宿題

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2004年06月30日(水) Level42/木村カエラ
自分らしくいるのが怖いなら

誰かのフリしたっていいじゃない


★Level42/木村カエラ★

2004年06月29日(火) ひとを<嫌う>ということ/中島義道
息子が私を嫌っていることも、恐ろしいほどの数の原因を探りあてることができ、

実際三ヶ月ホテルで必死に考えたのですが、ある日その追求をスパッとやめることにしました。

どう努力しても、私が彼の父親であるかぎり、

彼に嫌われるということがなんとなく体感としてわかった。

そして、もうこれ以上自分を責めつづけると、もうもたないなあと思った。

(ぼんやり歩いていて二度ほど市電に轢かれそうになりました)。

自尊心を保たねば生きていけないと思い、

そして私はやはり生きなければならないと思った。

こういう場合は、相手が「何しろ私が嫌いなんだなあ」と確認しながら、

その人と冷たい関係を保ってゆくしかない。

それしか方法はないのです。


★ひとを<嫌う>ということ/中島義道★

2004年06月28日(月) ひとを<嫌う>ということ/中島義道
つまり、こうした人もやはり何が何でも傷つきたくない人、

他人の自分に対する「嫌い」に対して過敏なほど自己防衛する人です。

彼(女)は他人の仕草や言葉や心持ちに対して敏感であり、他人に過剰な期待をする。

そこで、ほぼ常に他人に裏切られることになる。それは自分がひどく傷つくことです。

そこで、あるときを境に、傷つかないトリックを見いだした。

それは、すべての他人にまったく期待しないこと。

すべての他人をあらかじめ「嫌っておく」ことです。

中学生や高校生ならみんな考えていることです。

ですから、大人の中でも小説家や芸術家あるいは哲学者など社会的発育が未発達な人に、

ママ尾てい骨のようにグロテスクなかたちで認められる。

ふたたび、ため息。中学生レベルの精神構造を維持している私は、

なんと一心不乱にこうした技巧を身に付けることに勤しんできたことか!

そして、それをわれながら惚れ惚れとするほど自家薬籠中のものにしてきたことか!


★ひとを<嫌う>ということ/中島義道★

2004年06月27日(日) ひとを<嫌う>ということ/中島義道
突如「嫌い」が私の人生最大のテーマとなったのは、

私がそれまでもなんとなく嫌われていた妻や息子から、

ウィーンでのある日を境に激しく嫌われるハメに陥ったからです。

その理由は大層こみいっており、ふたりの人権を守るためにここではぼんやりとしか書けませんが、

妻は昨年春にウィーンで大事故を起こしたのですが、

そのときの私の態度が「優しくない」と彼女は私を責めたて、

それを観察していた一四歳の息子がついに徹底的に父親を拒否した、まあこんなところです。

私は家から追い出され、昨年暮れわが家の近くのホテルに移り、

三ヶ月そこに滞在し、今年三月在外研究の期間が切れてひとりで帰国しました。

その後ふたりはウィーンに留まり、時々私がウィーンを訪問したり

ふたりが帰国したりしますが、妻はカトリック洗礼志願者として毎日聖書と祈りの生活、

そして息子は私を完全に拒否したまま顔を直視しない関係、何も言葉をかわさない関係、

お互いに相手が存在しないかのように振舞う関係が続いております。


思えば、母は父を嫌って死の直前まで四〇年間彼に罵倒に近い言葉を浴びせ続けていた。

その言葉とほとんど同じ言葉が、今や妻の口から出てくる。

そして、私も父を死ぬまで嫌っていた。いや、死んでからもなお嫌っている。

息子が、また私をはっきり嫌っている。

これは一体何なのだ!

