重松清 新潮文庫 2005
STORY: 父の仕事の都合で転校の多いきよしは、いつからかどもるようになり、人との会話がうまくできず、時にはトラブルを起こすことも…。
感想: 重松清の本はほとんど読んだことがないので、著者の経歴も知らないのだけれど、これはちょっと自伝っぽい小説なのかな…。
主人公の少年は「きよし」。子供の頃、何も言わずに祖父母のもとに預けられ、両親が消えてしまったことにショックを受け、そのことがきっかけとなったのかはわからないのだが、どもるようになってしまう。
転校が多い少年は、自己紹介のときにどうしても自分の名前をうまく言うことができず、人とうまくコミュニケーションを取ることができない。
「きよしこ」というのは、少年の想像が作り出した幻の少年で、彼が吃音に悩んでいたときに現れて、彼にアドバイスをして、消えていく。
この「きよしこ」が毎回現れるのか…と思いきや、最初と最後だけしか出てこない。
結局、きよし少年は自分の力で人生を切り開いていくのだが、どのストーリーにも学校に通ったことがあるならわかるなぁ…と思うような部分がある。
私は転校はしたことがないのだが、転校生の気持ちって複雑なのかもな…と少し思った。
2009年02月22日(日) |
ベンジャミン・バトン 数奇な人生 |
ハリケーンが近づく中、病院ではもうすぐ死を迎えようとする母を娘が見舞いに来ていた。母は娘に日記帳を読んでくれるように頼む。その日記帳には思いもかけぬ母と自分の生い立ちの秘密が隠されていた。
産まれたときに80歳で、そこから若返っていくベンジャミン(ブラッド・ピット)。出産時に母は死亡。母に息子を頼むと言われた父トーマス・バトン(ジェイソン・フレミング)は、息子のしわくちゃの顔を見たとたんに走り出し、息子を老人ホームの階段に置き去りにする。たった18ドルをおくるみに包ませて…。
たまたまベンジャミンを見つけたクイニー(タラジ・P・ヘンソン)は、子供ができない体だった。信心深い彼女は、これは奇跡だと思い、誰もが見捨てるような赤ちゃんを拾い、自分の妹の子供だ…と言って育てることにする。誰もが長くは生きられない…と思っていたが、ベンジャミンは車椅子に乗り、やがて自力で立てるようになり…。
そんなときに出会ったのが、老人ホームに入居する祖母を見舞いに来ていたデイジー(ケイト・ブランシェット)。彼女はなぜか老人の身なりをしたベンジャミンに子供の魂が宿っているのを感じる。二人は意気投合する。
やがてベンジャミンは自力で働くことができるようになり、マイク船長(ジャレッド・ハリス)の船に乗って、世界を旅することになる。デイジーとは文通のやりとりをしつつ、人妻のエリザベス(ティルダ・スウィントン)と恋に落ちたり…。
一方デイジーも自分のダンサーとしてのキャリアを確立するために日々努力していた。海外のバレエ団にも誘われ、将来を嘱望されていたが、不慮の事故により踊ることができなくなってしまう。
2人が再び出会ったのは、デイジーの事故の傷が癒え、2人の年齢もちょうど同じくらいの40代の頃のことだった。やがて2人の間には娘が生まれ、幸せな日々が続くはずだったが、デイジーは老いていき、ベンジャミンはどんどん若返る。ベンジャミンは苦しい決断をすることになり…。
老いて生まれたベンジャミンが、だんだん若返っていく…そのことが最初のうちはとても面白いことのように感じ、物語に引き込まれる。
しかし、この映画を見終わると、やはり人間は生まれてからだんだん老いていくという流れが一番自然でいいのだと、つくづく思ってしまった。
実際にはこのようなことはほぼあり得ないとは思うのだが、もしこのようなことがあり得るとしたら、本当に辛いのではないだろうか。
ベンジャミンが下した決断は、どうして?と思ってしまったが、あとの展開を考えると、それもありだったのかなという気にさせられた。
このような重い題材を扱いながら、ちょっと笑わせる小ネタも入っていて、特に雷に7回打たれた男の話などは面白かった。
ベンジャミンの育ての母は素晴らしいと思った。誰にでもできることではないと思った。たとえ子供が生まれない体だとしても、老人の顔をした奇妙な赤ん坊…。普通なら尻込みすると思う。結局実の子に恵まれるが、それでも、最後までベンジャミンの母だった。ベンジャミンもまた、実の父の葬式で自分の母はクイニーだけだと言っていて、ちょっとじんときた。
この映画では人が死ぬシーンがたくさん出てくる。しかし、ベンジャミンや、老い先短いからとホームに連れてこられた犬は、なぜか長生きである。案外長く生きそうな人が呆気なく逝ってしまったり、長くないだろうと思われる人が長生きだったりするものだ。雷に7回も打たれながら、死ねなかった男もいる。
人の生き死には、基本的に自分でコントロールすることができない。でも、それでも生き続けなくてはならない。だから、毎日を精一杯生きることが大切なのかもしれない。
