○プラシーヴォ○
目次|←どうして?|それから?→
ハム男と出会うまで 私の背中には真っ黒な羽根がはえていた
頼むから甘えてくれ 本音を言ってくれ キスをしてくれ 手をつないでくれ
今まで恋人になってくれた男性達は 口をそろえて、そう繰り返した
私はそのたびに、黒い羽根でバサリ、と自分を包みこみ
「そういう女性がいいのなら そういう女性を捜せばいい」
と、男性達の訴えをはねのけてきた。
いつもいつも私から好きになって近づいていくくせに 男性から心をもらった途端、 生理的に受け付けなくなる
触りたくない 顔も見たくない 下心が見えすぎて気持ち悪い セックスなんてしなくても生きていけるでしょう
それでも不思議と、既婚の男性は平気だった むしろ、抱いて欲しいと思った
4年程前、知人の紹介で逢った男性を 平常心を保てないほど好きになった 初めて、独身の普通の男性とセックスがしたいと思った
ホテルに入って、私が処女だと分かると 男性は泣いた 「ダメだよ、ちゃんと愛してる人にあげなくちゃ ボクは、ずっと一緒にいてあげられないから」
男性は、結婚していたのだ
コノママ、コレノ クリカエシ?
どうして好きになってもらうと 吐き気がするの? どうして結婚している人しか 好きになれないの?
…でも大丈夫。 私にはこの黒い羽根があるから。
プライド 孤独に耐える力
その他いろんなものが混ざって出来ている この黒い羽根
幸せにはなれないかもしれないけれど たくましく生きていける
そんな時、ハム男が私の羽根の中を覗きこんだ
「なあんだ、すっごく強そうに見えたのに 弱い子だなあ」
ガハハ、と笑いながら、黒くてバサバサの羽根を押しのけて 中にいるちっぽけな私を抱きしめた。
いつの間にか、私の羽根は真っ白になっていた。 フワフワと柔らかくて、あまり実用的ではない羽根。
守られていたい 1人になりたくない この羽根じゃ遠くへ飛べない ハム男の側じゃないと生きていけない
だけど、最近背中がうずくのだ
もしかしたらもう一度 はえかわろうとしているのかもしれない
あの逞しくて、可愛げの無い羽根
ハム男と一緒でなくとも 生きていける チカラ
石原慎太郎都知事が発言した。
「中国の人間は、少子化政策を無視して ポンポン子供を産んでいる 避妊の知識もほとんど無い。動物と同じだ」
中国の農村部では、働き手が必要。 若い労働力が必要。 だからやむ負えなく子供を大勢産むんだよ!
乱暴なモノの言い方をすれば 自分の意見っぽくてかっこいいと思ったら 大間違いだぜ、おじさま。 ワンテンポ考えてからモノを言いなしゃい。
よその国のことにブウブウ言う暇があったら あなたの住んでらっしゃる国の性教育も なんとかしてちょーだい。
私より以前に中絶で悲しい思いをした人達がいるはず
だけど私は中絶してしまった。
私より以降に中絶する人もいるだろう。
ただひたすら悲しいことばかりなのに どうして伝わらないんだろう
どうして歴史は繰り返すんだろう
戦争 AIDS いじめ 差別 中絶
これは辛いものだと分かっているのに どうして油断して 足を踏み入れてしまうんだろう
2001年10月22日(月) |
正しいとか正しくないとか |
ピリ ピリリ
耳元で、コンドームの封を開ける音がする。 久しぶりだね、 という顔でハム男と目を合わす。笑う。
ハム男が入ってくる。
手にはまだコンドームを持っている。 「…だめ!ハム男… つけてからじゃないと…だめだよ!」 思ったより大きな声を出した自分に驚く。 両手がハム男の胸を押し返そうとしている。
ハム男が、いそいそとコンドームをつける。
もう一度、入ってくる。
少し動いた後、すうっとハム男が出ていく。 すぐさま指で愛撫される。 「がちゃ子…ごめん」
え?
愛撫されて、少し朦朧とする頭で ハム男の言葉を聞く。
「俺…駄目みたいだ… コンドームをつけたら…駄目みたい」
今、なんて? なんて言ったの?
