ものかき部

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次回短編のお知らせ。
2002年10月30日(水)

ものかき部です。

次回の短編での3つの約束事を決めて、
その制約の下で作品を書くこととなりました。
先に約束事を発表させていただきます、
どうか作品も楽しみにお待ちください。


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【1】同一キーワード使用
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ロイヤルパープル、毛布、ゆび

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【2】同じ最初と最後の一文使用
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最初:雨水が樋に跳ねる音が聞こえた。
最後:雨水が樋に跳ねる音が聞こえる。

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【3】同一主人公名(人間に限らず)使用
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ユズ

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凶状(きょうじょう)
2002年10月19日(土)


  聞きなれない山村へと向かうトンネルに車を走らせていた。
  明らかに、トンネルの中央から下りが続き、出ると益々傾斜と気持ちはきつくなってきた。
  立ち込める霧の中、しばらくすると傾斜が緩くなって人家が見えてきた。
  1キロもしない内に聳え立つ緑の山々までが、人の住む範囲のようで、全て北東へ下る斜の上にある。
  その中を灰色の道路が血管のようにウネウネと這いずり回り、紺色の家が細胞核、
  薄い緑の植木がミトコンドリア、赤土の畑が細胞質のように奇麗に区分けされている。
  自然に、傾斜の最下部まで車を寄せていった。
  外に出ると涼しげな空気が、山を越える前までの春を打ち消していった。
  思わず身を屈めて腕を体に巻きつけた。

  立ち止まりながら私達は散策をしていた。
  体が温まると共に視界が上がって行く。
  南西の山はさらに高く、そして日が差し込まれた遥かな緑が、エメラルドグリーンのように光り輝いていた。
  雨の後だったので、光り輝く宝石のような緑一色だった。

  強い風がまた、霧を連れてきたようだ。
  私は、そそくさと車の方へと急いだ。
  影すらも見えなかった人を気にしながら、車へと怪しまれないように辿りついた。
  振り返って北西方向を見ると、今生ではない眩さが足の緊張感を取り除いた。

  エメラルドの山が見え隠れするように覆い被さる雲海から、
  強風で舞い上がった淡いピンクの桜の花びらが雨のように降り注いでいる。
  何百年も自然と苦闘してきた箱庭の世界に、人々の苦悩と餓えの哀しみを現すかのように、乱れ揺れながら。
  降っては北東の壁で舞い上がって、また、雲を伝って行く淡いピンクは、目の前に桜の驟雨を生み出した。
  台風のように吹き付ける花びらは、霧と交じり合い虹のように七色の至宝のグラデーションを享けていた。
  雲海の下に狂い流れる淡い桜色と七色の向こうに、エメラルドの塊が見えていた。
  人と天との地合いが、肉の穢れを洗い流して行くようだった。



付記 
「凶状(きょうじょう)」;凶悪な罪を犯した事実。罪状。
「傾斜(けいしゃ)」 
「聳(そび)え」
「這(は)い」
「屈(かが)めて」
「遥(はる)か」
「辿(たど)り」 
「今生(こんじょう)」;この世。生きている間。「前生(ぜんしょう)」-「今生」-「後生(ごしよう)」
「眩(まばゆ)さ」
「餓(う)え」
「揺(ゆ)れ」
「驟雨(しゅうう)」;急に降り出し、強弱の激しい変化を繰り返しながら、急に降り止む雨。前線または雷雨に伴われたものが多い。夕立。秋の季語。
「享(う)ける」;天から与えられた状態が自然と生ずること。
「地合(じあ)い」;布地の品質、詞(ことば)以外の描写的な部分。
「穢(けが)れ」



執筆者:藤崎 道雪


結婚
2002年10月04日(金)

結婚結婚、と世の中の女性はある年齢になると目の色を変えて騒ぎ出すようだ.私にとってはそんなものは単なる自己満足なんじゃないかと、妻の当時を思い出して考える事がある.

 結婚前の妻はファッションにも化粧にも気を遣ってたいい女だった.仕事では周りの男性さえも一目を置くような.私から言わせてみればパーフェクトだったのであるが、どうして私と結婚なんてしたのであろう.さて、結婚当初は羨ましがられる事が多く、私は劣等感に教われる事を習慣付けられた.「お前の奥さんは綺麗だ」とか「お前にはもったいない」とか.街でしばしば見るような、いわゆる美女と野獣カップルには私と妻のような事情があるのではないかと思うのだ.

 「女は優越感を持ちたがるという事」

 パーフェクトな彼女だからこそ、私などと結婚したのではなかろうか、と予想してみる.不細工な女がパーフェクトな男を求めるのと同じように.不思議な事に芸能人(私は余り詳しくないのだが)にも「美女と野獣」の傾向は多いようだ.

 さて、これまで話してきた事はあくまでも、結婚当初の妻を思い出して書いたものであるからして、現在の妻の様子は語るに耐えない.少なくとも子どもには「お母さんは授業参観には来ないで」と言われるまでになった、とだけ追記しておこう.

