白痴日記
白痴



 女郎蜘蛛

女郎蜘蛛の大きな巣が張っていた.
私は見とれていた.
様々な虫が引っかかり,命を終えていた.

何重にもなっていて,それは立派な巣であった.

壊されてしまった.
たぶん大家が壊したのだろう.

女郎蜘蛛はどこに行っただろう.

2005年10月31日(月)



 善悪

善悪の末端は,その人間に託される.
自分が悪いと思うことをしないで生きていきたい.
せめて.

2005年10月30日(日)



 猫の肝臓

実家の猫の肝臓の数値が高く
家族一同心配していた.
再検査は本日.

数値は下がっていた.
まだ高めではあるけれど,半分以下に下がっていた.

安心した母の声.

あの猫には生きていってほしい.
私より長く.

両親に優しい時間をいつもありがとう.

2005年10月29日(土)



 前の恋人

前の恋人はとてもよい人だった.
何度もケンカはしたけれど
連絡がとれない時間が続いたけれど
私は彼の楽しそうな笑い声が大好きだった.

大好きなまま別れてよかった.
何も憎まないで思い出したい.

2005年10月28日(金)



 日にちを数える

指を折って日にちを数える.
過去に遡る.
君が死んで何日.

そのようなことを毎日して
手帳を見ては確認する.

何日経っても
何年経っても
もう戻らない人を.

2005年10月27日(木)



 今は只

あのことは本当だったのかと.
そのときは本当だったのかと.

2005年10月26日(水)



 いくら安売りでも

金がなければ何も買うことができない.
今日の飯を考える.
空っぽの家と財布.

米びつもない.

思い出を皿に乗せ,ベッドの中で食べる.

2005年10月25日(火)



 君を

君を全部描きたい.
筋肉や水晶体までも.

私はそのスケッチブックを持って
死にたい.

君の面影は消えることなく
私に刻まれているから

そして,それは
苦しいことだから.

刻んだのは私自身で
面影だけにしたのは君の選択で.

涙もなくした.
笑顔もなくした.
心は君のもとに.
君のゴミ箱に.

2005年10月24日(月)



 寝汗

異常なほど寝汗をかく.
ここ最近.

相変わらず悪夢の中で叫び
目を覚ますと
身体中が冷たい.
夜中に暗がりで着替える.

ベッドまで冷たい.

舌打ちをしてしまいそうになる.

さっき見た猟奇的な夢のように.


2005年10月23日(日)



 アキカゼ

長いお風呂を終えて,髪を丁寧に乾かして
外に出たら,寒かった.
心地よい寒さ.

コンビニエンスストアは相変わらず盛況.
小銭を数える.
雑誌を読む.立ち読み.見出しだけ.

コンビニエンスストアという小宇宙.

秋風に吹かれて,帰途についた.


2005年10月22日(土)



 A部さんへ

友達が死にました.
友達と思われていなかったかもしれません.
でも大事な友達でした.

死ぬことがどういうことなのか,少しずつわかってきています.
いつか先輩の話をしてくれてA部さんが泣いていたのを思い出します.

私は生きていこうとしているけれど
どこまで生きられるかはわかりません.病気は悪化しています.

私が死んでも,病死だと思ってください.
私は病気とうまく付き合って,最後まで闘います.

こちらにはいつ来ますか.
会いたいです.
とても.

2005年10月21日(金)



 バイバイ

バイバイと言えない私がいる.
バイバイ,またね,しか私は言わないんだ.

またね,がないお別れなんて.

悲しすぎる.

2005年10月20日(木)



 結婚記念日

両親の,36回目の.
36年という,私の年齢より多くの年月を
他人の二人が過ごしてきた事に改めて驚く.

そして深い感謝を.
これからの幸運を.

2005年10月19日(水)



 君が笑ったから

君が笑ったから
私も笑ったよ.

君が泣いたから
髪を撫でて,性交した.

それだけのこと.

性交の最中,君が楽しそうだったこと
私は不思議な気持ちで見ていた.



何処かに腰を下ろさなくてはいけないのに
その場所が何処にもない.
だから立ち尽くしている.
足が痛い.

2005年10月17日(月)



 伸びてくる髪

髪が顔を隠すから
私は笑わなくてすむ.

俯いて,こくりと頷くだけで.

それで全て終わったらいいのに.

朝なんて来なければいい.

汚れても汚れても朝が来る.
汚れを陽の目に晒す.

汚れて窒息したいわ.

2005年10月16日(日)



 今月も

無駄な卵流れていった.
無駄な胎盤流れていった.