愛撫を続ける手を掴んで、止める。
体を起こそうとしてベッドについた左手が 今さっき外されたコンドームに触れる。
上半身を浮かせた私をもう一度ベッドに倒し、 ハム男の手は再び動き始める。
頭はとまどっているのに 体は昇りつめてしまった。
娘を見る父のような顔のハム男。 静かに私の頭をなでる。
私は、ハム男の下半身へと移動する。 口に含む。 そうっと撫で上げる。
変化しない。 私の手にもたれるように、くたり、と柔らかいまま。
ハム男の脚の間でうずくまる私を、 胸のあたりまで引き上げる。 そして、また頭を撫でる。
「おじちゃん、今日は飲みすぎたのかな… だから、駄目みたい…ごめんな」
ピルを飲んでいる間、ずうっとコンドームをしないセックスをして すっかりそれに慣れてしまったハム男。 できることなら、これからもそうしてあげたいけれど あと1年はピルをのまない休薬期間にしたいと 思っているから…。 ごめんね、ごめんねハム男
「がちゃ子!」 気がつくと、私は声を出して泣いていた。 ハム男が驚いた顔をして、 すぐさま私を抱き寄せる。
「がちゃ子、どうして泣くの? 愛してる。愛してるよ がちゃ子のせいで体が反応しないんじゃないよ」
ごめんね、ごめんね 面倒くさい女でごめんね。 避妊しないあなたを突き飛ばすような女でごめんね。
「…そんなこと言うなよコンドームするのが久しぶりだから動揺しただけだよ 次はきっと大丈夫」
避妊をしましょう 避妊をしない男は最低です 産まないつもりなら避妊は当然です
そんなの私が一番分かってる。 心にも頭にも体にも刻まれてること。
なのに、一瞬忘れそうになった。 ハム男を喜ばせてあげたくて。
自分が嫌いになる。
避妊しないハム男を憎いと思うくせに ハム男が気持ちいいのなら避妊しなくていいよとも思う。 同時にそう思う。
もうグチャグチャで、どれが私なのか分からない。
「ここに行きたいんだけど!」 ハム男の顔に、地図をつきつけた。
会社のパソコンでこっそり調べた、日帰りできる温泉。 膨大な情報の中から、とりあえず 露天風呂の写真がひときわ綺麗だった 『不動口温泉』をチョイス。
遊ぶ場所を探したりするのが苦手な、出不精のハム男。 私が行きたいと願い出る所は、大抵、嬉しそうに賛成してくれる。
ハム男家から約1時間のドライブ。
温泉があるのは、一応大阪なのだが ほとんど和歌山に近い場所だけあって 自然が豊かで、景色がのんびりしてる。
紅葉しようかな…どうしよっかな… とムズムズしているような微妙にくすんだ色の 山々の間に、突如コスモス畑が現れる。
濃淡さまざまな色の花びらがびっしりと咲きほこっていて、 桃色のケムリのようだった。 うっとり。
思っていたより小さな旅館が見えてきた。 すぐ横の駐車場で、おばちゃんが激しく私達を手招き。
「ここら辺は初めて? ここの右手のミナミ温泉か、すぐそこの不動口温泉なんかどう? でもミナミ温泉は女性用のお風呂が工事中で少し狭くなってるの あと、ここを下ると遊歩道があって気持ちよく散歩ができるわ。 ぜひ今度はお弁当を持って来なさいね」
駐車場代の500円を手渡す間に、 おばちゃんはあちらこちらを指差しながら 話してくれた。ほっこりとした笑顔が印象的。
最初からの目的だった不動口温泉に入る。
4年ほど前に一度改装したらしく、お風呂は小さいけれど綺麗。 わりとぬるめのお湯につかる。 壁一面が窓になっていて、下を流れる緑青色の川と、涼しげな木々が見える。
お風呂の横に下に下りる木の階段があって その先に露天風呂がある。
若干熱めのお湯。 木でできた階段や床が、緑色に変色しているのが 少し不快だった。 苔なんだろうけど、カビにも見える。 中途半端潔癖症の私は、つま先立ちで、そろりそろりと歩いた。
お風呂を出て、駐車場のおばちゃんに聞いた遊歩道を歩く。 もう15時すぎだったこともあって、木々で覆われた道は薄暗い。
一本道の終点には神社があって、これまた怖い。 鳥居をくぐったはいいけれど、いったいこの先に何があるのか さっぱり分からない。 道がうねうねと曲がっていて、案外と険しいのだ。 山そのもの、といった感じだ。
