白痴日記
白痴



 田舎

田舎に住みたくなっている.
もうある程度不便で構わないから.

光化学スモックもなくて
空は澄んでいて
星の消えることのない.

猫が日向ぼっこをしていて
犬がはしゃいでいて
牛がいて,馬がいて

人は少しうるさいけれど
親切で,お世話好きで

砂利道が足の裏に気持ちいい.
そんな場所.

2007年03月31日(土)



 さくらさくら

君の処にも桜は咲きましたか?
お花見をしましたか?
人に好かれる君のことだから,お誘いがあるでしょう.
君は困ったようにニヤリと笑い,時間を都合するのでしょう.

私も桜を見ています.
一人で.
一人にはおおかた慣れました.

君に会いに行かなくちゃ,といつも思うのだけれど
怖くて会いに行けません.

2007年03月30日(金)



 凍傷

業に泣く.
どうしようもない業に.

絡み合って落ちたり飛んだり.
けれど気づくと冷たい床に一人.
絡んでいた指は凍えている.

2007年03月29日(木)



 遠足は海が好きだった

遠足は好きな行事だった.
他の行事は嫌いだった.

行き先が海だとうれしかった.
漁師町で,いつだって眼下に海はあった.
でも海に帰る気がしてうれしかった.

2007年03月28日(水)



 時事

全ての子供が無垢ではない.
無垢な子供もいるだろうけれど.

無垢はそれほど重要なことではない.
重要なのは子供が子供だと自覚していること.
物事の対象を見極めていること.

たぶんね.

2007年03月27日(火)



 水沼

その水は濁っているけれど
どこか惹きつけられて
私は両の手ですくって飲み干した.

私の躰に何かが植わってしまった.

その経験に.
その過去に.

その水は疾うの昔に消えていった.
私は両手が血だらけになっていることに気づいていた.

2007年03月26日(月)



 

苺はいつも甘酸っぱい.
きゅうとする.

練乳は今年はかけていない.
きゅうとすることを楽しんでいる.

春の味.

2007年03月25日(日)



 正解

世の中が怖くて,家に籠もっている君は正解だ.
ろくなところじゃない.
でも毒は免疫で越えていくもの.
いつかお家がなくなって,毒に当たれば
君は死ぬだろう.

けれど
人間はいつか死ぬのだし
それまで快楽を享受しようとする君の姿勢は間違いではない.

私は毒の中で生きていくけど
いつか野垂れ死んだら
嗤ってくれ.

2007年03月24日(土)



 君が

君が殺したいのなら殺せばいい.
ただ僕は生きたいから抵抗する.

そういう遣り取りのあと
首を絞めた.

抵抗された私は跳ねとばされたけれど
もし絞殺ではなくて,心臓を一気に貫いていたら.

殺すことなどできない.


2007年03月23日(金)



 彼方

彼方は身体が弱くて
彼方は最近薬で眠る.

彼方が死んでも,私は自殺しない限り生きてしまうけれど
とても退屈になる.

だから生きていて欲しいと思う.


2007年03月22日(木)



 自己憐憫

私の夢見た子は,2002年の3月に産まれるはずでした.
もう五歳になります.
たぶん男の子で,あの人によく似ていたと思います.
夢見た子は夢に消え
あの人も私のもとから消え
私だけが残ります.

腹を撫でて祈った短い日々を思い出します.

私は子が産めなくなりました.
あの日々だけが夢の妊娠期間です.

五歳.
きっとどちらに似ても小柄だったでしょう.
目はたぶん奥二重.

夢見た私は来月三十になります.



2007年03月21日(水)



 彼方(仮名)

彼方は優しい.
私がかなた,かなたと寄っていっても
邪険にはしない.
彼方は誰にも邪険になどしないけれど.

彼方との夜の電話は何年続いているだろう.

私は彼方がいないとうまく生きることができないだろう.

彼方の匂いや整った顔が崩れる笑顔は
私の大好きなもの.

2007年03月20日(火)



 習慣

習慣をその通りに行うことは健やかで安心する.
そのような文章をいつか本で読んだ.

私の習慣.
一日に数度君に時間を奪われる.
何もできず,呼吸も忘れ,涙ぐむ.
眠ることのできない夜が多いから,何もかもを思い出して並べる.

君の不在に今気づいたように不安に陥る.

私は健やかではない.
安心もしない.

私は囚われている.
自ら両手を差し出して.


2007年03月15日(木)



 漂流

強い意志さえ持っていれば
人は自分の機能をぶち壊すことができる.
例えば自然に忘れる,という機能.
私には不要だから,私はそれをぶち壊した.

そしてバランスを失った.
何もかも忘れられず,現在に居ることができない.

道に踞って,その重さに呆然とする.

壊れた機能は硝子の欠片.
血を流したまま,漂う.

2007年03月14日(水)



 月光と日光,洗濯物

夜中に洗濯物を干す.
冷気が裸足にのぼってくる.
月は黄色くて,満月には足りない.
目の前で光っている.

月光を浴びる洗濯物.

風もなく,ただ其処に在る.

そして今は日光を浴びる直前.
夜明けを見ている.

2007年03月07日(水)



 おめでとう

父が六十四歳になった.
朝一番に電話をする.
離れてからの習慣.
十回目だろうか.
帰省したこともあったから,定かではないけれど.

今年彼は歳をとった声を出した.
隠居していいと言えない自分は親不孝.

彼の趣味は油絵と読書,ジャズ.

色々あったけれども
まだ私の中に残る傷もあるけれども

あなたは私の自慢の父です.

2007年03月06日(火)



 寂しさ

最近私の寂しさが増していることに
誰も気づかない.

寂しいと声に出して言えば
鬱陶しい人になる.

一人の部屋に漂う冷たい空気.

嗚呼もうすぐ腕を血だらけにしなければ,と思う.

助けてくれるのはたぶん公共機関.
身体限定で.

私は自分の笑い声を自分の冷めた脳で聞く.


2007年03月03日(土)



 灯りをつけましょ,ぼんぼりに.

スーパーで買い物.
雛祭り前日でどこか桃色.
雛あられ,桜餅.

雛人形はいつも紙か粘土.
五段飾りが時々今でも欲しくなる.

でも貧しくても
いつも幸福な雛祭りをしてくれた.
実家での小さな自分と家族を思い出す.
離れて十年.
宝箱に入れている思い出に戻ることは,しかし,できない.

2007年03月02日(金)



 ほっこり

最近ほっこりを暮らすサイトを見ることが多く
それなりにかわいいものや便利そうなもの
合成洗剤やシャンプーが駄目になりそうなアレルギーの私は
目を奪われるのだけれども

リネン大好き,等.

リネンに詳しくなかった私は調べてみた.
結果,私はたぶん木綿のほうが好きだと思う.
固い布を肌に触れさせるのは苦手.
くたっとするのだろうけれど,それまでが苦痛.

琺瑯は割りそうだ.

でもチェックの可愛さは再認識.

2007年03月01日(木)
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