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「 虎鶫捕捉(とらつぐみほそく) 」
2004年08月15日(日)



 満たされているだろう。満たされていないだろう。いや。

 満たされているだろう
 永遠の真理を実感として感じ言葉に出来、人生の目標を達成したのだから
 衣食住に不自由なく世界一の安全と清浄な水と、温暖な気候と温和な気質に囲まれているのだから
 家族が健康で少ないながらも友人が居て、スポーツと勉学の環境が人間関係で阻まれていないのだから
 満たされ過ぎているだろう

 満たされていないだろう
 一瞬の至高が消え去った後の喪失感に苛まれているのだから
 年老いて肉体は低下し、死へと進行している不安感は拭えず、どこまでも悟りの境地に留まれないのだから
 真に恋焦がれる人には会えず、自らの全てをさらけ出すことすら出来ず
 感情の全てをぶつける人、まさにその人から遠いのだから
 満たされていなさ過ぎであろう

 2つの間で揺蕩いながら、電磁波が原因のような頭痛だけがつなぎ止めている
 左側頭部から無限に広がっていく灰色の砂嵐が過ぎ去って、舞い上がったパラパラという砂の音も去っていく
 此処にあるのは、何と言えば適当なのだろう
 此処にあるのは、現象世界の何と類似しているのだろう
 世界の認識を狂わせた頭痛が去ったのに爽快感がなく
 かといって過ぎ去った瞬間ゆえに停滞感もなく
 純白や純黒一色になって生まれる強い無機質感でもなく
 有彩色を消え去らせた無常感を灰色の曖昧さが揺蕩わせる

 パラパラと落ちる砂が重力と地上という現実感を与えるのに
 行き来しながら音や肉体も奪われるような、その剥奪感すら遠のいていく
 タンタロスの飢渇すら、テトロドトキシンの麻痺痙攣すら、全能感の瀆神すら、簸川の伝説すら、
 懐かしく感じるような、とでも言えば適当だろうか

 満たされているだろう。満たされていないだろう。いや。



 読み注記;「虎鶫(とらつぐみ)」「至高(しこう)」「喪失感(そうしつかん)」「苛(さいな)まれる」「拭(ぬぐ)う」「揺蕩(たゆた)う」「此処(ここ)」「爽快感(そうかいかん)」「奪(うば)う」「剥奪感(はくだつかん)」「飢渇(きかつ)」「麻痺(まひ)」「痙攣(けいれん)」「瀆神(とくしん)」「簸川(ひのかわ)」「懐(なつ)かしい」
 意味注記;「虎鶫(とらつぐみ):スズメ目ツグミ科の鳥。体長約30センチメートル。夜間ヒョーヒョーと細い声で鳴くので、昔からヌエと呼ばれて気味悪がられた。別名「黄泉鳥」 季語「夏」」 「タンタロス[Tantalos]:ギリシャ神話で、小アジアの一地方の王。ゼウスの子。神々の怒りを買ったため地獄に落ち、永劫の飢渇に苦しんだ。」 「テトロドトキシン[tetrodotoxin]:フグ毒の成分。微量でも呼吸筋や感覚の麻痺(まひ)を起こし、死亡する。」 「瀆神(とくしん):神の神聖をけがすこと。」 「簸川(ひのかわ):出雲系神話に出てくる川の名。島根県東部を流れる斐伊川(ひいかわ)をこれに当てる。素戔嗚尊(すさのおのみこと)が八岐大蛇(やまたのおろち)を退治したという伝説がある。」(いつも通り『大辞林』より引用)
 その他注記;題字の「捕捉」は「補足」の隠喩も持つので「虎鶫捕獲」とはしなかった。 「「手偏を取る」=「肉体を取る」=「肉体から離された状態」=「虎鶫を補足すること」≠「虎鶫に捉われること」、が文中の意味と重なるので」

執筆者:藤崎 道雪(校正H16.8.26)

「 正銘照明(しょうめいしょうめい) 」
2004年08月01日(日)



 失礼して上から見下ろしているから、皆さんの視界には入りません。
 だから皆さんの細かい仕草を、遠慮なく見ることが出来ます。
 仕事なのかスーツ2人組みの男性が話しています。一方はまくし立てるように、他方はキョロキョロと引け目を視線で現したりして。
 なになに・・・?

 ああ、金融商品のお奨めなんですね。

 あ、毎日のようにくるおばあさんが、今日もカフェオレとアンパンをトレイに乗せて奥の席に座りました。
 奥の席はオレンジ色のソファーになっていてお気に入りの席で、このカフェ一番の特等席です。
 いや〜おばあさんはあの席で、本当に美味しそうに両手であんぱんを大切に食べます。
 食べ終わると、時々カフェオレを口に運んでニコニコしています。

 お昼時を過ぎると、OLさん、学生さん、カップルさんたちがパラパラと入ってきます。
 OLさんはきっかり15分雑誌を読んでいきました。学生さん2人は携帯メールに夢中で全く会話しません。会話を聞くのも好きなんですがね〜。カップルさんはまだ初々しいですね。女の子の方が席を乗り出して頬を染めています。男の人は20歳くらいの年上かな、茶髪でイケメンでちょっとふんぞり返り気味だな〜。
 
 座席30席の小さなカフェはちょっと引っ込んだ位置にあるので、常連さんが半分くらいでゆっくりとした雰囲気。
 夕飯時になると、パラパラっと2,3席になります。そんな時にくるスーツの男性もいます。いっつも漫画を読んだり本を読んだりしています。ちゃんと仕事してるのかな〜ぁ・・・
 8時頃になると大繁盛。
 といっても少々がやがやするくらい。夜の華やかさがこのカフェにもやってきてお喋りの中で楽しそうに遊んでいきます。
 何と言ってもこのカフェのイチオシは、新作のマンゴジュース。色も味もソファーにマッチしているし、夏だから体にもいい。夜は夜の心軽さからマンゴジュースが半分以上ですね。
 
 今日も皆さん楽しそうに会話したり、本や漫画を読んだり、商談したり、恋を語ったりです。
 そんな皆さんをそっと照らすのが私の役割なんです。

執筆者:藤崎 道雪(校正H16.9.1)


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