白痴日記
白痴



 優しい茶番

お互い様だと思いながら
優しい声で電話を切る.
茶番.これは,茶番.
優しい茶番.

身辺整理などまっぴらで.

整理することなど一つもないわ.


2006年10月31日(火)



 五年前


あの時死んでしまえば良かったの.
もう5年も前の雨上がりの夜.
風が気持ちよかったね.

私の心はあの瞬間に死んで
身体だけが,ただ生きながらえている.

君は私を殺して,私の前から消えた.

2006年10月30日(月)



 総武線

掃きだめに鶴はいない

2006年10月28日(土)



 馴れ合いが嫌い

馴れ合うと,結局傷つく.
しかも不快な傷つき方で.

それは距離を見失っているから.

自分の影に隠れてしまうのだから
優しさも親切も
普段の二倍にしなくてはいけない.

なんてね.
わからない説明をしたでしょう.
わかる説明などない.

吐き気のする美学.

2006年10月27日(金)



 境界線

そちらとあちらの境界線は
案外あや飛びのような気楽さで
広がっているのかもしれないと.

自分はたぶん越えられない.
あや飛びのゴムに靴をとられて.



2006年10月26日(木)



 依存

依存は何一つ築かない.
マイナスに掘り下げていくだけで.
それでも依存をしたいなら
それは自由だ.

自由.

自由には責任と孤独が伴う.



2006年10月25日(水)



 正面の座席

ホームレスの老人が座っていた.
老人の座った席の一列は誰もいない.
山のような拾った新聞を一枚,一枚見ていた.
私は甘く腐るような匂いを感じていた.

普通が普通ではなくなる瞬間を
常識が踏み潰される瞬間を

私は祈っている.

2006年10月24日(火)



 双方合意

チノコトバをまた吐き出してみる.
ほぼ一年近く更新がまばらだった.
開始してみる.
自分の中身を記録して
吐き出して
血の溜まる原動力はやはりあの人だから
今,私が吐き出しているのものも.

何も書けなくなったり描けなくなったり
してしまうのではないかと
最近怖い.

疲労している?
枯渇している?

屹度両方

2006年10月23日(月)



 彼方

彼方は優しい.
でもそれは私にだけではない.
彼方は世の中の皆に平等に優しい.
それは私を安心させるし,悲しくさせる.

いつか彼方の腕も放さなくてはならないだろう.
彼方がそれを望んだら.

彼方は欠点もある普通の人間で
だから私は彼を深く慈しんでいる.

2006年10月17日(火)



 切り味

左手を切っていると,右手に伝わってくる.
脳味噌は血をもっと,と貪欲である.
私の愚かさを集約するこの行い.

問題は左手にもう場所がないということ.

2006年10月15日(日)



 文章

時々文章が身体からはみ出しそうになって
垂れ流したくなるけれど
そうしたら,空っぽになりそうで.

2006年10月13日(金)



 列車の向かいの席に

高校生の男の子が座っていた.
だらしなく伸ばされた脚に,不似合いな学生服の折り目.
だらしなく置かれた部活のバッグに,不似合いな茶色い澄んだ目.

私はじっと見ていた.
目を.
薄い唇も見たかもしれない.

本当に綺麗な目であった.

もし何の責任もないのなら
手を伸ばしていたかもしれない.

もっと目が見たかったから.

綺麗なものを見ていたい.
せめて
選択できる時には.

2006年10月12日(木)



 裸の言葉

私を此処から助けて.
連れて行って.
その腕の中に.

私,もう駄目だから.
だから助けて.

しばらく側にいさせて.
震える躰を抱えていて.
温かい飲み物を飲ませて
暖かい寝床で抱いていて.

私,もう駄目だから.
助けて.助けて.助けて.


2006年10月11日(水)



 髪から水滴

バスタブから出て
どうしたらいいかわからず
震える.

水滴が床を汚していく.

面倒者,厄介者,怠け者,愚者

水滴が溜まっていく.

裸ん坊で膝に唇をつける.
少し勇気が出るように.


2006年10月10日(火)



 疲れた顔の人

終電近くも
お昼の電車も
疲れた顔の人が乗る.

窓に映る私の顔も疲れている.
このまま列車に乗って
何処かへ.

けれど皆戻っていく.
役割を果たしに行く.

ファイト

2006年10月09日(月)
初日 最新 目次 MAIL