺するのではなく。

 両瞼(りょうまぶた)を茶煉瓦(ちゃれんが)の歩道に戻しながら、神はもう、遥か後方に吹き抜けていってしまった。
 汗まみれの首をねじっても、言葉によって書きつけようと追いかけても、沈黙によってすらも。
 お堀の前の道路にあたって、ボロボロになったサドルを右にきっていった。




追記:原題は「神と順位」。RAMJAの「光り」に共鳴したので改題。
   題の「順位」は、順位付けから神が生じることを強調するため。字義主義の基礎となる→神秘主義の基礎となる→個人内にしか存在しない神秘体験がテーマ。その神秘体験に順位付けという合理性を持ち込むことで他人との共有という宗教、その中心である神が生じるので、「順位」を題名に。

執筆者:藤崎 道雪

「 駅ホーム 」
2005年07月01日(金)


 する前の女の何と憐れな様よ
 した後の男の何と哀れな物よ


(梅雨晴れの冷気を漂わせる深夜のプラットホームにて)

執筆者:藤崎 道雪

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