白痴日記
白痴
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通院
私は呼ばれる.
部屋に入って「こんにちは」或いは「こんばんは」と言う.
日が暮れていたら「こんばんは」だ.
医師は特に何も言わない.
私の言葉が出ないときは「どうでしたか?」と聞く.
話すことは,その時出てくる.
あまり脳味噌で考えない言葉を使う.
だから身振り手振りが大きくなる.
私はここでは浄化されていなくてよいのだ.
浄化された演技をしなくてよいのだ.
2006年02月28日(火)
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小さな後輩
私の直属の後輩は男の子にしては小さい.
だから目をよく覗き込んで話をする.
さぼりたい,と言いながらも納得するまで作業することを
私は知っている.
悪戯っぽくよく笑う.
私は窘めたり,笑ったり.
2006年02月27日(月)
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今日
数十年前の今日,志という名の殺人があった.
その後,罰という殺人があった.
人は人を殺す.
その最早,新聞の片隅に載るか載らないかぐらいの
事実に
私はとても恐怖する.
2006年02月26日(日)
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輪っか
自分を縛っているものについて
時々考えたりする.
私は縛られたい.
そう思っていたから,しんどくても平気だった.
いつまで縛られているの?
わからないの.
私の右の足首には重たい鎖へと続く輪っかがある.
鎖はしっかりと結ばれ
追いかけてはいけない.
でも追いかけようとするから
傷だらけだ.
叫び声も鎖の音に消える.
届いて.
届いて.
どうか届いて.
2006年02月25日(土)
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黄昏
浅い眠りから目を開けると
薄い闇.
下校の中学生の声が聞こえてくる.
頭痛がして,顔を顰める.
今日一日私が生きていたことを知っているのは
同居動物だけで.
生きてきたことを知っている人は何人だろうか.
そのようなことを考えていたら
深い闇.
カーテンを閉める.
2006年02月24日(金)
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アクセル・アクセル・アクセル
時々アクセルを踏み続けたくなる.
どこまでも真っ直ぐに.
最後に一欠片になっても構わない.
2006年02月23日(木)
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未来
未来など実感はない.
将来もない.
一日ずつで精一杯.
自分を通すことは,自分によって生きることは
とても疲れてしまう.
けれど自由のため.
私はそれをやめないだろう.
2006年02月22日(水)
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happy birthday
遠くなってしまった友達の誕生日.
おめでとうを言おうと思っていたのに
日付が変わってしまった.
私にはどのくらい彼女がわかっていたのだろう.
今は全くわからない.
わかっていなかったのかもしれない.
最初から.
でも
白々しいかもしれないけれど
心から思うよ.
誕生日おめでとう.
2006年02月21日(火)
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眩暈
私は今,人と会えるコンディションだろうか.
とても疲れている.
この疲れはきっと,あと一月ぐらいで治まるはずだけれど.
鬱が酷く,足を踏み出すことが重い.
ひとつ,ひとつを整理していけば数は多くない.
けれど,それぞれ泥沼だ.
泥沼に嵌っている私には眩暈が一日中襲い来る.
2006年02月20日(月)
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耳の聞こえない猫
私は保護を先延ばしにしていた.
その結果,彼女は身籠もった.
私は堕胎を伴う不妊手術はしないできた.
それが私の中で決まったことだった.
この場合,どうしたらいいのか.
まず獣医に相談しなくては.
動物のための一日が欲しい.
2006年02月19日(日)
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リクルート
就職活動,好きでも嫌いでもなし.
決まったら刺青をいれようかと思った午後.
飛べなくても
やっぱり背中に羽根が欲しいよ.
2006年02月18日(土)
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私は此処
話したいことがあって
苦しいこともあって
でも君がくれる言葉は予想がついているから
頭の中で再生する.
君はとても忙しいだろうから.
君にだけは言いたいよ.
私は此処.
此処にちゃんといる.
2006年02月17日(金)
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指先
愛してほしいと私は言って
一生それはないとあの人は言って.
そう,あの日から道は続いて
終点など見えず
終点には私が死んでいるのだろう.
写真の手に触れても,自分の熱だけが還ってきて疎ましい.
嗚呼.
その手を握った時に戻りたい.
そして死にたい.その瞬間に.
2006年02月16日(木)
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生理痛
血湧き肉踊る.
そういう言葉がぴったりな痛み.
子宮があることを悲しく思ったりするのだけれど
毎月律儀に卵を産み続ける卵巣にも申し訳なく思ったりするのだけれど.
