白痴日記
白痴



 飢える心

心が飢えたらどうすればいいですか.
一人きりの部屋で名前を呼ぶ度,きしきしと音を立てる痛みを
どうすればいいですか.

抱いてはくださらないのですか.
その辺のお人形と変わりませんから.
責任などと申しませんし,簡単でも構いませんので.

どうか.

2003年05月31日(土)



 左腕

本当に傷跡だらけだ.
縦から横から斜めから.
フリーハンドのわりに真っ直ぐな傷.

流した血は何の意味もなく.

唯,傷跡と私が残っている.


2003年05月30日(金)



 おめでとう

いつも健忘気味の会話に付き合ってくれて有り難う.
元彼女が結婚して鬱になっている26歳男性.
ああ,今日からは27歳男性だね.

お船から見た景色は何て綺麗だったのだろう.
海と空しか見えなくてさ.

私は死ぬ死ぬ言って生きていくかもしれないし,
ぱっと死んでしまうかもしれないけれど.

生きている限り君の誕生日を祝うよ.
おめでとう.
よい一年を.





2003年05月29日(木)



 王様は裸

王様は裸だってこと,みんなわかっていた.

目立ちたがり屋でおせっかいな少年が
「王様は裸だ」
と言ったのだったかな.忘れちゃったけど.

王様は裸だ,人間は限りなく傲慢だ
おまえはただ自分が不幸だと思いこんでいて他人が妬ましいだけだろう
色々な出来事に対して自分を中心に置きたいだけだろう

言わぬが華.



2003年05月28日(水)



 笑う.

其れは久しぶりの笑顔で
自分の顔に浮かんだ,心からの.

彼女の大きな目と華奢な身体とを思い出して.
決して楽ではない道をしっかりと歩く女の子に敬意を.
そのユーモアに深く感謝を.


2003年05月27日(火)



 煙草

眠気覚ましに吸っていた煙草が
あなたの指にどんどん定着していったのは
私のかけたストレスもあるのだろうか.
自意識過剰かもしれないけれども.

人に禁煙をすすめていたあなたの指に今日も煙草.
死ねよ,と言っているかのような煙は空に.

吸っていた煙草が辛くて
執拗に手で握りつぶそうとした私を
怒鳴った声が響いた闇をまだ覚えている.

2003年05月26日(月)



 非常に嫌いだった言葉

・みんな
・〜するべき
・〜しなくちゃいけない


2003年05月25日(日)



 

子を産むためには減薬・断薬しなくてはいけません.
子を育てるためには真っ当な生活をしなければなりません.

子は欲しいが,欲しい子種は手に入らぬ.
子種を頂戴と言ってみても,ケンモホロロ.

腹の膨らまぬ理由を並べてみる,初夏の夜,

2003年05月24日(土)



 零か壱

0.5があるかもしれない.0.75もあるかもしれない.
勿論0.25も.

0か1しかない思考で生きるには私は賢さが足りない.
強さも足りない.

合間を認めてしまえば,呼吸が上手になるのかもしれない.

0か1しかない思考で,
もうこれ以上生きることができなくても
無理矢理進んでいくしかない.
まさに0 or 1.

2003年05月23日(金)



 夢を見ているかのような一日

生温い空気が,肺に入って
中途半端な午後の陽射しが,睫毛を灼いたけれど
其れは覚めない悪夢の続きのような.

叫ぼうと喉に力を込めて,産み出したのは溜息で.
しゃがみこむ代わりに,とぼとぼ歩いた.

2003年05月22日(木)



 不必要な玩具

其処に待機してくれていればいいのに
動き出す不必要な玩具.
身勝手な私が作りあげた玩具.

私の手など求めて泣いたり.
しなくていいのに.
私などいついなくなるかわからない.
だから.

私は思っているより,ずっとたぶん
非道い人だよ?

君は君で歩いていけばいい,なんて
言いながら
寂しくなったら手を伸ばすだろう.

嗚呼,もう
自分の醜さを投影するような玩具をどうして
作ってしまったのだろう.

2003年05月21日(水)



 体温

人の体温はいいなあと思った.
触れる手のひらから何か暖かなものが流れ込むような.
ずっと触っていてほしかった.

マッサージ屋にて.

2003年05月16日(金)



 プライド

私のプライドは,いとも簡単に傷つく.
きっと誇れるものなど持っていないのだろう.本当は.
卑屈な自尊心を飾り立てているだけで.



