○プラシーヴォ○
目次|←どうして?|それから?→
「アタシ、彼氏できたんだ」
ポツリポツリとおしゃれな店が点在する南堀江。 傘の滴をはらいながらなべちゃんが言った。
店に入っていた私は、なめるように見ていたパトリックスの スニーカーを踏んずけて立ちそうになった。
好きな人ができる ↓ 好き好き好きでアタックしまくり ↓ おめでと〜!成就 ↓ アタックの時に力を使いすぎて いざ付き合いだすと 疲れ果てて、好きじゃなくなり、 やっと自分を好きになってくれた彼氏を 見事にふる。
という悲しいコースを常にたどってきた私と なべちゃん。(恋愛のパターンが似てた)
「…で、どおなのさ、今度は!!」 京都の料亭のような お香の匂いのするとっても静かな居酒屋さんで 私はつめよった。
「もともと友達で、それがいつの間にかアレレ? って感じなの。 だから今回は全然パワーを使ってないから しばらく長続きしそうな予感!」
たんたかたん という可愛らしい名前の焼酎をグイッと 飲み干して、なべちゃんが笑う。 すかさずおかわりを頼む私達。
「7月くらいに仕事がすんごく忙しくなって 2人ともどちらからともなく なるべく時間をあけて5分でも10分でも 会ったり話をしたりするようになって… いつのまにか好きになってた」
彼氏ができたばっかりで、 ホヤホヤと湯気がでそうな なべちゃん。
可愛いな 可愛いな
今夜はいいお酒のつまみができたな うふふ
…ハム男に会いたいな
23時ころハム男の家についた。 まさか私がまた来るとは思ってなかったみたいで まん丸の目をしていた。
缶ビールを飲んでいると、 いきなり抱きしめられた。
「よく帰ってきたね」
ただいま。
「…あっちい!!」 ちゅるりと喉の奥にいきかけた湯豆腐を 熱さのあまりハム男が吐き出した。
「遅刻したバチがあたったんやわ」 冷ややかに言い放つ私を見て、ハム男が口を尖らす。
「昨日、遅くまで飲んでたのに、 10時にがちゃ子を迎えに行くなんて無理やわ 早過ぎるっちゅうねん」
「昨晩電話して確かめて、10時に来れるかどうか 確認したやんか!!! 無理なら無理ってその時言って!」 ピシャリ、と断言するとハム男は黙り込んだ。
私は時間を守らない人間が大嫌い。
こっちは約束した時間に間に合うように準備しているのに 「寝坊した〜ゴメン」 の相手の一言で 私の急いだ時間は無駄なものへと変わってしまう。
そよそよそよ、と湯豆腐屋の庭から涼やかな風がふいてくる。 しっとりと濡れたような歴史を感じさせる木の柱や 高い高い天井。
そうだ、せっかく京都まで来て おいしい湯豆腐を食べているのに プリプリするのはもったいない。
今日は京都に免じて許してやろうかの。
携帯が鳴った。 なべちゃんからだった。 なべちゃんは私が以前働いていた 映像制作会社で友達になった子。
「久しぶりに食事でもどうかね〜」 「いいよ〜、明日予定無いし〜」 言いながらハム男をちらっと見ると、 南禅寺というお寺の門の方へスタスタと歩いていた。 怒ったのか?
「見て見てがちゃ子〜! 寺の中にレンガで出来た橋があるう〜!」
聞いちゃいねえ。
走り回るハム男をひっつかまえて、 「明日、友達と遊んでくるよ?」 「あ、そうなの?行っといで、行っといで」
私を遊びに送りだすとき、 ハム男は本当に嬉しそうに笑う。
私と離れると嬉しいのかい?ムキー!
