宿題

目次(最近)目次(一覧)pastnext

2002年08月31日(土) FACE TO FACE/松尾スズキ×阿部サダヲ
松尾 「やっぱあの、見つけてくれたっていうのもあるんですよ。こっちも。

うちの劇団なんてちっぽけな存在なのに見つけてくれた人たちっていうか、うん」…☆1

   ◇

松尾 「まあ、ほんとの本音を言えばエラはつけてほしくない。

すうっと息止めて俺んところに戻ってきて息ついてほしいっていうのは」…☆2

   ◇

阿部 「……解散しなくてもいいわけでしょ?大人計画」…☆3


★FACE TO FACE◇H vol.56/松尾スズキ×阿部サダヲ★  



■☆1…阿部さんが大人計画に入った時のオーディションは、18人中10人が受かったけど、
その時の人たちは今も結構残ってるという話で。

☆2…大人計画の人にとって「芸能界」でプロになるということは、水の中で息を止めてるようなもので、
だんだん「エラ呼吸」を身につけていくのも大事だけど、という話で。

☆3…大人計画の解散についていろいろ話をしてた最後の方で。 

2002年08月30日(金) 悪童日記(8月13日)/水道橋博士
「大変、大変」と寝ていたら、起こされる。

宅急便。

みうらじゅんさん、いとうせいこうさんより、

ありがた迷惑な50号の巨大な油絵が届く。


手紙が添えられ、


あなたはこのたび結婚とゆー

人生で最も幸せなシステムを

通過されたと聞きました。

よって、ここに

ありがた迷惑な品をお送りしたく思います。

作品名は『愛へのキックオフ』です。

周りの似ていない選手たちは

いとうせいこうが描き、

ロナウドという人は私みうらが描きました。

ハッキリ言って

僕はサッカーなどに興味がありませんが

そこは博士の結婚!

がんばって描きました。

一生、持っていてくださいね。

それではお幸せに!


と書かれてあった。


ロナウドが、達磨を蹴っている

図柄はそれなりなのだが、

周りのトルシエや、ベッカムやら、

その他、わけわからない人選、

これが、めちゃ、へぼ絵なのだ。

朝からウキウキと嬉し迷惑。


★悪童日記(8月13日)/水道橋博士★



■「大変、大変」と博士を起こしたのはやっぱりお嫁さんなんだろうなーぁー。
後ろの絵かわいい。ピンクのカーンとか。

2002年08月29日(木) SWIM:dairy(8月28日)/菊地成孔
菊地さま。

こんばんはM○○○○です。

―中略―

ところで、○○○さんの歌集「手紙魔まみ」のモデルになった女の子がいまして、

彼女のともだちが菊地さんの音楽の生徒さんなのだそうです

(個人レッスンなのか美学校の方なのかは聞いてません)。

で、9月6日のマンダラIIの南さん菊地さんのギグに、彼女はその友人と一緒に行く予定だとのこと。

そんな話を先日してまして、じゃあ○○○さんも誘って一緒に行こうか、という運びになりました。

というわけで、6日マンダラIIに、○○さんたちと参ります。

終わったらご挨拶させていただきますね。

では、また。


というわけで、Mさんには、この御一行

(○○○さんというのは去る有名現代歌人の方です。すごく良いですよこの人の短歌)

