「なーなーおかあちゃん。なんでいったらあかんの?」
「あかん、ゆうたらあかんねん」
「なーなーおかーちゃん!! おとんのとこになんでいったらあかんねん」
「あ・か・ん」
「おかんはおとん嫌いなん? おとんはあかんの?」
「うっさいな〜ほんまに、この子は」
「なーなーおかーちゃん。うちはおとん好きやねん。すきすきなんよ」
「うっさい!!」
「・・・・・・おかーちゃん嫌い!!」
「・・・・・・おかーちゃん・・・・・・・」
「おとーちゃんは病気やねん。あんたに移ったらあかんやろ。だからやねん。」
「ふーん。でもおとんは元気そうやったで。この前、おもちゃもこーてもーたし」
「え!あんたそれ知らんで!」
「あ・・・・・・おかーちゃん、ないしょにしとってな。いわれてん、おとんに、おかんには内緒にしとけよぉーって」
「内緒やでおかーちゃん」
「ほんまにしょうがない子やね。ほんまあの人の子供やわ」
「えへへ」
「えへへ、ちゃうやろ」
「なーおかーちゃん、内緒にしとってな。そうじゃないと悪もんやん、うち。」
「分った分った。だから、おとーちゃんに会いにいったらあかんねんで」
「えーなんかずるない? でも内緒やでー。」
「・・・」
「なーなーおかーちゃん。おかーちゃん」
「なにー?」
執筆者:藤崎 道雪
椅子の上で背中を反ると、タペストリーの海豚が縦に三匹見えた。
その後ろに太陽の印、内側に黄色で外側に赤色の虹が見えた。
さらに背中を反ろうと、体に掛かっている安全装置を外す。
体はカチカチと装置を外され弛緩していく。
体はダランとなり、ズルッと大きい音と立てたように曲がっていく。
頭への酸素の供給が過剰になったのか、不足になったのか、世界が、ぼやけて来る。
「このまま・・・」
「このまま、背中をもっと反れればいいのに」
「このまま背中をそれば、脊髄が折れて、胃を破り胸骨を突き抜ける。」
「突き抜けた脊髄は頭脳の重さで天井に垂直になるだろう。まるで棒倒しの棒のように。」
「さらに体は弛緩して、手は床の青白い絨毯に投げ出されてダラリとのたれ、
頭はタペストリーより下の風景に霞みを翔けるだろう。」
「脊髄から流れ出す鮮血が顔に掛かり赤々と目を覆う。
黄色で透明がかった脊髄が、最後にやってくる。」
「私はやっと、あの太陽の中に帰っていける。」
読み;「脊髄(せきずい)」、「海豚(いるか)」、「弛緩(しかん)」、「絨毯(じゅうたん)」、「霞(かす)み」、「翔(か)ける」、「鮮血(せんけつ)」
執筆者:藤崎 道雪
夢の中で、藤田に霧の向こうから呼ばれたよ、と最近見つけたカフェで告白した。
藤田とその彼女と私で軽く食事をとっていた時だった。
「死ぬならそれで仕方が無いな。しょうがないね」と、藤田は、スッパリと言った。
それまで、「スパゲッティ‐が美味しい」だの、「彼女はいるの?」だの言っていた彼女さんが突然発言した。
「冷たいのね。だから、貴方は友達がいないのよ、全く。」と。
2人は大笑いした。
「死ぬのは止められない。ただ、俺はそれを哀しむしか出来ないよ。」と彼は続けた。
「だからよ!!」
さらに壱オクターブ上げて叫んだ。今にも立ち上がり机に手をついた。
「だからよ!! だから、そんなんだから浮気するんだわ。優柔不断なのよ。全く、いつまでたっても・・・」
立ち上がって、遠くの心地よいスカイブルーを眺めている。
長い睫毛の間に、青空がクリクリと輝いている。
また、そこで話が切れた。次が始まるまで2人は彼女の顔を見ている。
「なによ。なんで見てんのよ。何もでないわよ。」
ドスン! っと乱暴に席についてみせた。
私は、「だから、やっぱり鏡だね。」と続けると、
彼は「いや、際立たせるしかないでしょう。そういう別枠じゃないかな。」と言った。
2人は爆笑し、「何はなしてるのよ。さっき話を誤魔化したからでしょ〜全く」と、
ブランチは深まっていった。
執筆者:藤崎 道雪 (校正H15.9.4 )
拝啓
北東では深々と降り積もる雪達が、音を吸収して静寂だと思っておりました。
けれど、霜月にも入ると東海でも静かに夜が暮れていきます。
葉月の田のように、立ち込める水蒸気も、稲穂が揺れる音も、
蟲のざわめきがなくなっているのですから。
深々と包み込まれるような寒さに、中旬を過ぎた月は数日で満ちようと白銀のように駆けております。
白銀の輝きを享けて、紺色の瓦屋根は海の波に反射する波紋のように揺れながら、
テラテラと溟さを掻き乱されて、純白が散っています。
天空に隔絶した月のまわりに、完全な円形となったオイスターホワイトの霧が5倍もの同心円を広げ、
その縁に、微かに緋色や空色の薄化粧をしています。
けっして月よりも明度も輝度も密度も、半分も求めずに、いじらしいオイスターホワイト。
満月でなくとも、完全な円形を広げて栄枯満欠を包み込んでいる。
曇天や雨天という障害には何も役には立たないけれど、時を経たならば、優しく包み込む乳白色。
万事順調な晴天が続く時には、影も踏まないように現れないでいる。
そんな白がみえています。
敬具
読み等;「静寂(せいじゃく)」、「霜月(しもつき)」、「享(う)けて」、「溟(くら)さ」、「掻(か)き」、「隔絶(かくぜつ)」、「微(かす)かに」、「緋色(ひいろ)」
注;「霜月(しもつき)」は旧暦の11月の別称。なので、その後の「中旬」は旧暦(月を基準にして出来た陰暦)の意味であり、月の満ち欠けを暗示している。「駆け」は「欠け」も。
「溟(くら)い」は、大海の深く暗いの意味。色で言えばミッドナイトブルーか。文中の「海」を享けて。
「栄枯満欠(えいこばんけつ)」は、「栄枯盛衰」に引っ掛けた造語
「みえています」は、普通の意味での「見える」の他に「観える」と「看える」を入れて多義的にしたかったから。そうして間接的な表現にしたかったかったから。「観える」、農耕儀礼に由来するこの文字は、呪的にその対象を支配するの意味があり、女性的な束縛を意味する。「看える」には、手を目の上にかざして望み見るの意味があり、月に象徴される相手を取り巻くようにしたい作者の望みと、実際上の月を仰(あお)ぎみるような心理の2つを含む。
執筆者:藤崎 道雪