私はみずから生きてゆくために「嫌い」を研究するほかはないと思った。

つまり、私は自分を納得させるために本書を書いたというわけです。


★ひとを<嫌う>ということ/中島義道★

2004年06月26日(土) のだめカンタービレ/二ノ宮知子
チャイコフスキーの<悲愴>───


「ちがうなあ 真一 そんなに大げさに暗く弾いちゃ変だよ」

「なんで?パパ <悲愴>って悲しい曲でしょ」

「悲しさをただストレートに悲しく弾いたんじゃだめだ」

「はぁ?」

「この曲にはチャイコフスキーの秘密と謎が隠されてるんだ」

「なあに!?秘密と謎って」

「秘密だから謎なんだよ」

「はぁ?」

「チャイコフスキーは悲しくてもそれを言うことができなかったんだ

そんなふうに弾いてごらん」


★のだめカンタービレ/二ノ宮知子★

2004年06月25日(金) のだめカンタービレ/二ノ宮知子
ふ〜〜〜ん・・・

今日は・・・もうダメだね おうち帰って練習しなさい

ちょっとすっきりしちゃったでしょう?

言葉っていうのはさ・・・


★のだめカンタービレ/二ノ宮知子★

2004年06月24日(木) 誰でもピカソ/水木しげる
(描くのは楽しいですか?)