「入れて」 言ってしまった。 コンドーム買ってないのに。
ピルをやめたから妊娠しやすい体になってるのに。 頭の中がからっぽになって つい言ってしまった。
ハム男がううう、と喉の奥でうめく。 そして愛撫の手をとめて私を抱きしめる。 背中を撫でる。
そして言った。
「絶対ダメ がちゃ子がそれは一番わかってることでしょう? 今度、コンドーム買っておくから」
ありがとう。 ありがとうハム男。 そして、そのままなんとなく笑って 眠りについた。
「いい子にしてて。 17時には帰ってくるから」
私の頭をなでてハム男が出ていく。 お姉ちゃんとその彼氏を大阪観光に連れまわすために。
ドアが閉まる音と同時に時計を見ると13時。 外にでるの面倒くさいな。 ピザでも頼むか。
ピザー○に電話。 ここはSサイズのピザがあって1人でも食べられるから好き。 「30〜40分でお届しまあす」 電話からかなり耳を離さないと痛いほどの 大声の女性。マイクの音量考えろ。
配達の人に見られても恥ずかしくない程度の服装に着替える。
洗濯物を干して、お風呂を洗って 化粧して、布団を干して、お茶をわかして・・・っておい
もう14時なんスけど
ドアの魚眼レンズで配達がこないことを確認しつつ ピ○ーラに電話。 「1時間待ってるんスけどねえ」 「申し訳ありません!今そちらに向かってる途中ですから!」 愛想のいい青年の声に押し切られ、 電話を切る。
あまりの空腹に、インスタントのコーンスープを飲む。
あれ? はきそう。 ウエ。
何が悪かったのか、頭がシクシクと痛みだし、 胃も急に油っぽい不快感に襲われてきた。 2回吐く。
朝から少し頭は痛かったのだが この吐き気はどうにも我慢ならない。 ベッドに横たわり、時計を見あげる…あれ?
さらに1時間たってるんスけど。
再び魚眼レンズで外を見ながら ピザーラ(伏字やめた)に電話。
「最初注文したときから結局、2時間待ってるんスけど」 「し…少々お待ちください!」
ピ〜ピロピロピロリ〜ン
聞いたことのない保留音の後 「も…もーしわけございばせん!!!!」
え?高島まさのぶ?ホテル?
あきらかにバイトと違うオッサンの声が聞こえてきた。 「実は…こちらのミスで…お客様の オーダーがとおっていませんでした!!」
は? もしもし?
「でも、さっき、こっちに向かって配達してる途中だって 電話の男性が言ってたんですけど、 いったい、何を誰が何処に配達しようとしてたんスか?」 (とても優しく言ってみた。嫌味な感じまるだし)
「すいません、すいません、こちらの勘違いでございます! 至急、今からお届にうかがいま…」 「キャンセルするにきまってんでしょ!」 ガチャン
むかつく〜! あたしの2時間… 役立たずボンクラピザ屋アルバイターたちの時給にして およそ1600円の時間を返せ〜!
空腹になると体中のスイッチが切れる私は、 ほとんど這うように(んなこたない) 歩いて20分のところにあるソバ屋に転がり込んだ。
歩いているうちに吐き気もおさまり、 おいしくソバが食べられた。
ハム男から電話。 ちょうどこの辺りに帰ってきてるという。
「体の調子が悪いから、ピザはやめて ソバにしなさいって神様が言ってるんだよ」 だったらもっと早く言ってくれい!