みなさんの、この日のライブチャージをフリーにさせて頂きます。


★SWIM:dairy(8月28日)/菊地成孔★



■この○○○さんてきっと穂村さん。
なんか嬉しかったので。

2002年08月28日(水) カレーライフ/竹内真
「僕が嫌いになったとしたら、むしろこの世界の方だと思うよ。

じいちゃんが死んだとき、どうしてこんなことが起きなくちゃいけないんだって、

無性に悔しかったから」

今になってその時の心理を考えてみれば、たぶん子供心に怒っていたんだろうというのだ。

祖父の急死という事態に突然直面した時、サトルは世界に対して腹を立てていたのである。


★カレーライフ/竹内真★

2002年08月27日(火) 植草甚一の散歩誌/植草甚一
どこにいるのか分からないパトロンを捜しはじめる。

何のパトロンかというと新雑誌が出したくなったからで、その雑誌名がとてもいい。

うっかり今喋っちゃうと、お先に頂戴されてしまいそうだ。

仲間にだけ話して登録してからにしたほうがいい。

それも面倒くさいなあ。よし言っちゃおう。

「心配するな」というタイトルだ。どうだ。とてもいいだろう。

さっそく表紙のデザインを考えなくちゃならない。

   ◇

四十年前の話になるが、パリのデザイナーのジャン・パトゥが秋のシーズンをひかえて、

これならだいじょうぶだと思う色が浮かんでこないので夜も眠れなくなった。

そんなある朝はやく、外気をすいに出て公園のベンチにかけたとき、

足もとの木の葉がたくさん落ちていたが、木の種類によって落ち葉の色もすこしずつ違っていた。

それを拾いあつめた彼は濃淡の度合いで十二種類になる茶系統色を、

落葉色として売り出したのだった。

   ◇

レコードという物質は、創造性のある微粒子を圧縮して固い円盤にしたもので、

それをカツブシ削り器を使うように針の先で引っ掻いているからで、

そんな原理を頭に浮かべた昔の人は、やっぱり偉い。


★植草甚一の散歩誌/植草甚一★



■アンアンとか宝島とか紀伊国屋でサイン会とかイノダのコーヒーとか、
さっき書かれた文章みたいなのに、巻末を見ると「1979年12月、逝去」とあって。
すごく不思議。

