遠距離M女ですが、何か?
井原りり



 札束を着る

あたしが住んでいるのは狭くて古臭い地方都市である。


町の本屋も、電器屋も、郊外型に押されてつぶれていく。

なのに呉服屋は多いし、どこもつぶれずに商売を続けている。

秋冬になると着物で出歩いているばあさんに、一日何回もすれ違う。

普段着として着物を着てるババアがそこそこにいるってことだ。


こんなにたっくさん呉服屋あるんだから、知りあいと一軒の店で鉢合わせすることなんてありえないと思っていた。

ところが昨日、○×屋にいたら、店の前にベンツが停まり、夫の妹とそのダンナが入ってきた。


もおお、ほんっとにびっくりだ。


そこんちの次女が来年の成人式に着るという振袖が出来上がったので見に来たのだ。
自分の家に置いておく気などないらしい。まだ1年も……。

成人式っていったって出来ちゃった結婚で高校中退して、まだ19歳なのに子持ちの人妻だぜ。
まったくもう。


それにしても見事な着物だった。

染めといい、柄といい、金糸の縫い取りといい……。

振袖なんて興味ないあたしだが、ため息が出た。


どこにそんな金があるんだろう?


でもやつらには品も学もない。

義妹のダンナはあたしが結婚したころはまだ塀の中にいたんだし……。

まあ、そういうことだ。


呉服屋で義妹に会ったことを誰かに話したい。

夫に言っても鼻で、ふん、というだけでつまらない。

舅は義妹と仲がいいから、下手なことはいえない。

告げ口するなら、姑だ。

義妹は自分の母親をバカにしすぎている。
やつに比べたら、嫁のあたしのほうが姑とはうまくいってるくらいだ。


「○▼子の振袖見たよ」

「わしにも○▼子に振袖作ってやりたいから金出せって言ってきたが、断ったんだ。なんだ、金あるんじゃないか。ふん。まあ、しかしねえ、子どももいて結婚もしてるのに、今さら振袖なんてねえ」


ほんっと、金だけあってもだめだ。


品性も教養も金では買えない。







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2003年01月31日(金)



 甘えんぼは断罪

同僚Aが来年度から労組の専従に近い勤務になるため、うちの職場には実質週に2回しか出勤できないという。

組合本部としては転勤希望があるなら優先的に配慮するそうだ。

同僚Aとしては、働きなれたこの職場に来年も籍を置いておきたい意向を持っていた。


が、そのためには一方的に彼が今までやっていた仕事をわれわれが分散して背負い込まねばならない。

こんな小人数の職場で、彼は自分の甘えのために、わたしらに負担を強いるのか?


それはちょっとキツイだろう?

あたしゃごめんだね。


期限が決まっているなら我慢もしよう。

だが、彼の専従期間は未定。
このままずっと労働組合に半生を捧げちゃう可能性だってある。


あたしは、彼の甘えた根性が気に入らない。

みんなはどう思っているんだろう?


あたしたちは、ちょっと冷たいかな? とは思ったが、彼には転勤してもらうことにした。

でも、それではあまりにも今までの彼の仕事に対して冷たすぎるんじゃないかと、いう同僚もいる。

感情だけじゃ仕事はできない。


彼は口惜しがっているだろう。

今までこんなにがんばってきて、専従やるならさっさと出てけっていうのか、ってね。

う〜。


かわいそうだけど、そういうことよ。







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で、同僚Aはちょっと落ち込んでいる、つか、さびしそうだ。

あたしはこのまま彼を甘やかしても、今後の彼のためにゃならないと思う。

初めての職場でクールに組合専従として勤めたほうがいい。


そんな同僚Aをみかねて、同僚Bはいうのだ。


「彼のために、もうちょっとわれわれは動くべきじゃないか? 彼にうちにいてもらって、本部からうちに期限付き職員を派遣させるように働きかけたりできないか」


そんな結果がわかっているようなこと、かたちだけの動きを見せたところで一体何になるというのだ。


何度もいうが、同僚Aはわたしらに甘えているだけだ。

来年以降もここにいていいよって言ってほしいだけだ。

わたしらなら多少の負担もみんなで背負い込んでくれるだろうというのが見え見えだから、あたしはヤなんだ。



2003年01月30日(木)



 危機意識

いはらもササキケンジもいうが、関東以西の日本人には危機意識がない、もしくは薄すぎる。


今日は雪が積もるかもしれない。

帰りの交通手段が確保できないおそれがある。

仕事? どうなる。

雪が降ったくらいで、なんだ? と言われそうだ。







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2003年01月29日(水)



 のろけんな

友人の中年の歯科医が不倫にはまってしまい、のろけたいが相手がいない。

のろけ話をするには相手を選ばねばならない。


口が堅く、同じ立場であればなおよい。

だからってあんたが選んだのは、あたしかよ。


業務連絡の短いメールには必要な事柄の他に必ずひとことのろけを付け加えるのを忘れない。


ううう〜、ちょっと迷惑よ。

なんで、あたしにそういう話を聞かせるのかね?