高速道路に乗ると、風が強すぎて息苦しくなった。 仕方なく全開だった窓を閉める。
ラジオは流れているものの、ハム男も私も口を開かない。 沈黙が重くて、また窓を開けようかと悩む。 風の音でも無いよりマシ。
「がちゃ子…怒ってるの?」
怒ってるわよ。 心が狭くて狭くて狭すぎる自分に。
連休にハム男が1日も遊んでくれないというだけで こんなに腹が立つ自分に。
「明日…昼から夕方まで姉ちゃん達を大阪観光に連れていく。 その後空港に送ってくる」
…分かってるってば
ハム男の家について、私はすぐに浴槽を洗った。 そしてお湯をなみなみと入れる。 肩までつかってお湯を溢れさせたところで、 ハム男が入ってきた。
目が合うと、ニコニコしながら体をこすっている。
『なんかイヤになっちゃったの。 でも、今まで楽しかった。 さようなら、ハム男』
昨晩、腹が立って腹が立って頭が爆発しそうになって わけがわからなくなってハム男に送ってしまったメール。
見てないのかな? どうして何も言わないの。
ビールをしこたま(350ミリリットル缶を5本)飲んで 意識を失いそうになりながらベッドに沈みこむ。
ハム男が横に寄り添って私を抱きしめる。 「つらいよ。がちゃ子。 言いたいことを言わないがちゃ子を見てるのがつらい」
言えないよ。 陳腐だもん。すごくすごくつまらないことだもん。 「言ってごらん。がちゃ子」
1歩も引かずに、先を促すハム男に根負けして ついに私は口を開く。 いつのまにか泣いている私。 しゃくりあげすぎて声がうまく出ない。
「…どうして私と連休を過ごしてくれないの お姉ちゃんの方が大事なの?」
姉と普通に話せるようになったのは 最近のことなんだ。
昔はがちゃ子のように言いたいことを言わない人だったから。 俺が今年のお盆に実家に帰ったころから なんとなくいい雰囲気になってきた。 お互い、大人になったからかな
せっかく姉の態度が柔らかくなってきたから なるべくそれを持続させたいんだ
体を壊して透析して、 それでも看護婦を続けてる実家の母の面倒を見れるのは そばにいる姉だけだから。 姉と、俺の後輩が遊びに来てるんだよ? がちゃ子とはいつでも会えるだろう? (首を横に振る私) …どうしてそう思うの? メールで別れたいみたいなことを言うなんて もうしちゃだめだよ。 俺がどれだけ がちゃ子を好きなのか いつになったら分かるの。
体をぶるぶる震わせて息もできなくらい しゃくりあげて泣く私を、ハム男はぎうぎうと抱きしめる。
私もそうだけど ハム男もようやく 言いたいことが言えたんじゃないかな。
これからどうしたらいいんだろうね。私達。
コンドームして、避妊してても 子供が授かったってことは、 ますます神様の贈り物としか 思えないわ!
マンガの中の一言。
私、霊の存在は信じてる。
カエルは止まっているものが見えにくい。 飛んでいるハエならよく見える。
それと同じで、 人間の目の網膜は 霊が見えにくい造りになっているんだと思う
でも、「神様」は存在しない そんなものいるはずない
カミサマハ ミンナノ ココロノナカデス
今週の土日月は連休だねっ! 皆様はどうですか? お仕事など入ってるのでしょうか?
昨日、私の誕生祝いをいつもの焼き鳥屋(泣)で ハム男としていました。
「連休どうする〜?(^ω^)」 「え?この前言ったやん、 連休は俺の姉ちゃんが九州から遊びにくるから 大阪を案内しなくちゃいけないって」
(゜Δ゜)
そうでした…。
「スケジュールを述べよ!」
土曜日→姉とその彼氏を空港まで迎えにいく。 その後、大阪観光
日曜日→サッカーの練習試合
月曜日→姉とその彼氏を空港まで送りにいく。
はいっ! 私のための時間ナッシング!!
いいにゃあ〜、姉とその彼氏は連休満喫しちゃってさ〜!
…淋しいにゃあ〜。
はっ!
そうだ!
「で…でもでもでもさ! 10月の初めに、連休あったよねっ! それはどうする?どっか行く?」
「あ〜、言ってなかったっけ? 俺、会社の慰安旅行いくんだ」
はいっ!
やっぱり私のための時間ナッシング!
よし、いい機会だ。
近所のダイエーがリニューアルしたらしいから それを見にいって
いらない雑誌を整理して捨てて
1年くらい乗ってないから パパの車を借りて練習して
・・・やだあ、忙し〜い! 充実してるう〜!
あはっ、あははははは!
わ〜い、蝶々さん、待って〜!(何かからの逃避)
はあ。 ため息選手権があったら きっと私、優勝確実。
2001年09月19日(水) |
赤いキャンディ青いキャンディ |
不思議なメルモちゃん
じゃないけれども 私はこんなに大きくなった。
へその緒が二重にも三重にも首に巻き付いて 黒に近い紫色をして産まれてきた私。
新生児室にいる間も、ずうっと紫色の肌。
「見つけやすくていい」 と、フォローになっていない父。
長女の見本のように
反抗しない 自分の意見をあまり言わない レールを外れない 私
「悩みとか困ってることとかちっとも私に言ってくれない」 とハム男に言って泣いた母。
「そうですよね。僕に対してもそうですよ」 と笑って母とビールを飲むハム男。
少しずつ変えていくよ。 自覚はしてるんだ。
だから大丈夫。 私は、たっぷりと幸せだから。
この愛を数珠つなぎしていかなくてはならないね。
私の子 孫 ひ孫 もう私が会えないだろう先の、その先の命まで
今日私は ひとつ歳を重ねた。
『自分の思想のために人を殺すなんて』 『他にやり方があったはず』
テレビからの声に体が固まる。
そこには、まるで食べかけのカステラのように くしゃりとつぶれたビルと、 瓦礫に鼻をつっこんで救助に参加する犬が映っているのだけれど
ねえ、それは私のことを言っているの?