多少は。

・・・しかも人が金くれるでしょう。

おかしくてしょうがない。


★誰でもピカソ/水木しげる★

2004年06月23日(水) 人形のこと(2004年7月20日)/柚木沙弥郎
先日のギャラリーTOMで催したインスタレーションに出品した指人形たちの表情を

一体毎に改めて見ると大変面白い。

それは小島美佐子さんが写してくださったアップの写真を見て一層さう思った。

作者としては老若男女も全く無視して、紙粘土で作れる形を次々に作ったのだけれども、

何処となくどれも作者自身に似ていると思う人に何人も遭った。

作り始めた春先の頃は人形の顔は少し暗いのが多かった。

しかし、だんだんに会期が近づくにつれて、明るくなっていったように思う。

明るいのがよく、暗いのが悪いというわけはないのだけれども、

始めの中は今度は少し芸術っぽく作ろうという拘りがあって、

どうにかして楽しくないものを作ろうという妙な決心が制作を不自由にさせたと思う。

そんな野心は目標の50体に近づくにつれて何処かに飛散して、

ただ夢中になって作ることになった。それは時間の余裕がなくなったせいでもある。

結果的に見ると人形というものが陥り易い下手なリアリズムや

センチメンタルの入り込む余地がなく自分らしい作品になったと思う。


★人形のこと(2004年7月20日)/柚木沙弥郎★



小島美佐子さんの写真はここに。

2004年06月22日(火) 夜の合唱/穂村弘
暗闇のなかで、どんな漫画が好き?と訊かれて、大島弓子、と応えると、

そのひとは「ドクターの本当の名前は?」と云った。

『たそがれは逢魔の時間』のヒロインのセリフだ。

その瞬間、辺りに『逢魔』の時間が流れ出して、私は興奮に震えながら、

「道端譲、です」と応えた。夜の合唱の始まりだ。


ペンダントありがとう

わたしも譲くん好きです

わたしの夢は譲くんといっしょにくらすことでした

いっしょに食事をして

いっしょに散歩して

いっしょに旅をしたい

いっしょに眠り

いっしょに笑い

卒業しても

夏がきても

秋がきても

病気のときも

死ぬときも

きっとあなたを思いだします


そのひとは、私同様、『逢魔』のネームを完璧に暗記していた。その驚き。その一体感。

かび臭い記憶のなかで、「いっしょに眠りいっしょに笑い」と夢中で声を合わせながら、

私は涙ぐむほどの興奮に包まれていた。


★夜の合唱/穂村弘★

2004年06月21日(月) ラッキー嬢ちゃんのおそろしい仕事/穂村弘
私はやむなく漫画八段の友人に電話をして、教えを請うた。

「あのう、『奥村さんのお茄子』って凄かったんですけど、あれはなんなんですか」

電話の向うで友人は「くわっ」と云った。そして猛然と語り始めた。

「あれこそは、過去の一点を全角度からどれだけ完全に『攻める』ことができるかという試みで、

それは第一主義的には私たちに限りある生を与え給うた造物主に対する人間の側からの挑戦であり…」

ぞぞぞぞうぶつしゅへの挑戦だったのか…。

それでは私の器から溢れてしまうのも当然だ。

「この世から消え去るものはひとつもない。

人々が死に絶えて、ともに過ごした記憶が地上から失われても、

すべての『時』は、今もきらきらと『そこ』にある」

と友人は云った。


★ラッキー嬢ちゃんのおそろしい仕事/穂村弘★

2004年06月20日(日) いいところ/穂村弘
ガールフレンドの部屋で、私は漫画を読んでいた。

彼女もまた別の本を開き、互いのページをめくる音だけが聞こえる穏やかで幸福な夜。

私が読んでいたのは、彼女の本棚にあった『夜明ケ』(しりあがり寿)だった。

そのなかに、もの凄いシーンがあった。震えるような興奮に捉われて思わず私は叫んだ。

「こ、これ」

すると小説に熱中していたはずの彼女がひどく張りつめた声で云った。

「どれ?」

私はそのページを宙に掲げて云った。

「これ、ここ、もの凄い」

その瞬間彼女はぴょんと立ち上がって叫んだ。

「でしょうでしょうでしょう」

そのシーンこそは、彼女にとっての「いいところ」中の「いいところ」だったのだ。

私が『夜明ケ』を手にとったときから、別の本を読むふりをして、どきどきしながら、

そっとこちらの様子を伺っていたのだ。


★いいところ/穂村弘★

2004年06月19日(土) 愛の暮らし/穂村弘
絶望のあまり、私の心は黒くなった。

ユーミンはそんなことを云うが、心身ともにひとりの相手を愛し続けて

お互いを高めあうなんて、人間には不可能なのではないか。

「お互いに高めあう恋愛」の国などどこにも存在しないのでは?

真っ黒な心の私はGoogleにキーワードを入れて検索をかけてみた。

「松任谷由実 正隆 浮気」

四七件!