他の人には言えないのはわかるがな。


歯科医とは同じ文芸系同人誌で原稿を書いたり編集したりというつきあい。

いはらを知る前にこの歯科医に言い寄られていたら、今のあたしは彼の「彼女」になっていただろうか?

こちらから言い寄るつもりなどはない。
こころ惹かれることなどないから。

起こらなかったできごとを仮定して語っても無意味だ。


これまで勤務先、取引先、同人仲間など、現実を共有する相手とは深い仲にならないようにしてきた。



他人の目。

無責任な噂。

それぞれの家庭。

想像に難くないトラブルをおしてまで恋に堕ちたいほどの相手はそうそう見つかるものではない。


オトナだから距離のある人とこうなることを望んだのだ。







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2003年01月28日(火)



 ランクダウン

更新頻度がどんどん下がる。

ランキングは正直。

順位も下がる。






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2003年01月27日(月)



 あたしのカルテ

「ピルはよその病院でもらってたの?」

をいをい、先生。

あ〜た、あたしの子ども取り上げたヒトでしょう?
忘れたの?

ピルもらうのも初めてじゃない。


ま、年間何百人も生まれる子どもとその母、いちいち覚えちゃいられない。

あ、カルテがぺラ一枚だ。


そうか、今までの分厚いあたしのカルテはもう廃棄されたんだ。

だからあたしなんざ新患扱いか。



変色してぼろぼろになって、厚く綴じられたあたしのカルテはもうここの病院にはないんだ。

ふうん、そうか、そうなのか。

ま、いっけどよ。


2003年01月21日(火)



 子宮は元気か?

どうも膣内からの分泌物が増加傾向にある。

べたべたしてたり、どろっとしてたりはしない。
色もない。

においは……。

自分のパンツの染みの匂いなんて嗅ぐかよ!
わかんないぞ。


ピルも一昨年から去年の夏にかけて必要に応じては飲んでいたが、とうとうなくなって、それ以来は飲んでない。


おうちえっちするのにもピルは有効だと思うのだが、夫が気を回すので常時服用はやめたのだ。


いつなんどき、いはらのもとへ飛んでもいいように。最低一カ月分は確保しておかねばならない。


離れていようが、近所にいようが逢えない状態でいるなら、距離自体は問題じゃない。

メールも電話もつながるなら距離は関係ないのだ。


配偶者と性交してないわけじゃなし、日常生活が不幸なわけでもなければ、頻繁に逢ってなきゃいけない理由は、特別にない。


少しばかり交通費はかさむが、すわ出陣! の時の心構えができてさえいればいい。


というわけで、婦人科の待合室にて更新中。






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2003年01月20日(月)



 ねすけ

ネットスケープをバージョンアップ。

なんだか、こんなことだけでもくたびれてしまうのは空模様のせい?







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2003年01月19日(日)



 ありゃ

看板をおろして半分リタイヤ気味のお針の先生に仕立てを頼むと出来上がりはすっごく遅い。

いつごろ着るつもりだなんて期待してたら、腹が立つと思うくらい。

だから、期待はするなってばよ。


でだ。

給料日だから一昨年の秋ごろに持ち込んだ緋の長襦袢を受け取りに行った。

呉服屋で見つけて衝動買いした黒地に刺繍入りの半襟をかけてもらうように頼んである。





ん?

広衿になってない。

バチ衿じゃん。


そうだな。衿裏の生地を渡しておかなかったから、しょうがないわな。

風情がないですよ、広衿でないと。

かといってもういまさら仕立て直しは、ごめんだし。


なんかちょっとがっかり。


そろそろ子どもが小さい頃に着せてた着物をほどいておこうと思うのだ。







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2003年01月16日(木)



 喪服の人々

葬式が続く。

去年、カシミヤの黒いロングコートを意を決して買っておいてよかった。


って、今まで真冬の葬式はどうしてたんだろう?
安物の黒っぽいのでごまかしてたっけか?







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昨夜、職場の電話を使って個人的な弔電を打ち、請求書を実家の電話番号にまわすよう DENPO 115 に依頼した。


その確認の電話を実家の母が、今日の昼に受けたのだが、なにしろあの、母である。

浮世ばなれしたというか、世間知らずというか、電電公社がNTTになったことさえ知らない。


「こちらNTTですが……」

「NTTってなに? 英語でごちゃごちゃいわれても、あたしゃわからん。純然たる日本語で名乗りなさい」

「あの電報の確認のお電話なんですが……」

「電報? あんた電話局の人? 電話局なら、なんで最初から電話局と言わない?」


んなこと言われたって、なあ?


お疲れ様ですな>みかか(いや、これも古い! あっは)






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2003年01月15日(水)



 落書きのない建物なんて

こんな落書きが業者専用エレベーターの扉にあった。





2003年01月14日(火)



 薬草茶の朝

たしか去年の9月か10月の日記に書いたっけか?