『やりたいことがありすぎるから今は育てられないなんて』 『経済的にとても無理で、幸せにしてあげられないなんて』 『本当に無理だったの?』 『子供の命より大事な夢ってなあに?』 『今のあなたは何?やりたくもない事務をやって ため息ばかりついているじゃない』
やめてやめてやめて。
少し前まで、穏やかだったのに。 何もかも受け入れられて これからグイッと前を向いて歩いていけそうな気がしてたのに。
心が1箇所にとまってくれない。
ピルを飲むのをやめたからかな。
あの子を手離してから1年半ぶりに、排卵してるのかな。
明日、私がひとつ歳をとるのがうらやましいのかな?
見たくて見たくてたまらなかった映画の 先行レイトショーにハム男と行った。
21時30分から始まるというのに、 食事も何もかも済ませて、 19時すぎには映画館に到着してしまった。
映画館はショッピングモールの中にあるのだが、 店は全て20時に閉店してしまう。 そして、周囲は住宅街でひっそりとしている。
何も無い
しかたなく、ハム男と住宅街の間を散歩する。 昼間から夕方にかけて降っていた雨はやみ、 しっとりと濡れた地面から涼しい風が吹き上がる。
噴水や、公園がとても広々としていて そこらじゅうにベンチやテーブルがおいてあり、 どこでも休憩したり本を読んだりできる。
そしてなぜか外国人がたくさん散歩していた。 テーブルを4つほど合体させて、 10人ほどでパーティをしているアラブ系の人達もいた。
「あー、まだまだ時間があるなあ…」 携帯電話で時間を見て、ハム男が苦笑する。
「イヤ?」 「え?」
「私と目的無くぶらぶら歩くのはイヤ? 退屈?絶えられない?」 「…そんなわけないやん。どうしたの?急に…」
これからは思ったことを言おうと思ったの。 それだけだよ。
今まで笑って済ませてきたことをね ちゃんと言葉にしようと思ったの。
言いたいことを溜めるとね、 骨盤が開いてきて 太るんだって。
「結婚したいの?したくないの?」
ちょうど、3個めの餃子を口にいれたところだった。 じゅわじゅわと溢れる肉汁を飲み込みながら、 母の方を見る。
母は食器を洗いながら、首だけをこちらに向け、 質問したまんまの顔で私を見てる。
「今の苗字が珍しくて大好きだから それ以上の変な苗字の人としか結婚しないの」
私がそう言うと、母が笑う。
「やだあ、私もパパと結婚するときそう思ってた! 自分の苗字が大好きだったのよ!」
親子だなあ。
そして、いつの間にか私を産んだ時の話をしだした。
へその緒が二重にも三重にも首に巻き付いていて、 産まれた後もまったく泣かず、 産婆さんにお尻をしこたまたたかれ ようやく声を出したこと。
産まれて1日たっても 体が鮮やかな紫色で、今にも息がとまりそうだったこと。
「もし、子供を産んだあと虐待しそうになったら とりあえずママのところへ持ってきなさい あと1人くらい育てられるから」
だから、もう中絶しちゃだめよ
そう聞こえた。
何百人もの人達を道連れにして ビルに飛行機ごと突っ込んだ犯人の親は
「よくやった!我が子よ!」 と喜んでいるの?
どの程度の刃物なら機内に持ちこめるか何度も実験して 飛行機の操縦もアメリカで習得して ワイドショーとかにいち早く取り上げられるように ハイジャックする時間も綿密に計算して
そのエネルギーは 何か違う形では表現をすることはできないの?