だがその中身をみてゆくと、「作詞作曲:松任谷由実、編曲:松任谷正隆」

そして「浮気」は歌詞だった。


★愛の暮らし/穂村弘★

2004年06月18日(金) 恐怖的瞬間/穂村弘
追いつめられた私は、小さな声で応えた。

「体だけでなく、心も自由にした方が楽しいから」

私の答えの非道さに、女性陣からはあきれかえったようなブーイングが起こったが、

吉野(朔実)さんはだけは、ふっと笑ってこう云った。

「最初からそういえばいいんだよ」

私はがくっとうなだれた。このひとは知っているのだ。

俺が、いや、人間がそういう「とんでもないもの」だということを。


★恐怖的瞬間/穂村弘★

2004年06月17日(木) 曇天の午後四時からの脱出/穂村弘
ディスプレイに向っている奥山有紀子に、後ろから声をかける。

「窓の外を見て」

奥山有紀子は窓の外を見る。

「見えるだろう。あれが曇天の午後四時だよ。正確には午後四時五分。こわいんだ」

奥山有紀子はゆっくりと振り向いて私を見た。その目が面白そうに輝いている。

「ほむらさん、なにどしですか」

私は自分の干支を答える。

「わたしとおんなじですね」

私はくるっと振り向いて、ふらふらとエレベータの方へ歩き出す。

両眼から涙がたらたら流れている。

おんなじですね。おんなじですね。おんなじですね。

そのひと言がたまらなく優しい言葉に思われて、心の中で何度も繰り返す。

おんなじですね。おんなじです。


★曇天の午後四時からの脱出/穂村弘★



■穂村さんのは抜き出すと、抜いたとこの
後とか前とかがいいような気がしてきて、
でもそっちを書くとそれも違う気がして、いつももやもやした気持ちに。

2004年06月16日(水) 政治的発言をしてみる/河井克夫
テレビに高遠さんが出てて、イラクで人質にされてつらかったことや、

帰ってきて自己責任とか言われて傷ついたことを語っていたのですが、

涙ながらにそれを訴える、その髪型に問題があることに、気付いた。

後ろ2ケ所で結んで左右に振り分け、前髪は眉毛のうえで切りそろえてある感じで、

ちょうどカマボコを張り付けたような感じ。確かに大変な目にあったんだろうが、

あの髪型は、他人に甘えた印象を与えてしまうのである。

顔の骨格がしっかりしているのだから、例えば、似合うかどうかは別として、

ショートとかにすれば、

「ああ、がんばってたんだな」

とかもっと思われたりするかも知れないのに。

自己責任論をむしかえすつもりもありませんが、

自分の髪型には責任を持ったほうがいいと思う。

山上たつひこの「ええじゃない課」で幼少期の辛い思い出を懸命に語る中年男に、

主人公が

「泣かせるシーンなんだろうが、あんたの顔がおもろいから冗談やっとるようにしか見えんわ」

と言うのがあったことも、思い出しました。

ひどいこと書いてるかな俺。


★政治的発言をしてみる/河井克夫★

2004年06月15日(火) 朝焼けニャンニャン(7月22日)/峯田和伸
事務所に戻りパソコンいじってたら大発見。

なんとアメリカのインディ・ロックバンドが僕たちの曲

「BABY BABY」をカバーしてるという。

そのバンドのホームページで曲を試聴してみた。感動(涙)。

なんと日本語で歌っている!!

「ゲチュメン ノ ブランコ ガ ユレ〜リュ〜♪」には参った。

さらに彼等はCDのジャケットに僕の顔面写真を使っていた!無断で(爆笑)!!!

メンバー写真を見ると高校の制服を着込みながらライウ゛で転がりながら歌うボーカル。

友達になりたい。

「SHINOBU」という名のこのバンドに今度メールを送ってみようと思う。


世界はあらゆる人間の感情をスポンジみたく含ませながら、

同時に、しかし別々に周っている。


★朝焼けニャンニャン(7月22日)/峯田和伸★

2004年06月14日(月) 日刊ゲンダイ(6月2日)/久保竜彦についての記事
人見知りが激しくチームメートでも相手の目を見ながら話すことができない。

初めて日本代表に選ばれ、代表合宿に招集された時には

“知らないヤツばかりなので辞退する”