2002年08月26日(月) マトリョーシカちゃん/加古里子
――ぶからんら ぶからんら ぶかぶからんら――

と てふうきんを ならして 

ユラユラにんぎょうの イワンちゃんが やってきました。


★マトリョーシカちゃん/加古里子★



■「てふうきん」も「ぶからんら ぶからんら」っていう擬音も
なんだかよくわからなくて、一番好きだったのがこのページ。

すごい行きたい。

2002年08月25日(日) 蛇を踏む/川上弘美
何かに裏切られるというからには、その何かにたいそう入り込んでいかなければなるまい。

何かにたいそう入り込んだことなど、はて、今までにあっただろうか。

   ◇

あたしはね、これであんがい人の好き嫌いが激しいの。

サナダさん、そうは思わなかったでしょう。

毎日盛り塩をして数珠をつくってそれで昔駆け落ちをした、

自分には関係のない人間だと思っていたでしょう。

好きにも嫌いにもならず、それで毎日普通に過ごしているつもりでいたでしょう。

そういう毎日がいいんだと思っていたでしょう。

あたしはね、好きになるとずいぶん好きになっちゃうのよ。

コスガのことだってずいぶん好きだったわ。

でもコスガはあんまりあたしのことが好きじゃないのよね。

好きが裏返って嫌いになってまた裏返って好きになって

あと三回くらいまた裏返ってそれで少し嫌いなのよね。

でもそういう嫌いの中には好きがまだらにまぶされているから、

コスガはすごく気分が悪いんだわ。だから寝てばっかりいるのよ。

   ◇

「だってヒワコちゃんはいつまでたっても知らないふりばかり」


★蛇を踏む/川上弘美★

2002年08月24日(土) 消える/川上弘美
このごろずいぶんよく消える。

いちばん最初に消えたのが上の兄で、消えてから二週間になる。

消えている間どうしているかというと、しかとは判らぬがついそこらで動き回っているらしいことは、

気配から感じられる。

風がないのに次の間へ扉ががたがたいったり、箸や茶碗がいつの間にか汚れていたり、

朝起きてみると違い棚に積もっていた埃が綺麗にぬぐわれていたりするのが、兄なのであろう。


★消える/川上弘美★

2002年08月23日(金) 惜夜記/川上弘美
いくら注いでもコップが一杯にならないと思ったら、コーヒーだったはずの液体が、

いつの間にか夜に変わっているのだった。

コップに注がれている夜を覗き込むと、表面に近いところには小さな星やガスがうずまいていて、

その底では何かが笑っていた。

ぞっとして流しにコップを運び、入っていた夜を全部こぼしてしまおうとしたが、

いくらこぼしても果てがない。

1時間こぼしても、夜はぜんぜん尽きない。

排水口に吸い込まれても吸い込まれても、尽きない。

あきらめてコップを戻してもう一度覗くと、底で笑っている声がますます高くなった。

コップを壁に投げつけると、割れたかけらの間から夜がふわふわと広がり、

ふわふわの中から笑いの主があらわれた。


★惜夜記/川上弘美★



■この後、文章は「大きなニホンザルだった」と続きます。

2002年08月22日(木) さようなら、杉浦茂さん/清水檀
杉浦茂さんが亡くなった翌日、唯一の長年のお弟子さんからご連絡をいただきました。

仕事を通してのお付き合いも気が付けばはや10年。

不思議なものですが、その前日、とつじょ『杉浦茂のマンガ館』の最終館巻が読みたくなり、

本当に数年ぶりに頁を開いていたところでした。

   ★

べつに理想もありません。

抱負もなんにもありません。

田舎のかたは理屈を述べます。

そういうかたは漫画なんか描かず、小説を書けばよろしいし、

それでダメならよしゃいいのです。

読者を面白がらせようと思ったこともありません。

ここまで生きてくれば自分のことはたいていわかります。

こんな漫画を描くのはですから私がたんに内容空虚な人間であり、

平凡なバカだったためです。

私の素地が単純にでているだけに過ぎません。

でも本当のところ、自分の描いたもののことはよく覚えていません。

無責任な漫画人生でした。

ではみなさん、ごきげんよろしく。

   ★

巻頭の杉浦さんによる序文です。

このさっぱり具合、自己表現への欲のなさは、まったく杉浦さんらしい、清々しいものです。

   ◇

さておき、杉浦さんの奥様というのがまた大変に素敵な方で、お宅に伺う楽しみのひとつでした。

昔っから、お仕事のことは本当になんにも知らないの、とよくおっしゃっていましたが、

その天真爛漫な天然の明るさは、作品に出てくる女の子たちに少なからず影響を与えていたのではないかしらと

密かに思います。


葬儀が終わり、会場にひとりポツンとなさっていた奥様にご挨拶にいきました。

「スギウラはもういないけどね、またきっとすぐに遊びにきてね」。

ええもちろん、と答えようとしたとき、ご健康を心配されたご家族の方のストップがかかりました。

「ほとんど眠ってないんですからね。しばらくは休まないといけませんよ。」

「チェッ!」


……帰り道、やはりその場にいて、先生と奥様をよく知る知人と確認し合いました。