「…この辺りのいったいどこでお弁当を食べろというんだ…?」 ハム男が呆然としながらつぶやく。
あまりに雰囲気が怖いので、早々に引き返す。
帰り、岸和田のサービスエリアでソフトクリームを買った。 すごく濃い。 甘ったるいとか、そういうのではなく、 まるで牛乳そのものをのんでいるみたい。
ん〜
と、おいしさの余り喉でうなるハム男。 ハム男の笑顔。
サービスエリアにある池の中の太った鯉。
池の周りのかなり背の高い竹藪。
もうすっかり、オレンジ色になって 地平線の向こう側へ、とろけてしまいそうな太陽。
全部全部、このまま冷凍保存できたらいいのに。 何か不平不満が爆発しそうな時、 解凍して、この瞬間をもう一度味わえたらいいのに。
それは無理だとしても ずっとずっとハム男がこうやって笑っていてくれたら嬉しい。
ハム男と一緒だからこそ 保存してしまいたいほど この瞬間を愛しく思うんだね。
眼鏡をかけていないので 電車の窓からの景色は まるで抽象画だった
ボーッと眺めていると
ブルルルル ブルルルル
肩に下げたカバンの中で マナーモードの携帯が震える。
こんな朝早くにメール、珍しい。 誰だろう?
『大ニュース!! カスミちゃんがついに結婚!! ああ…子持ちの友人が増える…』
youちゃんからのメール。
カスミちゃんは私とyouちゃんの共通の友人だけど、 私とはほとんど会うことはない。 私とyouちゃんより1つ年下、25歳。
少し震える指で、メールを打ち返す。 『できちゃった結婚…ってこと?』
朝早くて、出勤の準備で忙しいだろうに、 すぐさま返事が届く。
『そうそう!12月に挙式するだなんて いきなり言うから、問い詰めたのよ! そしたら、案の定、 できちゃった…って言うんだよう〜!』
つり革にすがりつく。 膝から力が抜けて、景色がますますかすんで見える。
芸能人が、結婚会見で妊娠を発表するぶんには、 私はあまり動揺しない。
けど、こういう身近な人の話を聞くと、 たやすく自分とダブらせることが出来て、 比較しすぎて苦しくなる。
25歳で私も一度妊娠したのに カスミちゃんは結婚するのに どうして私はあの時 産まなかったの ハム男も自分自身もネジ伏せてしまうほどの 強い意思があって堕ろしたのに
月日がたてばたつほど理由が曖昧になって 分からなくなってきて 私は自分自身をますます許せなくなっていく
誰も罰してくれないから 刑務所にいれてくれないから 基準が分からないから
私は際限なく自分を責めつづける
自分で自分を責める
だけど誰も許してくれないから 許すことも自分自身でしなくてはいけない
誰も悪くない
私がそれを悪いことだと 思っているだけ
『悪いこと』なんて この世にはない
それを悪いと思う人がいれば それは悪いことになるし、 別にいいんじゃない?という人がいれば どうでもいいことになる。
私がおかしくなってしまうのも どっぷり幸せになるのも 私の問題
とりあえずは深呼吸をして カスミちゃんの幸福を喜ぼう。
「俺の体が目当てだったんだな…」
ベッドの端に座り、 ぷかっとタバコの煙を吐きながら ハム男は静かに笑った。
そう! 私はハム男の体が大好き。 一緒に部屋にいる時は、 隙あらば、ハム男のパンツをひきずりおろして ほとんど肉のないすべすべのお尻を触る。
サッカーをしているおかげで 痩せているけど、意外と筋肉質。 ふとした時に盛り上がる腕やふくらはぎの筋肉に うっとりと見とれる。 このままカラッと油で揚げて食べちゃいたいくらい。
ハム男がグースカ寝ている時、 目からビームが出そうなほど熱く見つめ続ける。
視線と共に私の手はハム男の体をなぞる。
胸とおヘソの間がかすかに6つに割れている。 おヘソの下は若干柔らかくてお肉がつまめる。
その下は…今はこっくりと首をたれて ハム男と一緒にグースカ眠りこんでいる。
指でつまんで、真正面から見てみる。
( 人 ) ←分かる?