普通の幸せ.
よくわからないけれど.
普通の幸せ.
それでいいと思う.

少し不満があって
もう少し贅沢したいなって思いながら
好きな人の横で眠って
ややに乳をあげるような.

そういうのが欲しいな.
夢は叶わない.
決して叶わない.

闇に包まれていくばかり.
そのうち表現することさえ,やめるだろう.
諦め.

自殺.
自殺.

2005年10月15日(土)



 国家レベルの意地悪

弱いものは死んでいいですか?
多額納税者が大事ですか?
金がなくて惨めで,泣いたことがありますか?
小銭を握って医者に行ったことがありますか?

あなたの一票が,もしかしたら,いえ必ず
人の命を多数握っているというのに.


2005年10月14日(金)



 暴れる

闇の中暴れる.
近所迷惑にならない程度.

悲しくて仕方なかった.

自分の存在が疎ましくてならなかった.

咆吼.闇に溶ける.

2005年10月13日(木)



 孕みたい

孕みたい夜には
君の熱を思い出して
子宮に祈りを託して

眠ろう.
眠ろう.

2005年10月12日(水)



 祖母

祖母のことを誰も看られない.
意地悪なんじゃない.それぞれの生活が精一杯.
身体は私よりも健康な89歳.
寂しさを率直に,わかりやすく,体現してみせる才能は
羨ましいほどだ.

私は祖母に恨まれるだろう,老人施設の検索をし
母に伝える.

家族の情が私にあるかと言えば,ない.
一緒に暮らしたこともないし,親戚と変わらない.
私にとっての家族は父.母,兄だけだ.

それにしても
この心の重さは何だろう.

2005年10月11日(火)



 か弱く可愛らしいもの

か弱く可愛らしいものは
とても憎たらしい.
守りたく,壊したく,泣かせたい.
残酷が刺激されるのだ.



2005年10月10日(月)



 花の匂い

花の匂いは狂おしく
鬱陶しい.
花は女かもしれない.
私は女で十分鬱陶しい.

2005年10月09日(日)



 涙の進化

涙が進化して刃物になったら
君も私も血だらけで
命を無くすだろう.

君について流した涙が限界量を超えて
私は涙を失った.

泣いても何も変わらなかったよ.
君の心に一滴も染みなかったよ.

君と涙がなくなった街で一人いるよ.

2005年10月08日(土)



 がらんどう

がらんどうの部屋にカーテンがつけられて
トイレットペーパーが置かれて
ベッドが置かれて
照明が光って
其処は人が住む場所になってしまう.

私はがらんどうが好きだ.
シュレッダーを買って,物を今以上に整理しよう.
今の私には其れが必要.

がらんどうに還る.

2005年10月07日(金)



 冬がない

此処には冬がない.
秋がずっと続く.
常緑樹も多い.

頬が寒さでピリピリすることもない.
髪が凍ることもない.

大好きなダッフルコートも新調していない.

重ね着で全く寒くないから.

ない.ない.ない.

2005年10月06日(木)



 たぶん私が欲しいのは

正直な腕なのだと思う.
ありきたりだ.
普遍的だ.

今だって,少し探れば,一瞬死ねば
ラブホテルのベッドに行くのは簡単だ.

でも,もうそういうの疲れた.

苦しくても
このままがいい.

2005年10月05日(水)



 マシュマロ中毒

マシュマロを噛み殺す瞬間の
ふんわりが好き.
大袋を買う.

中に入っているものは何でもいい.
入ってなくてもいい.

マシュマロを舌で溶かそうとして失敗する.

2005年10月04日(火)



 インソムニア

漂う.
私の魂を売っている露店の前.
先の破けた革靴.

携帯電話の光.
七色.
闇を破る.

漂い続けて朝が来る.

君の足下にいるかもしれないよ.


2005年10月03日(月)



 愛は国境を越えるけれど,愛は金銭感覚を越えられない

金で惨めな思いをしたことがない人には
わからない世界がある.
例えば一つのものを,一つの粗末なものを,分け合うような.
煌びやかなものに泥水を被せられたような.

それは愛を越えない.
惨めな念というものは,愛という不確かなものより
余程確かだ.

2005年10月02日(日)



 遺書

一欠片でもいいから骨を拾ってください.
覚えていてください.
迷惑をかけたこと許してください.

笑顔を見ると幸せでした.
その笑顔を曇らせてしまったことが悔いです.

真夜中の珈琲をもう一回飲みたかったです.


もしできることなら
喉仏の骨を拾ってください.
伝えたいことがたくさんあったから.

2005年10月01日(土)
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