私は子供を産まないだろう.
偶然できる以外は.
チャンスはもうないのだ.
生理痛は鬱を酷くする.
薬ばかり飲む.
悪循環だとわかっている.
雨が泣いている.
雨が泣いてくれる.
2006年02月15日(水)
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階段を.
階段をじゃんけんしながら
歩道橋を渡り終えるまでに倍の時間をかけながら
小さな私は恋をして
今より小さな手で,ぐーちょきぱーを出していた.
ぐりこ
ちよこれいと
ぱいなっぷる
息を切らして.
今もあの歩道橋はあるのだろうか.
2006年02月14日(火)
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化粧
化粧が下手で許されるのは,若い子の特権.
マスカラはコームを使いなよ.
この場面でラメはないだろう.
そのアイシャドウ,似合ってない.
そのようなことを思いながら
微笑み話す私の顔は
ナチュラルではないナチュラルメイク.
化粧がうまくなるのは,それほど幸せでもない.
そんなことを思いながら歩くホテルまでの道.
2006年02月13日(月)
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一丁上がり
スーツをお直しして
腕時計をはめて
黒い靴を履いて
何の面白みもない鞄を持ったら.
腕時計が気に入りなのが救い.
ごつい形.
潔く切った爪の形.
一丁上がり.
2006年02月12日(日)
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床に血が落ちていた
まず兎二匹を見る.
じっと見る.排泄物も.
大丈夫.
次に亀を.
まさかと思うけれど,見る.
大丈夫.
自分の血だな.
大丈夫.
私は大丈夫.
2006年02月11日(土)
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実家
父がガンかもしれないという.
今度,三度目の検査をする.
細胞を取る.
人はいつか死ぬけれど
どうせ今病気を被せるのなら,私に被せてください.
父にこれ以上重荷を与えないでくれ.
大嫌いな世の中よ.
2006年02月10日(金)
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挽肉
奴なんて挽肉になってしまえばいい.
そして誰にも食べられず,腐って蛆が湧けばいい.
いや,蛆も湧かなくてもいい.
格好つけた服も口調も,理知的ぶる其の様子も
反吐が出る.
死ねよ.
2006年02月09日(木)
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愛されること
愛されることには何もいらない.
愛され続けられることには少しいるかもしれない.
愛することには何もいらない.
愛し続けることに必要なのは命.
そういうことだから.
2006年02月08日(水)
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正常であること
正常であることではなく
人が見るのは
正常に見えるかどうか,だ.
一目でわかってしまえば店さえ追い出される.
どのような異常かも知られず.
あの人があのようなことを,だなんて
ただの思いこみだ.
異常なのだよ.
馬鹿にするな.
2006年02月07日(火)
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媚び
私は媚びていないように媚びる.
女,女.
喉からは甘い声が出る.
脳味噌は此処ぞと,言葉ではなく台詞を考える.
でも媚びは飽きる.
媚びている方も媚びを受けている方も.
賞味期限は短いの.
2006年02月06日(月)
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バスト ウエスト ヒップ
例えば寸胴にドールな格好は似合わない.
そういうことを客観的に見られる目が欲しい.
着たいから着る.
それもいい.
でも悪意を呼び起こすことも覚悟しなければならない.
美しさは外面だけではないけれど.
2006年02月05日(日)
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少しずつ嫌いになっていく
大人になって覚えたことは
段階的に嫌いになっていくこと.
懐いて喰ってみたら,つまらなかった.
退屈なお話であった.
狭い枠でジタバタしている動物であった.
最初は良い顔を見せるものなのだなあと
人って努力の産物だと
皮肉に笑う.
取り繕うことのできない私は
蔑む癖を直したい.
2006年02月04日(土)
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鬼は外
心臓を掴んで放り投げる.
2006年02月03日(金)
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肉が盛り上がらない
この間の傷.
周りの脂肪をカッターで抉って
嫌な臭いがしたのだけれど
盛り上がるはずの治りがけの傷の周辺が
盛り上がらない.
脂肪って肉なのよね.
赤い傷がぱっくりと開いている.
ごめんね,皮膚.
2006年02月02日(木)
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魚肉ソーセージ
冷凍庫からカチンコチンな魚肉ソーセージを出す.
赤い皮を剥きながら思う.
魚肉ソーセージでも人は殺せるわ.
殺した後,食べてしまえば証拠もない.
魚肉ソーセージ殺人事件.
だってこんなに冷たくて硬いのだもの.
2006年02月01日(水)
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