なんか、顔みたい。 ゴマフアザラシとか、リスとか…。
神様が置いたとしか思えないほど グッドポイント、私のすぐ横に油性ペンがあった。
キュキュキュ、キュ〜 お絵描き、お絵描き、楽しいな
(・ω・)
ぶーーー! 可愛い!!
ハム男は寝てるけど、息子は起きてるね。
芸術欲を満たされた私はすっかり満足。
パンツの中にそっとしまって、 私はそれきり、パンツの中の人面チ○コのことは 忘れ去ってしまった。
しばらくして、ハム男も目を覚まし、 手に手をとって、車で数分のところにある 大きな大きなお風呂屋さんにいった。
先に上がって待っていた私に向かって、 真っ赤になったハム男が駆け寄ってきた。
服を脱いだ瞬間、笑顔の息子がパンツの中から現れて、 一瞬、自分は頭がおかしくなったのかと 思ったという。
「血が出るほどこすったら落ちたけど、 お湯につかったら死ぬほど痛かったぞ!!」
「せっかく※落ちやすいように油性ペンで描いてあげたのに なんで怒るのよ!」
「…いや、お前の言い訳、間違ってるよ」
チッ(舌打ち)。 ちょっと見ない間に賢くなりやがって。 今度は油絵の具でコッテリ絵を描いて、 写真撮って年賀状にしてやる!!
注※ 飲み会の時に顔に落書きされまくったことのある私。 その時、水性ペンで描いた落書きだけが どう洗っても落ちなかったので、 『ほっぺにうずまき、瞼の上に目 鼻から鼻毛、アゴには腹話術の人形のような線』 がついたまま、似たような顔の友人と電車で帰ったという 苦い思い出がある。
お弁当を食べ終わり、腹ごなしに会社の近くの スーパーへ歩いていった。
しばらく本を立ち読みして すでに冬っぽい風の匂いをくんくんかぎながら 歩いていると、お尻のポッケにつっこんだ携帯が ブルブル震えた。
ハム男からだ。
???と電話をとる。
「がちゃ子…? 日曜日、サッカーの試合が入っちゃって… でも15時か16時くらいで終わるんだ」
「は? 温泉行こうと思ってたのに〜!! 一生サッカーやってろバーカ! っていうか、ブラジルに行っちまえ!」
…と
いつもなら怒り狂う私だが、 ぐっとこらえて、喉の上の方から 可愛い声をしぼりだす。
「おっけ〜い!!了解で〜す!」 隣にいたサラリーマンが くわえていた爪楊枝を落としそうな勢いでびっくりしてる。
いつもと違う反応に、 ハム男は、よけい恐れをなしたのか 「金曜日の夜は、うちに来いよ、がちゃ子」 とつけ加えた。
驚きすぎて、スハッと勢いよく息を吸い込んでしまった。
いつもいつも 勝手に金曜日の夜にハム男の家に押しかけて 月曜日の朝、ハム男の家から出勤する。 というサイクルが出来つつあった。
もしかして、 週末、1人で過ごしたい瞬間とかあるんじゃないの? と最近なんとなく考えるようになった。
だから
おいで
と言われたこと。
私はハム男の家に行っていいのだということ。
嬉しかった。
ハム男は本当によく寝る。 私はそれをいつも必死で起こす。
起こしたからって、すぐに話したいことがあるわけでも 行きたい所があるわけでもなくて 目を開けて、私を見ていて欲しいだけ
頬をぺちぺちと叩く しつこく叩く