ヴェカンヴェ

短編テーマ『結婚』
2002年10月03日(木)

執筆者名をクリックすると作品に飛びます。





いおり
藤崎 道雪
ヴェカンヴェ

結婚
2002年10月02日(水)

もし今日が人生最後の日だって言われたら君はどうする?


僕の職場はその話題にランチブレイクを占領された。
くだらない不謹慎なジョークだってみんなわかって言ってるんだ、もちろん。
だって人生最後の日なんて言われて誰が信じる? 信じないだろう?
僕ならサイキックのミス・ぺトラにお前は今日死ぬなんて言われても信じない。


ある者はネヴァダの親戚に会いに飛ぶと答え、
またはマサチューセッツにいるママのクラムチャウダーを食べに行くと言い、
ニューオリンズのゲロ臭いバーボンストリートで酔っ払いながら死ぬと笑い、
また別の者はフロリダの太陽にうたれてくると夢のように語ると
別の誰かがカリフォルニアのヒップなサーフガールも悪くないぜと応酬する。
僕のいちばん仲がいい同僚、ジェレマイアは唇をシニカルな角度に歪め、


「俺だったらそこら辺の女と寝まくるね、死ぬんだったらSTDも怖くないだろ?
ヘルペスなんか糞くらえだ」


そう言って男たちの笑いを誘った。
ジェレマイアはこのあいだ恋人にSTDをうつされたばっかりなんだ。


「で? チャッドは何するんだ?」


ジェレマイアのジョークに腹が攀じれるほどひいひい笑って、
まだ目に涙を浮かべたまま同期のクレイグが僕に水を向ける。


「えぇと、俺は…ワイフと一日一緒にいる、かな」


クソッタレ! お前ら聞いたか? 聞いたよな?
男たちは食べかけのベーグルサンドイッチを置くと一斉に口笛を吹き鳴らし、
オフィス街の小汚いデリはちょっとした式典の場と化した。


「チャッド、ワイフはベッドで尽してくれるか?」
「お前は何回結婚したら気が済むんだ? ルシンダで3人目だろ?」
「そりゃあルシンダは美人だもんなぁ」
「俺だってケイトがルシンダぐらい美人だったらそりゃ一緒にいるさ」


男たちの下劣なジョークにあてられて僕は携帯を片手に席を立つ。
そうだ、ガムも買わなきゃいけないからついでにドラッグストアへ寄ろう。
僕はルシンダが美人と言われたことにすこし気を良くして、
周りをすばやく見回し、道路を渡ろうと車道へ一歩踏み出しながら携帯のスピードダイアル001番を押す。 001番は彼女の永久欠番だ。


結婚して間もない僕のルシンダ。
僕がこうしてルシンダを思い出す時、僕はさぞかし間抜けな顔をしているに違いない。
彼女と結婚してから、僕のシャツはいつもきれいにアイロンがかけられて皺一つないし、トイレットペーパーだって絶対に切らさない。 僕の大好きなベン&ジェリーのアイスクリームは欠かさず冷凍庫に常備だし、僕たちのアパートはとても清潔で、彼女のつくるキャセロールときたら天国みたいに美味いんだ。 彼女は重要な仕事をしていて何人も部下を抱えているし、仕事は絶望的に忙しいのにも関わらず、だ。 まだ29歳なのにちょっとすごいだろう?


呼び出し音が4回鳴って留守電に切り替わる。
ひょっとするとランチ後の恒例会議中かもしれない。
僕は道路を渡りながら携帯を左耳に押し当て、右耳を反対の手で塞ぎながら周りの喧騒に負けない大声で7時には帰れそうだとメッセージを残す。 もちろん、メッセージの最後にアイラブユーと付け加えるのだって忘れない。


ただ、僕は失敗した。
いつだったか、僕が仕事でミスをして8000ドル近くの負債を出してしまったことなんて比べようもないひどい失敗だ。 僕はルシンダの携帯にメッセージを残すのに夢中で、周りを見ていなかったんだ。


携帯の電源を切って、気が付いたら僕は車道の真ん中にいて、3メートルばかり離れた右手に大型トラックが迫っていた。 盛大にクラクションを鳴らして。 ものの1秒が僕には永遠に続くように思えた。 あと10秒、10秒もいらないかもしれない。 僕は安っぽい新聞のように軽く宙へ投げ出され、何億万回と踏み均された冷たいアスファルトの上でリグリーのガムみたいに平べったく押し潰されるんだろう。


ああルシンダ、僕はもう帰れないみたいだ。


結婚
2002年10月01日(火)

もう結婚して10数年が過ぎた。
子供も手が離れてきたし、妻との生活も遠くなってきた。
仕事も順調に係長まで昇ったし、社会的地位も銀行の信用も、親類の配慮も手に入れてきた。ゴルフのスコアが100を切らないというのが、目下の最大の悩みだ。