どうか 1人でも多くの命が救出されますように。
どうか 戦争がおこりませんように。
どうか 一刻も早く、亡くなられた方達の周囲の人々が 心穏やかになれますように。
どうかどうか 私達の子供を連れてこなければならない世界を これ以上汚さないでください。
どうしてこんな世界に生んだの こんなところ生きててもしょうがない 生きるのが怖い
だなんて言われないように
お願いですから。
「あたし〜、絶対働くぅ〜 だってぇ〜、 世間知らずのただの主婦になりたくないも〜ん」
立ち読みしていた私の後ろから声がした
本屋のすぐそばにあるワイン売り場で カップルが寄り添って練り歩いている。
20代半ば、もしくは前半のカップル 彼女が彼氏の腕にぶらさがっているように見える
「そう言っても…ずっと働くわけじゃないだろ? 大体、何するんだよ」
お嬢様のくせにい、 無理しちゃってコイツぅ…っていう感じ。 顔がとろけてるよ!彼氏!
「なんかあるよ〜、社会に出ないまま結婚なんてやだ〜」 ちょっとふくれてみる彼女。 可愛くねえ!!(あら、失礼しました)
ん…? とすると彼女は、大学卒業間近 or 卒業ホヤホヤ? そしてすぐ結婚予定アリ?
きっと彼氏は、お家にチンと座って待っている 専業主婦になって欲しいんだろうなあ。
彼女も、『絶対働きたいのん!!』という感じではなく、 『養ってくれるの分かってるケド〜 あたしって自立してるって感じ〜?』 というオーラがむんむん出てる。
いいなあ、養ってくれる彼氏。
ハム男なんて、付き合ってすぐに 「結婚しても共働きしてもらうけど、ごめんね」 って謝ってたからなあ…。
私も働くつもりだからいいけどさ。
怖がりだから。
ハム男に捨てられたとき、 親がいなくなったとき、 完全に自分1人の足で立ってないといけない! と思うと、 とても自分の人生の会計係を他人にまかせられない。
ただし、子供が生まれたら 最低3年間は専業主婦をさせてほしいんだけどな。 「子供は3歳までに親孝行を終わらせる」 っていうくらい 可愛い〜らしいから!!!
そんなん見逃されへんわ! 1秒たりともな!
ハム男の家のお風呂を洗い、 お湯をためて肩までつかる。 最近めっきり涼しくなってきたので、 暖かいお湯がとても気持ちいい。
ホカホカの体で、ベッドの上のハム男にしがみつく。 くるり、と ハム男が私の上に乗る。
え?と思う間に 挿入された
濡れてもないのに
以前にも一度こういうことがあって それがとても屈辱だった。 なのに、また。
パジャマの下だけ脱がされて まるでレイプのように
くやしくて 情けなくて 腹がたって 悲しくて
涙がでてくるのは当たり前だった
「…どうして泣いてるの?」 腰を揺らしながらハム男が驚いた声を出す
行為が終わっても涙がとまらなかった
ハム男が私の手をひき、風呂場へと連れていく 桶ですくったお湯で、私の体をそっと流す。 そして私を浴槽へ入れてから 自分の体をゴシゴシと洗い始めた。
まだ涙がとまらない私に、ハム男が言った。 「誰にも言ってないんだけど、 俺、1人で店に入って食事ができないんだ」
なんの事だと、ハム男の顔を見る。
18歳で九州からでてきて、大阪で働き始めたハム男。 バブル絶頂時代で、半端じゃない忙しさ。 初めての1人暮らし。 たまるストレス。
ある日、牛丼屋に1人で入った。 さあ、食べようと思った瞬間、
「店員や、お客さんが俺のことを見ている気がしたんだ」 実際はそんなことは無い。 だけどハム男は、店にいる人全員が 自分のことを笑ったり、バカにしていると思い始めてしまった。
「お箸が横に飛んでいってしまうぐらい 手が大きく震え出したんだ」
そして、一口も食べずに店を飛び出したのだという。
「それ以来10年間、一度も1人で店に入って食事をしてない 誰かといても、緊張する だけど、がちゃ子と食べると、ちっとも気にならない すごくおいしく御飯が食べれるよ」
体を洗い終えたハム男が、 窮屈そうに、私と向かい合わせで浴槽に体を沈めた。 いつのまにか私の涙はとまっていた。