苦笑しながらハム男が薄く目を開ける。 「ね…寝かせてくれ…頼む」 私の攻撃を避けるように、背を向けて眠ろうとする。 傷ひとつ、シミひとつない サラブレッドのお馬さんのような つやつやの背中
ますます淋しくなる。
「ハム男、アソボウ、アソビマショウ」 耳元で勝手な節をつけて歌う。
「…っうるさい!」 ぐいっと私の顔を手で遠くに押しやりながら さっきよりは随分と真剣な声で拒否される。
驚いた。
『ハム男、私、うっとおしい? 起こされるの、ムカツク?』 『ううん。大好きだよ。だから平気だよ』
水戸黄門が印籠を出せば 必ず皆がひれ伏すように
私がいくらちょっかいを出しても ハム男は怒らない。 それは本当に当然のことだと思ってた。
ハム男の怒った声なんて聞いたことなかったから。 怖かった。
やめておけばいいのに 私はなぜかさらに言葉を重ねてしまった。 「寝すぎだよ!つまんないよ。遊んでよ…」
はあああ と、本当に苛立ちの混じったため息をついて ハム男がこっちを向いた。
「目はつぶってるけど…寝てないよ がちゃ子が横でゴソゴソするから、寝付けない」 ゆっくりした、反論を許さない口調。
再び背を向けられる。
カタカタカタ 私の体が震える。
ウルサイ オマエノセイデ ネムレナイ
『分かったよ。ごめんね。ゆっくり寝てちょうだい』 と言うかわりに、ハム男の肩まできっちりと 布団をかけて、お母さんが子供にするように 3回ほど優しく叩いた。
ベッドを降りて、テレビをつけてソファーに座る。 もう16時。暗い。電気もつけなくちゃ。
ソファーの上でずりずりと足を動かして 体育座りになる。 ひざを抱えている腕の中へ顔をうずめる。
「もうヤダ」 小さい声で言ってみる
「ヤダヤダもうヤダ」 一度言ってみると 坂道のボールのように 勢いづいて止まらない
淋しいよ 淋しいよ 2人でいるのに淋しいって どうすればいいの? 1人で淋しいのは分かるけど 2人で淋しいって、もうどうにもできないよ
「やだやだやだ もうヤダ もう別れ…」
「おい」
これはハム男の声 顔を上げると、すごく驚いた表情のハム男が見えた。
真っ暗な部屋で、膝を抱えて小さくなって うつむいてブツブツ言ってる彼女を見たら こういう顔をするのかあ… なかなか見れない顔だな
なんだかおかしくなった
そして笑ったらハム男がもっと心配した
「どうしたんだよ…おいで」
ハム男はウルサイと言ったことも オマエノセイデ ネムレナイと言ったことも覚えてないらしい。
ハム男のつるつるの胸に抱き寄せられて目を閉じる。 眠ろうとする私をハム男は邪魔しない。
私はハム男のそばにいるんだね。 目を閉じてても、それは変わらないことなんだね。
ハム男家のトイレで用を足して、 水を流そうと立ちあがったとき、 右の太ももの内側にツーッっと流れる感覚がした。
??と覗き込むと、血が一筋、流れている。
私は時々 ぢ が切れることがあって(失礼) きっとこれもそうだろうと思っていた。
そしてベッドに戻って寝転がろうとした瞬間、
腰がしめつけられるような… 痛いようなダルいような懐かしい痛み。
まさか?