とりあえず、自分は同じ年代の夫と同じ風に年を取っていくことができる。これは幸せなことなのだな…と思った。
心に重いものが残ったけれど、色々考えさせるよい映画だった。
2009年02月21日(土) |
のぶカンタービレ! 辻井いつ子 |
辻井いつ子 アスコム 2008
「徹子の部屋」を見ていたら、全盲のピアニスト辻井伸行さんとその母でこの本の著者でもある辻井いつ子さんが出ていた。伸行さんはショパンコンクールに17歳という若さで出場し、批評家賞という賞を受賞。ショパンコンクールを巡る話を集めたのがこの本。
私はコンクールよりも、このお母さんの教育法とかに興味があったのだけれど、そういうことはあまり書かれていなかった。この本を出版する前にもう1冊本を出しているようで、どうやらそちらの方が詳しかったのかもしれない。
自分の子供の才能を信じ、それを伸ばすことに時間もお金もかけて、1人のピアニストを生み出したお母さん。素晴らしい…。「始めるのに早すぎることはない」と2歳半でピアノを教えてくれた先生もすごいなーと思った。
この先、どんなピアニストになっていくのか、楽しみにしていこうと思った。
2009年02月13日(金) |
シズコさん 佐野洋子 |
佐野洋子 新潮社 2008
著者の自伝的小説。ノンフィクションなのか、フィクションなのか、書いてなかったけど、限りなくノンフィクションに近いのかなという印象。
著者は母親と折り合いが悪い。というか、母親が心底嫌いで、自立してからはほとんど母親と生活を共にしなかった。が、嫁に家を追い出された母を引き取り、最後には老人ホームに入れてしまう。その老人ホームはものすごく高額で、老人に対する対応も悪くはないところなのだけれど、お金で母を捨てたということを負い目に思っている。
最初は時代が行ったり来たりで読みにくく、どうしようかと思ったけれど、徐々に世界に染まっていくと、この母の存在がすごいものに思える。戦前・戦中・戦後をたくましく生き抜いた母。7人子をもうけたけれど、3人の男の子を亡くしてしまう。それでも、残りの子供を育てる。途中、夫が死亡。女手ひとつで子供たちを全員大学に入れる。
著者は母に幼少時代から優しくされたことがなかった。そのことから、母を嫌いだと思うようになった。でも、思い出をたどると、たぶん、母は娘に対して厳しく接し、優しくはしてくれなかったけれど、著者を一番頼りにしてたんじゃないかなと思う。
私も長女だから、なんとなく母との関係について、わかるような部分もある。母親は長女にはいろいろな物を求めてしまうものなのかも…。
老人ホームにも滅多に行けず、母に触ることも嫌だった著者が、呆けてしまった母と和解をするシーンは涙が出そうになった。
家族って難しい。家族だからこそ、自分の悪いところも普通に見せる。世間に見せているような自分を家族に出していれば、円満に行くのかもしれないが、大体の人はそうじゃないだろう。だからこそ生まれる確執や葛藤…。
母と娘の関係について、そして、老いていく母親と自分のことを考えさせる1冊だった。
2009年02月06日(金) |
マジカル・ドロップス 風野潮 |
風野潮 光文社 2007
STORY: 中学卒業時のタイムカプセルに埋めた亡き友が残したドロップ。なめてみると、15歳の自分に戻ってしまう。ただし、効き目は2時間17分。
感想: なめたら15歳に戻ることができる魔法のドロップ。そんなのがあったら面白いかもーと思わせる作品だった。軽いノリで、すぐに読める。ただし、やっぱりちょっとうまくいきすぎるかなーという感じもしてしまったが…。
主人公の菜穂子は、親友の真由美を事故で亡くし、思いがけず暗い高校生活を送る。本当は2人でバンドをやるはずだった。
あれから30年近くが経ち、今では2人の母親。2人の子供はどちらももう大きく、若干反抗期気味。体型も太ってしまい、中年おばさんまっしぐら。
そんなとき、タイムカプセルから取り出したものを親友の美智が届けてくれる。その中には、なめたら15歳に戻る魔法のドロップが。ただし、効き目は2時間17分。もちろんそれは真由美が冗談で入れた品物だった。
しかし、そのドロップをおふざけでなめてみたら、本当に15歳に戻ってしまう。積極的な親友の美智とともにその恰好でちょっと楽しもうと街に繰り出す。カラオケ大会に飛び入り参加してみると、息子たちのバンドに誘われてしまう。美智に後押しされて、菜穂子は再び歌うことへの情熱を取り戻していく…。
秘密を一つ持つことで、子供たちとの関係にも微妙な変化が…。
ちょっとこの展開は…と思う部分(恋愛面)もあったけど、まあ、楽しい一冊だった。昔のロックの曲とかに詳しい人なら、さらに楽しめるかも…。
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