行きつけ「だった」喫茶店の閉店について。


同じ建物をそのまま使って、またオープンした店に今、いる。

開店の花輪も見なかったが、看板は出てるし駐車場にクルマもあるので休日の朝、ちょいとひとりで入ってみた。


カウンターとレジ台、塗り替えた壁の照明器具はそのまま、テーブルと椅子は新品だ。


最近、カラダがコーヒーを受け付けないので、つとめてお茶の類いを飲むのだ。

コーヒー大好きなのに、胸がやけて苦しくなって、だめ。


で選んだのはジャスミンティー。

ちょいとミントも入っている。


耐熱ガラスのポットとカップ&ソーサー。

砂時計と新品のステンレスがぴかぴか光る茶こし。

たっぷり2杯分のお茶。


端末でテキスト打って、更新したら家に帰ろう。


ちなみにBGM。
この上品なピアノはビル・エバンス?



* * * * *



昨日に引き続き、田中さん関連。


あ、でも全然違う方向へオチマス。


もう先月のことになるけど、ノーベル賞授賞式で田中さんは当然のことながら会社のお金で仕立ててもらった燕尾服を着てた。


それ見てあたしは思ったね。


ああもう紋付き袴でノーベル賞をもらう人種は絶滅しちまったんだって。


幼い頃、新聞やTVで見た川端康成の黒紋付きがいかにかっこよかったかって。

『美しい日本の私』っていう記念講演の趣旨はきっと今読んだってわかりゃしない。


だけどねえ、もう日本のオトコで紋付き袴が似合うのは、伝統芸能関係者と相撲取りだけっていうのは、いったいなんなのよ。


耳の聞こえない姑がTVを見て
「このごろは男の子でも成人式に着物着るんだね」と言ってたが……。


ちょっと待って、おばあさん。

あいつらみんなヤンキーよ。


そういえば、子どもの卒業式の来賓に紋付き袴の中年男性がいて、お! と思ったが、あとで聞くところによると、彼は同窓会長で家業が呉服屋さんなのだった。


どおりでねえ。


2003年01月13日(月)



 田中さん

やはりあたしも好きなんです。

田中さん。

康夫ちゃんも、耕一さんも。

田中耕一さんに関しては東北大というのも、いいんだけど、富山中部っていうのが、親近感を感じるところ。

富山に行ったこたあないが……。


でだ。

正月のTV見てあきれはてたことがあるんだが、いいかげんにくだらないことで田中さんを追いかけ回すのはよしなさいよって。


まったくもう、入社した時はいっぱしのジャーナリストをめざしてたんだろうレポーター諸君よ。


田中さんちの近所の寿司屋だとか、蕎麦屋だとか、神社だとか、取材して田中さんちからの注文がないだとか、いつもはあるだとか……。


取材してて情けないんだろ? ほんとはよ。


あああ、やだやだ。


いい加減にせんかね!




2003年01月12日(日)



 過去に出会う

子どもと手をつないで小学校へのゆるい坂道を歩いていた。

うしろから足音がする。


振り返るとかなり近い距離に、かつて3回ほど寝たオトコの妻が同じように子どもの手を引いていた。

妻の名前は知らないが、このお下げ髪の女の子の名前は知っている。


おかしなものだ。


お互いに、目があったのは初めてだが、どう見たって同じ目的地に向かって歩いている。


ごく自然になりゆき上の会釈を交わす。


完全に終わってしまった関係。




2003年01月10日(金)



 受験生と青い空

職場で知り合った浪人生。
そろそろセンターも近いが、予備校の寮を出たのか、昨日あたりからよくメールがくる。

受験もだけど、会社も起こしたいし、PC組み立てたいし……、文庫読みまくり、SFも書きたいってか。


空を見上げたら、雲一つない。

いはらにそう送ると、向こうは曇天とのこと。

そりゃあこれだけ離れてればいつも天候は違う。


書くことがなくなったので浪人生にも「空が青い」って書いて送った。


当然、返信は……ない。


受験とかっていうのは、もろに日常で、受験生が一人でも家にいると、ココロを非日常に飛ばすのがなかなか難しくなる。


だからって日常どっぷりでいいなんてゼッタイ思わないからな。




2003年01月08日(水)



 帰ってきた日常


平常モードに戻る。

今年はどうこう……ってあまり考えなくなった。

「頑張る」とか、好きじゃない。


やらなきゃならないことが多い。
それを期限までにこなすだけだ。

やらないですます、なんてことはしない。

それをやるだけ。


その上で条件がそろえば、いはらに逢いに行く。




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2003年01月07日(火)



 危機感がない

わずか、1cmほどの積雪にあたふた。

これだから西日本の人間は危機感が足りない、と言われてしまうのだ。

出棺には間に合ったが、読経はおろか、焼香もすんだあと。

葬儀屋の前で、雪ですべったのでもなく、敷石につまづいて転んでしまうし……。



2003年01月06日(月)



 雨模様

去年の1月3日は雪で大変だった。

今日は午後からざんざの雨。

いはらの町は……となると……大雪か。



2003年01月03日(金)



 リセット

そうだ。

年が新しくなったのだから、今年もまた逢いに行けるんだ。




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2003年01月02日(木)



 正月の着物



大島。

柄は鳳凰。



帯は簡単に半幅の博多。
色は辛子色。


2003年01月01日(水)
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