そっと手をあててみる。
指先がほんのり赤く染まっている。
来た。 生理が来た。
ピルをやめて1ヶ月。 自分の力で生理が来た。
普段から生理痛が軽くて、 ピルを飲み始めてからは皆無に近かったのに…
痛い。お腹が痛い。
痛くて、嬉しくて ハム男にすり寄ると 寝ぼけたハム男はわけもわからないまま 私を抱きしめる。
痛くて、嬉しくて 涙がとまらない。
2001年10月11日(木) |
ワルイコトシテナイヨ |
「こっちの男の子がな、 夜中にニッコリ笑うねんで。 あ、ほらほら聞こえるか?歌も上手やろ」
祖母が手を叩いて笑う。
その視線の先は、カレンダーの絵だった。
母はあっけらかんと笑って話してくれる。 「びっくりしたわよう。 まあ、86歳だし、ついにきたかーって感じ」
母と2人しかいないのに 「隣の人は誰や? 私のことをさっきからずっと怒鳴ってるねんけど」 と言ったり、 「原節子の足は大丈夫かいなあ、心配やわ」 と大昔の清純派女優の足の具合を心配してみたり
祖母は、50歳になる息子(養子)と暮らしているが 昼はいないので、心配。 とりあえず明日、病院につれていくらしい。
あ、そうそう
と母が私の顔を見る。
「さっちゃんがね、筋無力症になっちゃったんだって」
私の3歳上のいとこ。 今年に子供を産んだばかり。 顔は私にそっくり。
子供を抱いてぼうぜんとする旦那さんの 顔が浮かぶ。
筋肉を使えば使うほど疲労や痛みがどんどん増し、 動かなくなる病気…らしい
でも死に直結するわけではなく、 薬や手術で日常生活を営むのは可能らしい。
出産をした後に発症するケースも多いみたい。
私と同じ顔をしたさっちゃん。 子供を抱いて、自分も桃のようなホッペで 笑っていたさっちゃん。
悪いことしてないのに。
幸せなままでいていい人なのに。
さっちゃんの幸せの邪魔をしないでよ。
どおも、私は最近 店運
が無いらしい。
2時間待たせたあげく、オーダーがとおっていないことを 赤裸々に告白してくれた ピザーラ
特筆すべき点もなく、しかも男女の殴り合いの喧嘩が始まった バー
そして、今からご紹介させていただく 『柔らかトンカツの店 き○ち』
以前一度入ったときは、なんとも思わなかった。 むしろ 「いや〜ん、こげな上品な店、オラ恥ずかすぃ」 と、故郷でもない訛りが出てしまうほど、小綺麗な店だった。
同系列のお寿司屋とつながっており、 トンカツ屋にいながらにしてウマイ寿司も食えるという 画期的な店。
まず、店に1歩踏み入れたときからおかしかった。
「これで商売やっとるつもりなんか?!あぁん?!」 ふんわりパンチパーマのおじさまが レジにいる同じ歳くらいの店員に向かって 静かだがとってもとっても恐ろしい声でイチャモンをつけていた。
「やあねえ、お茶がぬるかったとか しょうもないことでインネンつけてるのよ、きっと」 と先に待っていたカップルがヒソヒソと言う。
その後も、食べ終わったお客さんはどんどん出ていって テーブルもガンガンあいていってるのに 私達(すでに2組の客も待っている)は ちっとも案内してもらえない。
たまりかねたカップルが店を出ていった。
私達も…と腰を浮かしたときに、ようやく 案内される。
オーダーを済ませた後、5分くらいしてから 「ええと…うどんとトンカツのセットでしたよね?」 と、生活に疲れ果てた様子の主婦パート店員が 再度あわてて聞きにくる。
うどんとトンカツのセットだけで5種類くらいあったじゃねえかよ!! メニューをもう一回見ないとどれだか分かんねえよ!!
と、育ちのいい私達は決して口になんて出さずに 軽く舌打ちをしてうなずいた。
とりあえず、ハム男の頼んだセットが来た。 食べようとしたハム男が 「あっ!」 と未確認飛行物体でも見たような顔をした。
ハム男の視線を追って後ろを見ると、 そこにはUFOではなく、私が頼んだ「レディースセット」が 私達より遥か後に来た女性のもとへ不時着していた。
「わあ、早いじゃ〜ん!」
あったりめえだ!そら30分前に頼んだあたしの飯じゃああ!!
身も心も極道の妻のごとく、尖っていたAD時代の私なら 店員の首根っこをつかんで 「私の分を10秒で持ってこんかい」 と優しくお願いするところだが、
もうカタギの私。 素人に手を出しちゃいけねえ(?) おとなしく待つ。
おとなしい私が逆に怖かったのか ハム男が店員を呼んで説明をする。
「い…今、調べて参りますので!」
何を調べんねーーーーーん!
店員が厨房に逃げようとした瞬間、 中から別の店員がダッシュで私の前へトンカツを置いた。 その勢いでトンカツずれる。 皿から半分出る!
そして店員、普通の顔で
「どうぞ」
とりあえず、誰か私に謝ってくれーーーーーーーーー!
