○プラシーヴォ○
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ハム男と映画を見に行った
手をつなぐわけでもなく、 不思議な温度の距離で歩く私達
いつも駅まで見送ってもらっているので、 今夜は見送ってあげようと思った。
切符売り場に立ったハム男が、 こっちを振り返った
「俺と一緒に帰れないの?」
とっさに返事が出来なかった
冗談?本気?
産まれてこのかた、 男性に甘えたことのない私は、
「うん、あなたと一緒に帰るう」
なんてセリフは死んでも言えなかった。
もし、ハム男のセリフが冗談で、 「あはは、嘘だよ。お前なんか連れて帰らないよ」 って言い返されたら、私は立ち直れない。
天より高いプライドが、私の口をこじあける。
「明日、会社に行かなくちゃいけないし。 私は自分の家へ帰るよ ホラ、いいから早く電車に乗りなよ」
無理矢理ハム男を改札口へ押しこんだ。
そうして自分も違う路線の電車に乗り、座席に座ったとたん 目の奥が熱くなって なんと涙が出てきた
「ついていってもよかったんじゃないの?」
電車が、地下の駅から地上へと顔を出した瞬間、 私の携帯が鳴った。ハム男だ。
「がちゃ子、今、どこ?」 たった今電車が滑りこんだ駅の名前を告げる。 「分かった、降りて!そこで降りて!」 ワケの分からぬまま、あたふたと電車を降りる。 「俺も、今電車を降りた。タクシーで、そこまで行くから、一緒に・・・帰ろう?」
彼の家についた。 家具の少ないシンプルな部屋。 テレビを見て、お風呂に入って、寝ることにした。 シングルベッドに並んで眠る。 初めて、キスをする。 そして手が下の方へと伸びてきたが、 あいにく私は生理中だったので、お断りした。 それでも彼はぎゅうぎゅうと私を抱きしめて、
「よかった・・・来てくれてよかった・・・」
と繰り返していた。
今日はハム男の誕生日
だけど、私は撮影の仕事で、 早朝から夜中まで拘束されていて
…逢えない。
夜中、撮影が終わって会社で後片付けしていると、 ハム男から電話。
私の声がよっぽど疲れていたのか、 ハム男は謝りながら電話を切ろうとした。
私は慌てて、
「誕生日、おめでと」
と言葉を投げた。
ハム男がすごく動揺してるのが、無言の電話から伝わる。
「・・・あ、がちゃ子ちゃん・・・覚えててくれたの」
私がおめでとうと言っただけで こんなに喜んでくれる人がいる。
信じられない。
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