2003年05月15日(木)



 可能

絶好調に腕を切ったり薬を大量服薬をしていたときは
泣くことができなくなっていた.

今は泣くことができる.
余計惨めになるだけだったけど.

涙などただの汚れた体液.
私は涙を呪う.
自分を呪う.

死にたい.

2003年05月14日(水)



 口で.

既に何度か殴られていた.
ある日その場を離れるかどうか,という重要な知らせが二人の身に
同時に降りかかり.

大きな橋から綺麗な景色.
ぽつりぽつりと言葉少なに何か話した気がする.
話し終えて,取り敢えずその場ではハッピーに見えるかの結論.

舐めてよ.

ここで?今話していた内容は?最初からこれが目的で?

殴られて縮こまっていた私には抵抗できる力がなく,
質問と非難を零そうとした唇に違うものが刺さる.

無力感でいっぱいの行為が終わる.
食道に精液が流れるのを感じながら,ただサイドミラーの自分を
見ていた.

2003年05月13日(火)



 腕の皮

その日あなたの腕の皮は灼け果てて
湖のような形で剥げていた.

私はそれを惚けて見ていた.
睨みつけるような鏡越しの冷たい視線を十分に感じながら.

殺したいほど愛しかった.


2003年05月12日(月)



 天使

天使は常に舞い降りて
光る玉を遠く遠く投げる.

私は無様に其れを追っていくけれど
膝から血を流し,泥にまみれて.

けれど辿り着くのは,いつも闇.

そんな私を少し哀れみながら
天使はまた遠く遠く光る玉を投げる.

天使自体が幻.
だからいつまでも光は掴めない.
繰り返される幻.

どうか.死なせてくれ.

2003年05月11日(日)



 欠損

私の何か.

2003年05月10日(土)



 わかってよ

不特定多数とのお互い気持ちのない性交

女がひたすら相手を愛している性交

喩え相手に何の気持ちもなくても
違うよ.

それはとても
悲しくて愛しい.

2003年05月09日(金)



 ぐるぐる

ぐるぐると歯車が回るよ.
自殺への歯車.
背筋がすうっと寒くなり,決意したような目を見開き.

ひとりだった.
助けはなかった.形式的なものしか.
求めていた心はなかった.
迷惑そうだった.
私は迷惑な存在だった.

求めたものは遠く痛く.

ぐるぐるがらがら.
がしゃあん.

2003年05月08日(木)



 何処かの小さな国

そこで私は幸せという物にまみれて
暮らしたい.
26の初夏の午後の妄想.

子を産み育て,夫を愛し夫から愛される.
時々は贅沢なパスタを作る.
夜は夫の腕の中で眠る.

そんな事有り得ない.
小さな私が確かに掴んでいた「当然」は崩れて久しい.


2003年05月07日(水)



 みんなが幸せというものをもっているようで

信号待ちで停車して行き交う人々を見ていると
みんなそれぞれ幸せなような気がして
二人乗りの恋人も
幼子を連れた母親も.

目を伏せたくなるのを
つまらないプライドで必死に堪えて
私はずっと先を睨みつける.

2003年05月06日(火)



 夜の夫婦生活

抱きしめて欲しいと書いてあったので,
抱きしめられて眠りたいと書いてあったので
2歳半の娘がいる家庭でそうすれば?
と返信.

夜の夫婦生活がないとお返事.

は?


2003年05月05日(月)



 ペットボトル

初めて彼になった人は邪気のない人で.
まあ,何となくお互い時間を過ごしていた.

ある日台所で何らかの目的でペットボトルを洗っていた彼が
私を呼び,ペットボトルをくるくる回しながら水を出していた.
こうすると中の水が早く出るんだ,と彼の郷里の訛りが抜けない言葉が
得意げに響いて.

その人は邪気もないかわりに,残酷で私への興味も一時的なものだった.

けれど私はペットボトルを時々洗う必要に迫られた時
いつもあの日のキッチンの二人を思い出すのだ.
苦笑しながら.

2003年05月03日(土)



 指折り

帰ってくるまで片手で足りる.
心配なんかしてもらっていない,と自分が自分を馬鹿にして見つめている.
わかっているよ,と自分が自分に気弱に答える.

片手の指先に痛いほど感じる.

2003年05月02日(金)
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