白痴日記
白痴



 トマトソースは優しい味で

味の優しさに微笑む.
人柄の出ている味.

包装の丁寧さ,だったり
ちょっとした気遣い,だったり

トマトソースが私の血になるといい.
そのような味.

少し生きていることを思い出す.

2005年11月30日(水)



 電飾

クリスマスの電飾が街に溢れる.
私は目が痛くなって,瞼を閉じる.

なぜ.
どうして.

バスの窓に頭を預けながら
呟く.

2005年11月29日(火)



 予定調和

私は私でしかない.
マニュアル通りに動いている,言葉を口にしている.
そんな気分になる月曜午後6時.

嫉妬も協調も予定調和.

予定調和から出られなくなっていく.
これが健常な世界なのか.

私は私の言葉を話したいの.
感情を吐露したいの.
暴れて,叫びたいの.

2005年11月28日(月)



 欲しい

私は欲しいヒトを掴んでいるだろうか.
掴むことができるヒトを掴んでいるだけではないだろうか.

欲しいヒトを掴むにはどうしたらいいのか
見当もつかない.

遠い.

ジムニーの色違いを見ても
躰の中を流れる涙.

遠い.


2005年11月27日(日)



 自分を殺したい

どうしても調子が悪く
自分を最悪にする発想しかできない.

口の中で錠剤を転がしているけれど
効果があるかしら.

我慢に我慢を積み重ねて
治療は順調です,と言われる.
我慢ができるなら,順調に治っていると.

苦しみは一向に減る様子も無く,増えるばかり.

2005年11月26日(土)



 残酷

事の流れは残酷で,笑顔さえ凍りつく.
このような時に笑えるあなたは神様なのでしょう.
けれど私は神様を信じない.

2005年11月25日(金)



 臆病者

私は臆病者だ.
外からどう見えているかは知らないが
かなりの臆病者だ.
別に隠してもいない.いつも色々と考えている.

臆病者だから武装する.
傷を受けても,傷は見せない.
治った頃に瘡蓋を剥がして,公開する.
笑って.

限界の線を見据えている.


2005年11月24日(木)



 沈黙の気持ち

私は話すのが,得意なほうではないから
自分から電話をしても,沈黙してしまう.
けれど,沈黙している時も電話の先の相手を,とても思っている.
触れたいぐらいに.

私は好きな人にしか電話しないから.

2005年11月23日(水)



 躰と心

躰は寂しくない.
誰とでも眠ることができる.
必要なら性交さえ,どうぞお好きに.

誰も心を拾ってくれない.
天井を見ながら,そういえばそうだったと
思い出す.

性交に心があると思っていた頃に時々戻りたい.
でも二度と戻れはしないだろう.

2005年11月22日(火)



 最後のカード

最後のカードは何でしょう.
命すら最後ではありませんでした.
最後のカードは行方知らず.

もし見つけたら
大事に抱えて
安らかに死ぬことができる.

2005年11月21日(月)



 時間

時間を考える.
嗚呼,今頃見つけられて
警察に運ばれて

連絡が届いて


そういうことを考えることに
脳味噌が苦痛を訴えた.

私は眠る.

悪い夢を見ながら

ひたすら眠る.

眠っていなくても眠る.

2005年11月20日(日)



 冷たい身体

もう君は今頃冷たくなっていましたか.
一ヶ月前.
あの部屋の中で.

君が電話を握って冷たくなったこと.
もう投げやりだったこと.

悔やんでも取り返しのつかないことをしたのだ,と
私にわからせてくれました.

生きていてもいいことなどないけれど,
今,君に会えたら
生きていたらいいことあるよ,いつか.
と言います.

会いたいなあ.
会えないなあ.



2005年11月19日(土)



 砂の道

何本もの道を砂の上に造っている.
波打ち際で.


2005年11月18日(金)



 真夜中

私は身を縮めて呻く.
子宮がえぐり取られるようだ.
胃が反転するようだ.

嫌な汗が出てくる.
疲れ切ってくる.

痛み以外の何も考えられなくなる.

嫌な汗に濡れながら
時間が過ぎていく.

2005年11月17日(木)



 only you

美容師は38歳で
美容師の彼女は11歳年下だそうだ.
もう歳だし,3年半付き合っているから
クリスマスは特に甘くないと言う.

でも
年に3回ケーキを買う日は
「僕と彼女の誕生日とクリスマス.」
と言う.
うれしそうに.

たぶん仲の良い恋人なのだろう.

2005年11月16日(水)



 カレンダー

医者と二人の午後.
夕暮れ.