と言って、広島のスタッフを慌てさせました(サッカー記者)。


無類の大酒飲みでサッカー人生を棒に振りそうになったこともある。

99年に広島市内のホテルの駐車場から自分の車を出そうとしてブロック塀に激突。

車を置き去りにして自宅に逃げ帰ってしまった。

2時間後に警察に出頭したが、飲酒検査で引っ掛かった。


日本代表になかなか定着できず、02年日韓W杯直前には代表メンバーから外された。

久保はショックのあまり2週間ほど雲隠れ。

「携帯電話も通じないし、一時は“自殺しちゃったのかも”と大騒ぎになった」

(前出の記者)こともあった。
 

地方チームの“お山の大将”で終わるという見方もあった。

転機になったのは02年シーズンでJ2に降格した広島から横浜マリノスへの移籍。

「4年前に結婚した佳奈子夫人が“新天地でリスタートしなさい”と尻をたたいたのです。

久保は夫人にゾッコンで一緒にいないと落ち着かない。

横浜マリノスの練習場にも付き添われて来ることもしばしば(専門誌記者)」
 

2月、日本代表合宿中のキャバクラ遊びが大騒動になったが、

久保は焼酎を何本もラッパ飲みして上機嫌。

キャバ嬢に「胸が小さい」「ブスは帰れ」と言いたい放題で大ヒンシュクを買った。


★日刊ゲンダイ(6月2日)/久保竜彦についての記事★

2004年06月13日(日) 龍神沼(帯)/石ノ森章太郎
正に青春ド真中

状況五、六年、トキワ荘・・・

ボクは好きな作品だけ描こうと思っていた。


★龍神沼(珈琲文庫、帯)/石ノ森章太郎★

2004年06月12日(土) 朝焼けニャンニャン(7月17日)/峯田和伸
薬物に依存し、寂しさをまぎらわす為に誰とでも寝てしまう女の子を歌った新曲

「あの娘は綾波レイが好き」を録音するにあたり、一応許可をとった方がいいと判断。

アニメ「新世紀エウ゛ァンゲリオン」の制作会社GAINAXに

まずはマネージャー江口(通称:エグ)が直接電話で交渉。

受付の女の人に軽く事情を説明したあと電話に出られたのは制作本部長の上村氏。

いきなりの話で最初は氏も困惑。あたりまえだ。

「良ければその…、歌詞を教えてください。」と言われ、

ファックスで送ればいいもののエグは直接電話口で歌詞を読み始める。

「えーーっとですね、、

『頭がパーだから 頭がパーだから 誰とでも寝るんだ 誰とでもやるんだ』。

えーーーっとーー、

『金曜日の夜はクラブでラリってゲロ吐いて朝まで踊るのさ

ハウスのDJにつかまって便所でセックス最高さ』

えーーーっと、

『ベッドが揺れてんだぜ 隣りの家にも聞こえるぜ あの娘は綾波レイが好き

あの娘は綾波レイが好き あの娘は綾波レイが好き あの娘は綾波レイが好き』

、、みたいな感じなんですけどー…。」

初対面の人に向かって吐く言葉ではない。だが、仕方ないのだ。

頑張れエグ。これも仕事なのだ。

どうしたことか、電話の向こうでは氏が大笑いしている。そして、

「率直に申し上げます。どうぞ、お使いください。」だって。


ウオオーーーッ!!!!!やった!!願いは通じたのだ。


★朝焼けニャンニャン(7月17日)/峯田和伸★

2004年06月11日(金) アップルパイの午後/尾崎翠
言語学は塩もお砂糖もない学問です。

考えながら歩いていた詩人が煉瓦塀につき当って鼻眼鏡をこわしたとしたら、

彼は自身が足と同時に頭を働かしていたことに腹を立てるより、

煉瓦塀に腹を立てるはずです。


哲学は思ったより愛嬌のある顔をしています。

塩と砂糖でかくし化粧をしています。

正面の粉胡椒はこな白粉にすぎません。

煉瓦塀で眼鏡をこわした詩人は、こんどは新調の鼻眼鏡の中ですこし目を細めました。

今夜の眼鏡の前にある横顔がかくした化粧のためとはいえ案外美人だったからでしょう。


★アップルパイの午後/尾崎翠★

2004年06月10日(木) Thank You & Good-Bey/BOAT
Thank you and Good-bye good-bye May God give you happiness

Thank you and Good-bye good-bye Every day I'ii walk


電車の窓の景色のように 2人の季節は流れたけれど

風はいつか止むはずだから 君にシアワセ願ってる


秋空のあの青い色は 僕の中 ずっと 君と行くあの場面

2輌目の窓の景色は いつまでも


Then I can say Good-bye good-bye when'd it stop the rain

Only this Good-bye good-bye makes me treat you night


★Thank You & Good-Bey/BOAT★

2004年06月09日(水) 第七官界彷徨/尾崎翠
このとき私はまだ皿をおかないでいた。

けれど二助はなお蘚から眼をはなさないでうで栗を噛み割ったので、

うで栗の中身が少しばかり二助の歯からこぼれ、ノオトの上に散ったのである。

私は思わず頸をのばしてノオトの上をみつめた。そして私は知った。

蘚の花粉とうで栗の粉とは、これはまったく同じ色をしている!

そして形さえも同じだ!

そして私は、一つの漠然とした、偉きい知識を得たような気持ちであった。

──私のさがしている私の詩の境地は、このような、こまかい粉の世界ではなかったのか。

蘚の花と栗の中身とはおなじような黄色っぽい粉として、

いま、ノオトの上にちらばっている。

そのそばにはピンセットの尖があり、細い蘚の脚があり、

そして電気のあかりを受けた香水の罎のかげは、一本の黄ろい光芒となって

綿棒の柄の方に伸びている。


★第七官界彷徨/尾崎翠★

2004年06月08日(火) 日記(7月16日)/菊地成孔
クインテット・ライブ・ダブは、ジャズを喰い殺そうなどと言う、

獰猛な音楽ではありません。

死体を蘇生させようとしたり、香水を振り、死に化粧を丁寧に施すような音楽です。

これは僕にとってジャズ・ミュージックが、死体のような存在だからでしょう。

 
しかし、喰い殺してしまえ。という、強いエクスタシーを伴った衝動が、

UAと一緒にいると高揚してくるのです。

これは、 UAにとってジャズというものが死体ではないこと、ジャズだけではなく、

彼女にとって全存在が「生きている物」だということ(はっきりと断言しますが、

彼女はアニミストです。僕のようなフェティシストのインテリゲンチャとは180度生き方が違う)

