どかり! と白い洋式にすわり、プゥ! と屁がでた。
あぁ〜 と大きく息を吐き、高くない鼻を大きく開く。
ゴァ! っとくさい放屁が襲ってきて、トイレが壊れそうな大声を立てて笑った。
深呼吸した時のように頭がしっかり澄んでくると、木製の濃茶の扉、左右の白壁、
足の下にある黄色のトイレマットが次に視界に浮かんできた。
今は誰もいない木造平屋の一軒家。
ガラガラと開けるとドアよりも暗い茶色の廊下の先に、玄関がみえてきた。
午後の日差しが、閉じたガラス戸に淡く差し込んでいた。
立て付けが悪いので、涼やかな秋風がしかめっ面を撫で抜けていった。
もう1度 プゥ! と屁をこいた。
執筆者:藤崎 道雪 (校正H15.9.27 )
彼女にあったのは、コンパだった。
コンパなんて正確には言えないような飲み会だった。
久しぶりの再会だからと会いに行ったら、待ち時間にナンパしていていやがった2人の中の1人。
「全くこいつは大学時代からだよ。女で左遷させられたのに」
と一瞬思ったけれど、友人Kあっけらかんと言い放った。
「お〜久しぶり。やっぱり華がないとないとなぁ〜」
と語尾を上げていたし、いっものアクセントだったし。
2人は高校時代の友人らしくそんな話をテーブルに蝋燭を照らすようなお洒落系の店でざわついていた。
友人Eはいつもの明るい調子で話を聞かずに、話題を共有していた。
俺はニコニコとして、ひたすら料理を食べR子を眺めていた。
「ああ、やっぱり似ているなぁ」と。
R子が似ていたのは大学時代に付き合っていたE子とS美だった。
E子は情熱的で性にはおおらかな感じ、S美は芯の強い女性の美しさを持っていた。
二の腕から手首のラインはE子に、指の関節と美しいラインはS美に。
腕の毛深さもS美で二重の零(こぼ)れ落ちそうな二重はE子だ。
髪質はS美なのに、肩越しのバサバサな感じになっていた。
お決まりのホテルのショットバーというコースへエレベーターを上がる時、R子を強引に友人から引いた。
まあ、2人の趣味はかち合わないから同じ会社でも険悪にならなかったのだけれど。
スプモーニを彼女に代わって注文した後に、「子持ちのバツイチなの」って言ってきた。
あ〜これでまた旦那の悪口かよ、って思ってうんざりした。
案の定だ。
俺は話題が下手だし気分の傾きが相手に伝わってしまう。
あいつは気に入っていなくてもエレベーターを2人で昇っていくだろうし。
椅子をR子へ向けて横並びだった視線を向かい合わせるようにした。
「どうしたの?いきなり」
という質問には答えないで、話題を乗せていた。
「とても魅力的な目だからもっと見たいんだ。いいだろう?」
「ぷ・・・なんてこというの? 可笑しな人ね。よく言われるけどね(笑)」
「もっとゆっくり見たいんだけど、部屋でもっともっとじっくりね」
もう、E子でもS美でもR子でも、だれでも良かった。
もう、欲望に身を引き裂かれるのは、どうでも良くなかった。
「くだらない。なんてことをしているんだ」と一方で感じながら、「思い出にひたってるだけだろ」と聞こえてきた。
「どうでもいいのだから。どうでも良くないのだから」という声を強めた。
1つ1つ壊して大人になっていくという方法しか、俺にはなかったみたいだ。
自分に正直にあろうとして、自分の気持ちと倫理観に忠実であろうとして、
自分の記憶が宝物だと勘違いしたのだから。
執筆者:藤崎 道雪 (校正H15.9.20 )
いつものことさ。そういつものことなんだ。
もう彼女の性格は解っていたじゃないか。
そういう側面があるって影がありありと見えたじゃないか。
「それ」が、ちょっと分りにくい所にあって、
けれど見つけられるようにして、自分ではそんなことにすら気がつかないで。
自分ではそんなことに気がつかないのに、俺がショックを受けるように、書いている。
そうやって自分を捨てて欲しいという、感覚を「それ」の裏に隠している。
けれど、見て欲しいという叫びも「それ」の裏に隠している。
そして自分では、全く見られることを想定していないと無意識を疑わない。
いつものことさ。そういつものことなんだ。
ただ、それが無性に悲しいだけ。
「それ」の内容も。
俺も。
彼女も。
2人を理解する知性も。
そしてこの世界が時間によって終わっていくのも。
超えられない時間と存在の壁。
保育園のブロックのようには崩せない壁。
ただ、それが哀しいだけ。
くだらなく哀しいだけなんだ。
いつものことさ。
そういつものことなんだ。
執筆者:藤崎 道雪 (校正H15.9.4 )