「奥さん、チェッ!って言った」


★さようなら、杉浦茂さん/清水檀★



■クイックジャパンvol.31から。

2002年08月21日(水) チキン・ハート/清水浩
タマゴに明日をたくすなよ。


★チキン・ハート/清水浩★



■昨日の「ピンポン」と同じ日に観てきました。
松尾さん2本立て。

とあとペロペロキャンディー食べてる大人が出てくる映画2本立て。

2002年08月20日(火) ピンポン/松本大洋
それはアクマに卓球の才能がないからだよ。

単純にそれだけの話だよ。

大声で騒ぐほどの事じゃない。


★ピンポン/松本大洋★










■待ち過ぎて、予告とかも見過ぎて、なんだかもう観た気になってた
「ピンポン」をやっと観てきました。

一緒に観た子とさっそく江ノ島行きを計画。

2002年08月19日(月) 雑記帳(8月19日)/柚木沙弥郎
雑誌「婦人之友」に連載中の木坂涼氏の

「ねこのゴロンスキー」の挿絵を毎月描いています。


主人公のゴロンスキーの最初からの友人の黒スケという猫は

毎回のように出て来て素直の性格のゴロンを励ましたり、

ピンチを救ったり、それがいつも風のように出て来て、

アットいなくなる実に爽やかで機智に富み実行力のある

ユニークな猫なのです。


その黒スケが今度受けとった11月号の原稿の中で交通事故にあって亡くなってしまったのです。

私はこれにはショックを受けました。

そのことを木坂氏に書いたら自分も泣きながら原稿を書いたのださうです。


この連載もあと2回で終わるのですが、その中に出てくる猫たちの性格や動作のことをあれこれ思案していたことが

自分では思いがけない程、日常生活の中で実在とフィクションの境をなくしていたことに気がつきました。


★雑記帳(8月19日)/柚木沙弥郎★



■ゴロンスキーの絵はここでたくさん見れます。
「にゃあ」とか勝手にふきだしをつけたくなる絵がいっぱい。

2002年08月18日(日) T・Pぼん/藤子・F・不二雄
「そう がっかりするなって」

「なによ 先生にしかられたぐらいで 宿題やらなかったのは悪いけど 

並平さんは やればできる人だと思うわ」

「いや かりにできなくてもだよ 人間の値打ちは頭のよしあしだけじゃない」

「そうとも!頭が悪くてもできる仕事はいっぱいあるさ」

「くよくよするなよな」

「じゃあね――」


★T・Pぼん/藤子・F・不二雄★



■コンビニの300円コミックスで。
並平凡(なみひらぼん)とブヨヨン(超時空超生物)と
リーム・ストリーム(未来から来た女の子)が主な登場人物みたいです。

「次回、『T・Pぼん vol.2』は2002年9月15日発売!!乞う、ご期待!!」
と巻末に書いてあって、ちょっと藤子不二雄ランドを思い出したり。

2002年08月17日(土) ポルノ/長塚圭史
相変らず中山さんは思ったことを全部口にして周りの目を丸くさせているし、

伊達は演出席の俺から見えないところに常に待機しているし、

トミーは何か多分芝居じゃなくてお菓子のこととか考えてる。


★ポルノ◇阿佐ヶ谷スパイダース/長塚圭史★



■TOKYO FM HALL

「稽古場の様子は?」という質問に(パンフレットから)。

2002年08月16日(金) ぼくがしまうま語をしゃべった頃/高橋源一郎
いつも見ている雑誌、つづきを読みたくてじれったいほどイライラ待ちつづけていた

次の号が平積みしてあるのを見つけた時のあの感じ、

それから、装丁に魅かれいままで読んだことのない作者の最初の三行を読み、

ああどうしてこれを読もうとしなかったんだろうと悔やみ、同時にそれを見つけて

良かったと胸をなでおろし本をもってレジへ軽いステップで歩いていくその感じ、

レジの前に並びぼくの前でカウンターに本を置いた地味なOL風の女の子選んだものをなんとなくのぞいてみると、

ジェイムス・スティーブンズの『小人たちの黄金』とジャック・フィニイの『ゲイルズバーグの春を愛す』と

岡本かの子の『老妓抄』なのでまるで十五年もつきあっていたのにあまりに気が合いすぎて

とうとう恋人になりそこねた女の子に久しぶり会ったようになつかしく、恥ずかしくなってしまうあの感じ、


★ぼくがしまうま語をしゃべった頃/高橋源一郎★



■この他にもたくさんの「感じ」が書かれ、
「そうそんな感じを味わいたくて、ぼくは毎日のように本屋に出かけるのだ」
と続いてました。

上の二つはわかるけど、三つめのはあこがれ。

2002年08月15日(木) 発掘/浅草キッド
玉袋: とにかく、これはしょせんステ看板!

博士: 怒りもせずにさっさとステてくれ!


★発掘/浅草キッド★



■かっこいい。

『発掘』は東スポで連載していた「ステ看板ニュース」を、一冊にまとめたものらしいです。
そのあとがきで。

博士が甲本ヒロトと同級生だったのは知っていたのですが、
俳優の甲本雅裕さんがヒロトの弟というのはなんだかすごくびっくりしました
(笑っていいとも!で言ってた)。

2002年08月14日(水) 14歳の国/宮沢章夫
教師3 カッターですね。

教師1 カッターで?