 爛(ただ)れた学生生活は上京して終止符が打たれた。そこから始まったのだった。遠野平野から北陸のしがない国公立に進学して、冬のどんよりとした空、豪雪に最初は驚いて喜んだものの、直ぐに飽きた。数々変った彼女も同じで、東北以外の地方から殆ど進学してこないせいで、女性の深い部分は似たり寄ったりだった。彼女らの何人かと深い仲になって喧嘩になると、口応(くちごた)をせずにじっと耐えているけれど、最後にはヒタヒタと忍び寄ってくるのが解かりだした。雪と同じように、その暗い情念に厭(あ)いたものだった。雪のように白い肌と黒豆のように輝く髪の魅力に逆らうことはできなかったけれど。
 雪かきをしていない底なしへと落ちていくように乱れた生活をしていて、その脇で学業をしていた。女に金をせびるのは常だったし、何かにつけ北陸の悪口を言いながら鬱憤(うっぷん)を晴らしていた。3人が3人とも、それらにじっと耐えて金を置いていくのだった。
 盆と正月には嬉々として実家に帰り、カラカラとして唯一雪の積もらない平野で友達と興じていた。帰郷前後のそんな嬉しそうな表情に何1つ文句も言わなかった。ただ1つ例外だったのは、東京の会社に就職した後、住所を教えていないのにも関わらず、元彼女と元々彼女から電話がかかってきたことだった。親友や彼女にすら伏せていたのにも関わらず掛って来た。もちろん、地元の会社に就職すると言っていた彼女からも1ヶ月も経たないうちに電話が鳴った。
 3人とも上京した件は口にも出さず、ましてや責めることはしなかったが、逆に、それは彼女達の何とか捕(つか)まえておきたいという気持ちの現れに、私には感じられたのだった。雪は白く、そして何より年月を経ると固まって行く。彼女達というのも、もしかしたら、私という南方からの熱によって結晶体を液化して固まったのかもしれなかった。


 妻には、対照的にハキハキとしていた職場の女性を選んだ。
 もう、あの雪の中の重々しさにウンザリだった。
 しかし、口数が多すぎて辟易(へきえき)しだしたのは結婚3ヶ月目で、それ以来も増加し続けで、今では立派なオバタリアンの仲間入りを果たしている。口数と共にデリカシーは減ってしまい、女性としての魅力が激減した。あれほどお洒落に気を使っていたのに、1回目の育児で全てを捨ててしまったようだ。南国のアッパラパーな猿のように、キィーキィーと五月蝿(うるさ)い。
 かといって、北陸の雪に身を戻すには躊躇(ちゅうちょ)があった。
 結婚して2年目、出産で家を離れている時期に、どこで知ったのか最後の彼女からまた掛ってきいていた。今は叔母の洋裁の手伝いをしているという。互いに30歳になっていたのだから、北陸では晩婚になる彼女は見合いもしていないと言っていた。何度か火遊びをしようか、と思ったけれど、仕事が忙しすぎてどうにも動きが取れなかった。


 あれから7年が過ぎて、すっかり気持ちは落ち着いている。
 大きな悩みはない。
 けれど、ふと、足枷(あしかせ)について考えることがある。
 猿の足枷も確かに退屈で五月蝿くて極まりなく、そして自分がいなくても家の生活が回っていくのだ、という絶望感に似た不安が付きまとう。けれど、雪の足枷もまた何かがあるのだろう、と考える。足枷はどの足枷にでも沼のような底なし感があるような気がしている。猿の足枷には社会からのご褒美(ほうび)が用意されていて、ない人はそのご褒美にだけ目がいって羨(うらや)む。雪の足枷にも個人的なご褒美が用意されていたのだろうし、褒美も底なし感も両方感じられている。世間様には見えにくいだけで何となく予想できるように思う。

 
 もう観念はしている。
 けれど、この枷が、後40年も続くのかと思うと、人生の半分以上に渡って続くのかと思うと、気が滅入(めい)ってくるのも確かだ。だからといって、雪に移り、そして新しい枷を着けるのも同じようなことになるのだろう。
 いや、そう考える事自体、枷に落ちた考えに違いない。
 本の伝記に載っている人々は、離婚した親友達や、独身を通している彼らは、時に枷を羨(うらや)ましがりながら、強烈な意志の光りを発して、輝いているのだから。老後と死後の一瞬のためだけに現在を犠牲にしてはいないのだから。猿を撃ち殺し肉を抉(えぐ)り出し、雪を融(と)かして蒸留水を精製し、人生の糧(かて)としているのだから。


 けれど、そう、けれど。
 けれどなのだ。
 私には、いくら頑張っても喰らい尽くせない分身がいるのだ。
 そう思い込まされて、意図的に思い込んで、自分の能力の減退を引き起こすのが、「結婚」というものだから。


藤崎 道雪


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