自分の弱い部分を私に告白して、 それはハム男なりの謝罪なのだろうか。
そう思っていると、
「がちゃ子、どこにもいかないで」 と私の手を握って、自分の頬に押し当てている。
28歳の成人男性にしては そのしぐさは余りにも弱々しくて、 私はまたひとつ、ハム男の罪を無条件で許してしまった。
先の突起をつまみ 空気が入らないようにかぶせ 半円を描くように根元までおろす
行為が終了したら 速やかに根元を押さえ 外れないように抜く
コンドームの使い方。
だけどハム男は 行為が終わった後、しばらくぐったりと私の上に寝ていた
とてもとても苦しそうだったから 私はいつも 「早く、早く抜いて」 と頭の中で叫びながらも ハム男を抱きしめていた
行為が終わって小さくなったペニスと 伸びたコンドームの間には隙間ができて、 精液が流れ出る
これじゃ 意味がない
そして、おそらくハム男のペニスとコンドームの サイズも一致していなかった
「ハム男、小さいんだから もっと小さいコンドーム買いなよ」
だなんて言えるはずもなく、 私は付き合った当初から常におびえていた
そして授かったのだ
私は言うべきだったのだろうか 私の口から
だけど、できることならば もっと勉強してくれ 世の中の男性諸君
彼女に、行為のあとすぐに 「はやく離れて」 と突き飛ばされたり 「自分のサイズ考えて買ってよ」 などと言われたくなければね
あなたを好きで好きで好きで好きで 好きでいること
それは同時に心配で心配でたまらないこと
上から落ちてきた鉄骨に潰されてやしないか 酔っ払い運転に突っ込まれてやしないか なにか薬品の混じったものを誤って飲んではいないか
おいしい食べ物と 大きなテレビと 常に乾いてふかふかのベッドと 見晴らしのいい窓があるような だけどあなたが出ていかないように 大きな南京錠がガチャリとかかる部屋に しっかり閉じ込めておきたい衝動にかられる
だけど私がすきなのは 外でヒラヒラと働いているあなた サッカーでじっとりと汗をかくあなた
毎晩かかってくる電話に どれだけホッとしているのか あなたは知らない
あなたでさえこんなに愛しいのに
あなたと私の子がもし目の前にあらわれたら 私は嬉しすぎて 気が狂いやしないだろうか
だけど私の体は薬のいうとおりに 毎月妊娠している状態になっているの
大丈夫なのかな
こんなに待ち遠しいものを ちゃんともう一度受け入れられるのかな
少し怖いのも事実
ふう、と 以前働いていた会社の知り合いがため息をつく。
「どしたんですか?」 すると、彼女は大きなお腹をさすりながら言った。 「あんな風にね、自分の子供に接することが できるのかなあって思って怖くなったのよ」
彼女の視線を追うと、 畳の上で踊り、歌う子に両親が手拍子をつけて 一緒に笑っているお母さんがいた
「だって、あんなの楽しくもなんともないじゃない。 皆のいる前だからああやってふるまえるかもしれないけど 家で子供と二人っきりになった時に、 まだ言語の分からない子供に話し掛けたり、 子供のレベルで一緒に遊んだりできるかどうか分からないわ」
たしかに彼女は鋼鉄のキャリアウーマンで 35歳にして結婚。
そして初産を控えている。 彼女が赤ちゃん言葉で子供に話し掛ける様子なんて とてもじゃないけど想像できない。
そして次の年、 その心配は無駄だということが判明した
彼女は子供が逃げ出すほど子供に話しかけていた(笑)
ピッシリと体に添ったスーツは デニム地のオーバーオールになり、 くるくるにセットされていた髪は うなじが涼やかなショートカットになっていた。
そして、子供の理解不明な言語に相槌をうち、 笑い、キスをする。
「家ではどおなの? 今は人前だからそういうことをしてるの?」
彼女はケタケタ笑って首を振った。 「家だともっとすごいわ。 もう、可愛くってキスせずにはいられなくって、 常に話しかけてるのよ」
そして彼女は我が子の踊りに手拍子をうつ。
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