教師4 ああ、よく彫るんだよ、カッターで机に。昔からあるでしょ。

教師1 女子の席だね。

教師4 女子だってやるでしょう。

教師3 S、H、I、……N、E。

教師4 「死ね」?

教師3 そうです。S・H・I・N・E、死ね!ですね。

教師4 誰が?

教師3 S、A、T、A、K、E、って、

教師1 サタケ?

教師2 俺かよ?

教師4 「サタケ、死ね」か、

教師3 そうですね、「サタケ、死ね」です。

教師2 俺が?

教師4 「サタケ、死ね」だよ。

教師2 (憤って)誰だよ、こいつ。

教師4 おまえ、なんか恨まれるようなことしたの?

教師2 いや、僕はべつに、

教師1 ちょっと待て、

教師2 え?

教師1 S・H・I・N・Eって、シャインか?

教師3 シャイン?

教師1 英語の。

教師4 (驚いて)英語?

教師2 「サタケ、シャイン」

教師1 つまり、こうも言えるぞ、「輝け、サタケ」

教師2 輝け、サタケ。

教師1 いいよ。

教師2 (さっきと態度豹変し)この生徒、どんな女子?

教師4 ちがいますね。

教師1 ちがう?

教師4 僕は断固、「サタケ、死ね!」を支持します。

教師2 「輝け、サタケ」ですよ。それでいいじゃないですか。

教師4 「死ね」だよ、「死ね」にきまってるだろ。

教師1 まあ、どっちかって考えると、「死ね」だろうな。

教師2 なんですか、サイトウ先生まで。

教師1 だってさあ。

教師4 断固、「サタケ、死ね!」ですね。

教師5 私もそれを支持するね。

教師2 「輝け、サタケ」ってことにしてくださいよ。

教師4 してくださいって言われても、

教師2 (なにかさみしげに)せめて、そうだと思いたいじゃないですか……。


沈黙


教師3 こっちにカタカナで書いてありました。

教師1 え?

教師2 カタカナ?

教師3 「サタケ、シネ」


★14歳の国/宮沢章夫★



■本の最後に当時の出演者の名前が書いてあって、
その中に温水洋一さんの名前があったのですが、
なんとなくサタケ先生役は温水さんっぽい気がしました。

2002年08月13日(火) ピーナッツ/産経新聞8月10日より
(パティがマーシーを誘いに来て)

パティ 「ヘイ!マーシー!すばらしい夏の日よ!

     出てらっしゃいよ。何もしないで一日をムダにするのよ。

     …それからそれを思い出して、一生後悔するの!」

(パティとマーシーが木の下でお昼寝)