ぐったりして店を出る。 レジで怒っていたオジサマの気持ちが良く分かる。
半端じゃなく広い店内で どんくさい店員が3名。
サービスのサの字もありゃしねえ。
20時前というゴールデンディナータイムに 店の半分も席が埋まっていない理由が分かるよ。
おいしくって 店員の教育も出来てる店に行きたいよう。
神様
時間を1時間巻き戻して下さい。 性欲と快楽に負けそうな私達に バケツで水をぶっかけてやるから。
神様
私の体を痛くしてください どうやら私はバツがないと罪を繰り返してしまうような 最低の人間だったようです
怖い 怖いです
神様
「疲れたの?」 天井を見つめたままピクリとも動かない私を見て ハム男が笑う。
細かく震えている私に気づき、笑顔が凍る。
「ああ、俺…何やってんだろ もうガキじゃないのに しちゃいけないこと分かってたのに…」
私も同じ。 同じこと考えてたよ。
…いい? って聞いたハム男に
…いいよ。 って返事したんだもん。
同罪だよ。
ハム男が私の頬に鼻をこすりつける。 2人とも、声が出ない。 手を強く握り合って、 お互いの息の音を聞く。
あとはただ祈ることしかできない
いつくるか分からない生理を 待つストレス
私の体は今どうなってる?
ピルをやめて、体は正常に機能しようとしてる?
話の内容は忘れたが、 とにかくクダラナイ事だったと思う
この前、眉毛つながってたね、とか そういう類の
まあ、そういうことを ハム男に電話で言われたので 無性に腹が立ち、 話の途中でプツンと電話を切った。 そして消音にする。
すぐにチカチカチカと 電話のディスプレイが光ってハム男の名前を表示する。
よしよし。 光るディスプレイを横目に私は眠りにつく。
私は時々こういう風にしないと 相手に愛されているのかどうか分からなくなる。
こちらから突き放したり、ひどいことをして それでも相手がこちらへ寄り添ってきたなら そこで初めて 「私は愛されているのだな」と確認できる。
なんて原始的な…。
昔の彼氏にもそういう人がいた。 タイに旅行にいったときに お金で買った女性の話をえんえんと私にするのだ。
私はハム男と付き合うまで 『嫉妬しらずの女』だった。 だから、昔の彼氏達は今の私のように常に愛を疑っていた。
どうにか嫉妬させたくて、 タイの女性の写真までチラつかせるのだが 私は 「アホちゃうか、こいつ」 と妥当な感想を心の中でつぶやいていた。
黙りこくった私を、嫉妬して怒っているのだと 勘違いした彼氏は喜んだ。
その1週間後私達は別れた。
彼氏をそこまで追い詰めたのは私。
いつかハム男もあきれてしまうかもしれない。 押しても引いても反応してくれなくなるかもしれない。 昔の私のように 「あほちゃう、あんた」 と言い放ってあっさり去ってしまうかもしれない。
でも、だって、 どうしたら自分が愛されてるって分かるの?
分からない私が 鈍感なのかな。
個性があって 風変わりなのがイイコトだっていう 風潮だね
何か共通する強い意識や趣味がないと 仲間になれないというような。
昔はそんなんじゃなかったのに
のらりくらりと生きてるやつも 芸術家だと名乗って非凡をきどるやつも 寄り添って友達になることができたのに
頑張りすぎてるのかな 最近の子たちは。
こうでなくてはいけないという 意識がありすぎて 情報がありすぎて 体と頭と実力がついていかないんだね。
↑ 『最近の若者についてどう思います?』 とケロンパに聞かれ、 北野武さんが答えたこと。
朝の9時くらいからの生番組。
相変わらず目をしばしばさせながら でもとてもとても優しい声でそういっていた。
今の若者は頑張りすぎてる
だなんて 誰も言ってくれなかった。 武さんにはそう見えたんだね。
痛々しく見えたんだね。
私はもう、若者ではないかもしれないけれど とても救われる気がした。
ナニカシロ イキガイヲ ミツケロ ヒトノヤクニタテ
と怒鳴ることだけが 大人にできることじゃないんだね
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