死んで一ヶ月になるのだと呟くように言う.
もう少しで一ヶ月になるのだ.

昨日彼の写真をたくさん見た.
どれも薬でぼんやりしていた.とろんとした目.

のんびりした口調.


彼のことを書くのは,きっと段々少なくなるだろう.
思う量は同じでも.
死の匂い.
流すことをなくした涙の匂い.
喪の匂い.

2005年11月15日(火)



 垂れ流す,閉鎖する

感情.
鬱.
閉鎖して人と接する.
私はよく笑い,冗談を言う.
それを真実と見ていてくれ.

そうじゃないと面倒だから.

誰も誰を救えはしない.
わかっているから.

手を伸ばしてもらおうなんて
思ってないよ.

2005年11月14日(月)



 

足の肉を咬み取られてもいいと思った.
咬み取ってくれと思った.
私は感謝すると思う.

血の中で倒れたい.

2005年11月13日(日)



 座りが悪い

久しぶりの場所は座りが悪い.
外の景色さえ落ち着かない.
工事の音.
狂いそう.

狂ってた.
疾うの昔に.

そうだった.

瞬きを繰り返す.

2005年11月12日(土)



 精子バンク

日本で初,というバンクのサイトを見る.
精子一回放出で三万円.

三万円で,もしかしたら,自分の子供が産まれるのだ.
権利は一切ないけれど.
もちろんバンク自体はもっと高額を依頼者からもらっているけれども.

安いのか,高いのか.
そもそも値段をつけていいのかしらね.


2005年11月11日(金)



 ショートホープ

慢性気管支炎になるまでは吸い続けていた.
舌や喉が痺れるまで.
小さな箱は私の小さな手に丁度良く収まり.

煙草を吸う時は特に一人が好きだった.
あまりリラックスしているところを見られるのは
嫌いだから.公の場所で.

空を煙が汚していくのを
絶望しながら見ていた.

2005年11月10日(木)



 

蚊にあちこちを刺されていた.
その蚊は今不明.
出て行ってしまったのだろうか.
私の血は満足いただけただろうか.

瞼を刺すのはやめてほしかったけどね.

2005年11月09日(水)



 知らないこと

知らないことは無数にある.
知っていることなんて,ほんの僅かなんだ.

2005年11月08日(火)



 生涯の恋

22歳のお盆過ぎに君を見た.
ずっとそれから恋をしている.
これは生涯の恋.
思いが届かないことに絶望を感じても.
私は君が優しくて弱くて,泣き虫で,強いのを知ってる.
年月が,過ごした月日が教えてくれた.
最後のキスさえ忘れない.何年経っても.

私がこれからどんな人生を送っても
君が私の生涯の恋.

君は私の命を握る.

全部差し出した.

2005年11月07日(月)



 祖母の誕生日

今日は祖母の誕生日.
89歳.

もうかれこれ20年以上,お迎えが来ると言っていますが
お迎えは月に帰ってしまったようです.

長生きしてください.

2005年11月05日(土)



 毛糸と人生

毛糸は解ける.何度も編み直せる.
人生もそうなのか,私にはわからない.
でも
毛糸も無限ではない.編み直している間にすり減って
いつかは切れる.
きっと
人生もそういうところは似ていると思う.

人生について語るなんて,まだ早い.
相当に早い.

でもいつがちょうどいいかなんてわからない.

2005年11月04日(金)



 ハッピーバースデートーユー

殺してあげよう.
君はそれで楽になる.
私も変な気遣いをしなくて済むわ.

二人の関係を何処かに広げるなんて
誰かが何かを言うなんて
何て
ナンセンスなのでしょう.

毒を一緒に舐めたというのに.

世界を少し重ねたというのに.

君は私から遠ざかる.

殺されてもいい人だけ私を抱いてよ.

2005年11月03日(木)



 ギフト

私は君に全てもらった.
愛すること.
愛されないこと.
どうにもならないこと.
諦念.
未練.
絶望.
失望.
自殺企図.

2005年11月02日(水)



 バスにて

市内のバスには老人割引があるのだけれど
カードを使い,しかもパスも見せなければならない.
カードを入れるというだけで一苦労の老人もいる.

今日乗っていたバスの運転手は明らかにもう老人パスを使っているだろう人にも「パスは?」と怒気を含んだ口調で求めていた.

老人の一人が慌ててパスを出して,何かを落としてしまった.
「写真が・・」
という老婆の小さな声が聞こえた.
私が運転席に行こうと立ち上がろうとした時,老婆を強引に降ろしたバスが発車した.

とても大事な写真だったかもしれないのに.

2005年11月01日(火)
初日 最新 目次 MAIL