マーシー 「いい考えでしたね、先輩…」


★ピーナッツ/産経新聞8月10日より★



ここで画像が(白黒&英語だけど)見れます。

2002年08月12日(月) 彼岸からの言葉/宮沢章夫
高平氏には、すでに異変が生じていた。

渡した小さなチケットを、もう五分以上も見続けているのだ。

間が持たないことの緊張感に耐えられず、そうしていることは分かるが、

そのチケットには五分間見続けるほどの情報量はなかった。

何を五分間も見ていたのだろうか。

竹中は、机の上にある文房具に書かれた文字を、意味もなく声に出して読んだ。

「ボールペンテル細字、か」

その意味のない言葉が、ゾーンを支配するエネルギーに、さらに力を与えたような気がした。

高平氏は、チケットと一緒に渡したチラシに目を移したが、少し読むと何を思ったか、

反転させてチラシの裏側を見た。何も印刷されていない。

「まっ白なんだね」

と私に訊いたが、それは見ればすぐに分かることだった。

私はそれに答えて、「ええ」と声を出したが、言葉はそれだけだ。

再び沈黙はやってきた。たまらなくなった私は、

「ここ原宿ですよねー」

と言ってしまった。

ここまで来るのに、竹中も私も、当然、山手線を利用し原宿の駅で降りたのである。

その質問には誰も応えてくれなかったので、なおさら気まずさは増した。

時折、外から洩れ聞える音楽が、気まずさを強調しているようだった。

再びチラシを表に戻した高平氏は、時間をかけてそれを読み続ける。

壁に貼られたポスターを見ていた私は、

「ポスターかな」

と不思議に明るい声で言った。

その時、竹中は窓の外を見ていたが、腰に手をあてると決心したような顔をした。

「晴れてますね」

私も竹中も、何をしに来たのかすでに分からなくなっていた。


★彼岸からの言葉/宮沢章夫★

2002年08月11日(日) ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ/滝本竜彦
「それでね、その葬式の帰りに考えたの。ついこの前まで一緒にテーブルでご飯を食べてたのに、