、僕が「喰い殺す者」というのを女性の仕事だと信じて疑っていないということ。

等が理由ではないかと思われます。

 
ことほど左様に、僕が何故、UAと組むかというと、獰猛かつ優美な仲間として、

ジャズという瀕死の歴史に対して、

食いちぎればまだ生き血が噴き出すという事によってしか証明できない何か、

これは一種の逆説的な蘇生術だと思いますが、

それを皆さんの眼前で祭壇化して行えると確信したからです。

最初に申し述べましたとおり、この確信は、

彼女と最初にステージを共にした瞬間からの物で、

それは未だに揺るぎないどころか、毎日のように深まってゆくので、

一種の心地よい恐怖感すらあります。

 
さて、それでは、チケットを手に入れられた、たったの1000人ほどの皆様

(大阪は未だチケットあります)京都で、大阪で、横浜で、

あなたにとってのジャズが死体であれ、瀕死の病体であれ、

生き生きとした生命であれ、何であれ、喰い殺し、喰い殺される関係。

昇天し、蘇生する関係。

そして何より、エレガントで、クールで、ブルーな関係を共有する歓びを。

ステージ上の温度実に50度を超えると言われる西部講堂ですら、

僕等はカフスにまで気を配った正装で赴きます。

何せこれは、祭壇ですから。

いつでも申し上げておりますとおり、音楽と服には密接な効用関係があります。

恐らく、アルコールやドラッグよりも。

ですから、夏物の正装や礼服で入らした方には、特別な効用があります。

と断言しましょう。

ついさきほど UAから、この、たった数回の演奏のために新しいドレスを入手した。

という伝聞があり、僕は犬歯が一瞬にして数ミリ尖ったような気持ちになりました。

歌舞伎町は今さっきやっと眠りに就きました。

それでもまだ、僕の犬歯は尖ったまま眠れそうにはありません。

50年振りの「真夏の夜のジャズ」を、紳士淑女の皆様。

どうか皆様なりの正装で心ゆくまでお楽しみ下さい。

汗と返り血を拭うハンカチーフもお忘れ無きよう。メンバー一同でお待ちしております。


★日記(7月16日)/菊地成孔★

2004年06月07日(月) 第七官界彷徨/尾崎翠
「どうも女の子が泣き出すと困るよ。チョコレエト玉でも買ってきてみようか」

「チョコレエト玉もわるくないが、早く夕飯にしたいな。

おれはすっかり腹がすいている」

「おれも腹がすいてるんだが、チョコレエト玉は君の分じゃない。

女の子にくれてみるんだ。君は早くこの葉っぱを集めて、おしたしに作ってみろ。

おれの作った葉っぱはきっとうまいはずだ。こやしが十分に利いてるからね」

「しかし、こやしに脚を浸けていた葉っぱを──」

「嘆かわしいことだよ。君等にはつねに啓蒙がいるんだ。

こやしほど神聖なものはないよ。その中でも人糞はもっとも神聖なものだ。

人糞と音楽の神聖さをくらべてみろ」

「音楽と人糞とくらべになるものか」

「みろ。人糞と音楽では──」

「そうじゃないんだ、音楽と人糞では──」

「トルストイだって言ってるんだぞ──音楽は劣情をそそるものだ。

そして彼は、こやしを畠にまいて百姓したんだぞ」

「ベエトオヴェンだって言ってるぞ─」


★第七官界彷徨/尾崎翠★

2004年06月06日(日) 歩行/尾崎翠
何か悲しいことがあるのか。

悲しい時には、あんまり小さい動物などを見つめると心の毒になるからおよし。

悲しい時に蟻やおたまじゃくしを見ていると、人間の心が蟻の心になったり、

おたまじゃくしの心境になったりして、ちっとも区別がつかなくなるからね。

(そして土田氏は、おたまじゃくしの瓶を幾重にも風呂敷で包んでしまい

階段の上り口に運んで)こんな時には、上の方をみて歌をうたうといいだろう。

大きい声でうたってごらん。


★歩行/尾崎翠★

2004年06月05日(土) 地下室アントンの一夜/尾崎翠
ああ、僕は、何となく、出掛けてって松木氏を殴りたくなってしまった。

殴ってやりたいな。ポカリとひとつ。