どうして二度と会えなくなっちゃったのかって。どうしてみんな死んじゃったのかって。

なんにも悪いことしてないのに。普通の家族だったのに。

なんの前触れもなくみんな死んじゃった。

たまたまあたしが友達の家に泊まりに行ってるときに、お父さんたち三人で外食して、

その帰りに事故にあって。死んじゃって。

そんなのおかしいと思ったの。そんなの変だと思ったの」


目を落としたまま、淡々と言葉を紡ぐ。


「それで考えたの。この世の中に、そんなわけのわからない哀しいことが起こるのは、

どこかに悪者がいるからだって。どこかで悪者が悪いことしてるに違いないって思ったの。

その悪者は、たぶん悪者らしく黒い服を着ていて、切っても突いても死ななくて、

アメリカのホラー映画みたく、チェーンソーでも持ってるんだと思ったの。

そしたら、本当にいたの。その悪者が。チェーンソー男が、あたしの目の前に現れたの」

   ◇

能登は、あいつは、戦っていたらしい。ヤツと、ばっちり、戦っていたらしい。

能登が戦っていた敵は、だけどおそらく、チェーンソー男ほどはわかりやすくない、

目には見えない、だいぶイヤらしい敵であったことだろう。

しかしいま、オレの目の前にはチェーンソー男がいる。

どこまでも易しくわかりやすい、諸悪の根源、チェーンソー男がいる。

それこそがオレの希望なのだ。


★ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ/滝本竜彦★



■滝本さんは1978年生まれ。
こんなに同世代(1歳ちがい)の人の書いた小説を読んだのは初めてで。

『ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ』というタイトルについてのインタビューも好きです。

2002年08月10日(土) 平凡王/高橋源一郎
野球博物館の裏には野球図書館がある。野球に関するあらゆる文献を収集した図書館。

ぼくの最後の目的地だった。これから書くことは、ぜんぶ本当に起こったことである。


図書館の門をくぐったぼくは、受付に、

「ぼくは日本人の小説家で、野球小説を書きました。その本をここに寄贈したいのです」

といった。もちろん紹介状もなければ、まえもって連絡してあったわけでもない。

見ず知らずのアジア人がいきなりやって来て、おれの本をプレゼントするといいだしたわけだ。

受付の女性はニッコリ笑うと、電話をかけた。すぐ、二階から男が下りてきた。

「館長です」

と受付嬢はいい、ぼくがいったことをそのまま館長に取りついだ。

「素晴らしい」

と館長はいった。

「歓迎します。本当に、遠くから、ありがとう」

ぼくはぼくの『優雅で感傷的な日本野球』を館長に手渡した。

「日本野球に関する小説です。ぼくが野球について考えてきたことをみんな書きました」

館長はぼくの本の装丁をじっくり眺め、それから中をめくって、しばらく読んでいた。

「私は日本語がわからない」

と館長はいった。

「でも、これが素晴らしい本だということはわかります。あなたも野球が好きなんですね」

「はい」

とぼくはこたえた。


だから、『優雅で感傷的な日本野球』はいまクーパーズタウンの野球図書館に一冊だけある。


★平凡王/高橋源一郎★



■今日、ちょうど図書館に行ったので、『優雅で感傷的な日本野球』も探してみたのですが、
その図書館にはないみたいでした。残念。

2002年08月09日(金) 面白くっても大丈夫/南伸坊
現代は、誰もが狂人途上国なのである。そして誰もが狂人になりたくないのである。

そして漫画家、芸能人、芸術家のタグイは狂人と隣りあうところまで行ける人々である。

そしてその精神力と技巧によって、こちら側にもどってこれる人々なのである。


なぜ誰もが狂人になりたくないかと言うならば、「キチガイになってしまっては面白いことも面白くない」

からで、これは、キチンとした考えであると私は思う。

ところが狂人になるまいとするには、狂人的なものにふれ、自らの狂人的なものを、なぐさめなければならない。

ひたすら普通をしていて、狂人的なものに背を向けていれば、後ずさりに狂人ににじり寄ってしまうという構造なのである。


これは作家にも読者にも当てはまることなので、作家はキチガイ的なるものを吐き出すことにより、

読者はそれを吸い込むことによって、均衡を保っていられるのだ。


★面白くっても大丈夫/南伸坊★



■榎忠明さんという漫画家が奥さんと子供を殺害した、という事件についてのエッセイで。

私はたぶんここで言われているような作品には苦手なものが多いのですが、

「大榎さん(榎忠明の本名)は作品の持ち込み先を誤ったのである。
折角、奥さんを漬物石しちゃうくらいの、わが子をお風呂しちゃうくらいの異常さを持ちながら、
警官に出刃包丁を突きつけて拳銃拝借を強要するくらいの異常さを持ちながら、
それを作品に投入することができなかったメディア選択と作品観の誤りなのである」

という南さんの意見は、本当なのか私にはわからないけど、
なんだか本当だったらいいなぁと思ってしまうものでした。

表紙は湯村輝彦さん。

2002年08月08日(木) 80年代/菊地成孔
どうして10年前って こう、ダメなの?
 
あんなに楽しかったのに 今度いつ来るの?

 
★80年代/菊地成孔★

2002年08月07日(水) クレイジーガーデン/大島弓子
今 世の中で一番 謙虚で 非暴力的な 意思疎通は 

手紙じゃないかな

なにも強要しない 音もたてない

ただそばに着く

   ◇

トンネルをいくつも通りました。

人生ももしかしたらこのようなものかしらと覚悟しました。

光・闇・光・闇・光・闇

   ◇

東京駅に着きました。

私は改札駅で「ひらけ人生」と呪文をとなえました。

(パターンと改札がひらく)

うれしかったです。

   ◇

「ああ ええだよ ええだよ 

頭の中では なにを考えてもいいだ

罪悪感なんて もっちゃなんねーだ」


とつぜん僕の内面が肯定されてしまったのだ。

毎日自分を裁いて 否定し ギルティの木づちをうちつづけた この内面が

簡単に「いいだよ」のひとことで。


★クレイジーガーデン/大島弓子★

2002年08月06日(火) 8月に生まれる子供/大島弓子
ゆうべあの子は徘徊をしました。

おいかけて つかまえて 

家につれもどすと 家に帰るとなくんです。

家が家ではないというのでしょうか

あの子の家 あの子の帰りたがっている家というのは

なんなのでしょうか。


★8月に生まれる子供/大島弓子★

2002年08月05日(月) ロストハウス/大島弓子
わたしは わたしの前で 世界のドアがとつぜん

開け放たれていくのを感じていた

この世界のどこでも どろまみれになっても

思いきりこの世界で 遊んでもいいのだ


★ロストハウス/大島弓子★

2002年08月04日(日) 青い 固い 渋い/大島弓子
「どうせもう 美しくやさしく チャーミングでポジティブ 

そうめいでかしこい あのちーちゃんではありませんよ」

「ちーちゃんよくゆーよ」

ええ 女の子はいつだって そのどれかにあてはまる自分を信じてるんだ

ところが今の わたしは 

そのどれにも あてはまらないのさ


★青い 固い 渋い/大島弓子★

2002年08月03日(土) ジィジィ/大島弓子
「あなたと会えてよかったわ。ゆるせないとこあったらゆるしてね。」

「え!や、やだあ。じゃあわたしのこともゆるしてください。」

「ゆるすゆるす、それじゃ。さようなら。」

「さようなら。」


★ジィジィ/大島弓子★

2002年08月02日(金) わたしたちができるまで/大島弓子
――最近嬉しかったことは。

猫の手で、朝ゆりおこされるのっていつもながらうれしい。あの肉球で。


――この仕事をして最高に嬉しかったことはありますか。

ばななちゃん、マジ?うーんマジか。

打ち合わせの度、オレンジジュースとかコーヒーを飲めたことかな。私はキッサ店が好き。

それとあったこともない人から、すごくいい手紙をもらえることです。

こーんないい手紙、ほんとに自分あてにだされたものだろうかとあて名をみなおしたりします。

キセキみたいな幸福だと思ってます。


――自分のこれまでの人生をずっと映画のように観たら、どういう印象を持つと思いますか。

はじめのうちはたいくつでゴチャゴチャしていて駄作もいいとこだなあ退場しようかなあと思っていた。

しかしおもしろくなりそうでもあるのでもう少し席をたたずに観つづけてみようといったところです。


★わたしたちができるまで/大島弓子★

2002年08月01日(木) 真夜中のクロスビー大佐/今岡深雪
「電子ゲーム、ほしくなったの。そいで、そいで、ママのおさいふから、お金、取ったの。」

声をつまらせながら、正実くんはいっしょうけんめい言った。

こりゃ、大変だ。みつかったら、あの母親から、どんなにしかられるかしれやしない。

「それで、ゲーム買ったの?」

正実くんは首をふった。

「じゃ、みつからないうちに、そっと返しておいでよ。」

「もう、みつかっちゃったの。」

たえかねたように、正実くんはわっと泣きだした。

手にしたキャンデーからも、ペパーミントのなみだがポトポト落ちている。

ぼくはキッチンへ走ると、テーブルにほおづえをついてしかめづらしているおかあさんの足を思い切りけとばした。

それからぞうきんをつかんで、正実くんとなりへかけもどった。

「洋服よごれれちゃうよ。」

くだらないことしか言えない自分が、もどかしい。

「麦彦は2年の時、何がほしくて、わたしのおさいふからお金をとったんだっけ?」

おかあさんが、キッチンからさけんだ。

「え?」見に覚えのないことに、ぼくはうろたえる。

「あ、思い出した。キン肉マンだ。」おかあさんは平然と言った。

「ゴホン。」新聞の かげで、おとうさんがからぜきをした。

「おにいちゃんも、キン肉マンほしくて、お金取ったの?」

正実くんは泣きやんで、しゃくりあげならきいた。

「そ、そうなんだよ。」やっとわけがわかったものの、おかあさんのドジをなぐりつけたくなった。

ぼくが2年の時、キン肉マンはまだなかったんだぜ。

「なのに、死ななかったの。特別運がよかったんだね。」

「え?」ぼくはまたうろたえる。

「おばあちゃんもママも、どろぼうした子は、10歳でに死ぬって言うんだ。」

正実くんはまたしくしくと泣きだした。

「そんなの、真っ赤なうそ!」

キッチンから、ものすごい顔をしたおかあさんがあらわれた。

「ここにいるおにいちゃんが、何よりの証拠よ。おにいちゃんは、キン肉マンだけじゃなくって、

アトムの時も、月光仮面の時も、おばちゃんのおさいふからお金とったんだから。

でも、このとおり、12歳になってもちゃんと生きてるでしょ?」

「ゴホンゴホン。」新聞のうしろで、またおとうさんのからぜき。

アトム?月光仮面?いつのおもちゃだ。ぼくは耳をおおいたくなった。

でも、正実くんは気がつかないらしい。


★真夜中のクロスビー大佐/今岡深雪★

マリ |MAIL






















My追加