そしたら、あの動物学者の眼の角度も、すこしは正しい方に向くかもしれない。

そしたら松木氏も「識閾化動物心理学」などという気の利いた動物学をやり始めるかも知れないんだ。

そしたら氏も、僕の烏の詩を怒ったり、おたまじゃくしの人工品を届けてよこすなど、

よけいなおせっかいをしなくなるであろう。

出掛けてって殴りつけてきたいな。鮮やかなやつを一つ。

拳固というものは、クッキリと一個だけ見舞うのがもっとも効果的だ。

そんなやつなら、一個で全然意志が通じるであろう。


★地下室アントンの一夜/尾崎翠★

2004年06月04日(金) 地下室アントンの一夜/尾崎翠
松木氏は、いつか、僕の「烏は白い」という詩をみてひどく怒られたそうですが、

白いものはどこまで行ったって白いです。

それあ、人間の肉眼に烏がまっくろな動物として映ることなら、

僕は二歳の時から知っています。

しかし、人間はいつまでも二歳の心でいるもんじゃない。

いるのは動物学者だけだ。

それから、人間の肉眼というものは、宇宙の中に数かぎりなく在るいろんな眼のうちの、

わずか一つの眼にすぎないじゃないか。


★地下室アントンの一夜/尾崎翠★

2004年06月03日(木) こおろぎ嬢/尾崎翠
こおろぎのことなんか発音したら、あなたはたぶん嗤われるでしょう。

でも、私は、小さい声であなたに告白したいんです。

私は、ねんじゅう、こおろぎなんかのことが気にかかりました。

それ故、わたしは年中何の役にも立たない事ばかし考えてしまいました。

でも、こんな考えにだって、やはり、パンは要るんです。

それ故、私は年中電報で阿母を驚かさなければなりません。

手紙や端書は面映くて面倒くさいんです。

阿母は田舎に住んでいます。未亡人、あなたにもお母さんがおありになりますか。

ああ、百年も生きてくださいますように。

でも未亡人、母親って、いつの世にも、あまり好い役割ではないようですわね。

娘が頭の病気をすれば、阿母は何倍も心の病気に憑かれてしまうんです。

おお、ふぃおな・まくろおど!

あなたは、女詩人として生きていらした間に、科学者に向って、

一つの注文を出したいと思ったことはありませんか──

霞を吸って人のいのちをつなぐ方法。私は年中願っています。

でも、あまり度々パン!パン!パン!て騒ぎたかないんです。


★こおろぎ嬢/尾崎翠★

2004年06月02日(水) こおろぎ嬢/尾崎翠
人間とは、悲しんだり落胆したりするとき、日頃の病気が一段と重くなるものであろう。

それ故に、嬢は蹌踉と閲覧室を出て、地下室の薄暗い空気の中に行かなければならなかった。

踏幅の狭い石段を下りると右の廊下に出る。

右は売店二三戸の地下室内の街。

左に進むと、からだは自然と婦人食堂へはいる。

ここは、食事時のほかはいつもひっそりとしていて、薄暗い空気が動かずにいた。

そしてこおろぎ嬢のためには粉薬用の白湯も備えてあったわけである。

白湯は大きい湯わかしからこんこんと沸いて出た。

窓の薄あかりにすかして、これは灰色を帯びた白湯であった。

そしてこおろぎ嬢は古鞄の粉薬を服用したのである。

人々は見られたであろう。この室内の空気はまことに古ぼけたものであった。

また地下室の庭には、窓硝子の向うに五月の糠雨が降っている。

こんな時、人類とは、大きい声で歌をどなるとか、会話するとか、

あるいはパンを食べたくなるものだ。


★こおろぎ嬢/尾崎翠★

2004年06月01日(火) こおろぎ嬢/尾崎翠
心理医者、そして詩人。なんという冒瀆人種であろう。

いつの世にも、彼等は、えろすとみゅうずの神の領土に、

まいなすのみを加えるものどもである。

彼等が動けば動くだけ、

うぃりあむ・しゃあぷの住んでいたみすてりの世界は崩されるであろう。


★こおろぎ嬢/尾崎翠★

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