バカ恋
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■ メランコリック湘南 ■



春の匂いが其処までしてきたね。

てか、もう春だね。

明日から天気悪くなるみたいだけどね。

早く向日葵が咲く季節にならないかな。





スーさんが亜米利加へ旅立たれて早壱週間。

明日帰って来るのです。

其れは其れで嬉しいです。

ま、其れはいいんです、其れは。

嗚呼。

何と言いましょうか。

シュウとは二人きりの生活を満喫しようとしていたのに、

土曜日あたりから何となく仄かに険悪ムゥド。

否、険悪って訳ぢゃないけど、倦怠ムゥドだな。





シュウの態度が気に食わないんだよ、ぶっちゃけ。

あんなにはしゃいだかと思うと、

急にやる気無さげな感じになりやがって。

貴様は怪人二面相かっ?ボンクラ。






そりゃあアタシだって元気の無い時くらい在りますよ。

ええ、そりゃあ普通に在りますよ。

でもさ、譬え仕事で嫌な事が在ったりさ、

疲れて帰って来たりしてもさ、

大好きな人に会えるってだけで、

其の人が其処にいるってだけで、

元気になったり、嬉しくなったりするもんさ。

偶に八当たったりするけど、そんなの可愛いもんだと思うよ。

シュウのテンション下がりまくり攻撃に比べればね。





もうさ、なんつーの?

そう云うのにイチイチ反応するのが疲れるのよね。

おやおや?何だが元気が無いですねぇ

って心配したりするのがすっげえ嫌だ。

明らかに機嫌が急降下してるのは見え見えなのに、

どうしたの?何かあったの?

って聞くとだな、

何にもないよ

とか言いやがるしだな。












貴様のそう云う態度がめさめさムカつくんぢゃ此ノ野郎













あ、でもアタシ気が付いたのです。









かもしれない・・・。

在り得なくない。

てか、アリエール。






多分、シュウに言わせれば、

アタシのほうが、とんだ食わせモノなのだろうな。

畜生、判り辛いのはキライよ。



■ メリケンサック ■



実に不愉快。

まったくもってけしからん。

腹が立って仕方がない。

『相手が同じウェブ上にいるのは残酷だ』だと?

そんなリスク承知だろう。




アタシが何を考えて、どんな事で笑って、

どんな事で悲しんで、どんな事で喜んで、

どんな事で傷つくかなんてこと何も知らないくせに。

アタシが何者で在るかなんて微塵も知らないくせに、

如何してそんなお手軽な言葉を並べられるんだろうね。

まるで井戸端会議で盛り上がってる人の噂話が大好きな

退屈なオバサン連中と同じだね。

そう云うことは、隠れてこっそりやってくれ。

アタシの目の届かない処でひっそりとやってくれ。



+++++++++++++++++++++++++



スーさんが旅立ってから早四日。

ワールドワイドな出来事なのに、

一度も国際電話は御座いませぬ。嗚呼心配。

メリケン野郎にとっ捕まっていたら如何せやうぅ。

心配なのは其れだけじゃなくって








何かあったらかなりヤバくないすか?

早速、専門家の御友達モリ氏に電話して、

状況を説明して、何とかならないかと相談したら、

無理に決まってんだろっ! と一掃されてしまいました。

今更ながら事の重大さにあわわあわわしているアタシ。

無事の帰還を願わずには居られません。

せめて電話の一本くらいしろよな。





■ おとなの事情 ■



なんと。

スーさんが旅行に出発されました。

突然ですが、亜米利加まで。

スーさんが何処かへお出掛けになるのは、

日常茶飯事なのにもかかわらず、

何となく寂しい感じがほろほろ。

シュウが居なかったらアタシはこの家で一人ぼっちなんだな。






寂しがっているアタシを気遣ってかどうかは知らないけれど、

シュウはアタシに何度もアイシテルって言ってた。

何度も何度も言いながら、

アタシの中で堕ちた。


呪文みたいだな


アタシも同じくらいアイシテルって言ってた。

バーゲンセールみたいだね。

大安売りだね。

でも愉しくて嬉しいね。






ツマラナイ観念や

クダラナイ価値観なんて捨ててしまおうね。

アタシ達が今こうして抱きしめあって、

アイシテルって馬鹿みたいに叫んで、

手を繋いだまま裸で眠ってるこの現実だけを大事にしようね。

其れ以上でも其れ以下でもなく。






シュウは大事なモノを全て捨てて此処に居る。

本当は守らなくちゃいけないモノまで捨てて此処に居る。







以前のシュウに何が在ったのか、アタシはあんまりよく知らない。

けれど、

強い決意と意志を持ってシュウが此処に居るのは事実。

そんなシュウを大事にしたいとアタシは心から願う。









■ シンクロ率16% ■




キミが好き。キミが好き。

好きだけど、好きだけど、それだけじゃ御腹は空く。





一向に進展しないアタシとシュウの関係。

平穏すぎるほど平穏で、

平和すぎるほど平和な日々が続く。

其の日々の生活の中で、

アタシは毎日葛藤する。




このままでいいのか?




この平穏無事な生活が決して嫌なわけではなく、

今すぐシュウと結婚したいとも思っているわけでもなく、

何と云うか、

シュウはこのままでいいのかい? と聞いてみたい気分なのだ。





うまく言えないんだけど、

アタシはシュウの愛情をちゃんと感じているし、

アタシもシュウを大事に思っているし、

其の感情や思いは、確実に存在するモノなのだけれど、

寂しさや切なさってのは、

ちょっとした心の隙間に入り込んでつけこんで来るから、

そんな時は、もっと具体的な証みたいなもんが欲しくなったりする。






其れが何かは判らない。

否、判ってるけど、言わない。

アタシが言ってしまっては何の意味も無い。





こんなアタシは我儘かな。

かもしれないけど、アタシは心配してるんだよ。









そう云う男にだけはなって欲しくない。





■ 厳 冬 ■



強風が湘南を駆け巡っていました。

春の嵐だね。






昨日、元旦那の母。つまりアタシの元義理母が死にました。

正しく言えば、昨日、溺死体で発見されました。

目立った外傷はなく、事件に巻き込まれた可能性はないそうです。






四日くらい前、アタシは地元の友人からのメエルで、

義理母が行方不明なのを知りました。

暫く会っていないうちに痴呆症になったのかと思いましたが、

其れは間違いで、

彼女は痴呆症による徘徊で行方不明になったのではないそうです。

アタシは自分の父母にも連絡し、

無事に帰ってくるよう祈っていました。

しかし、祈りは届かなかったのです。






昨日と一昨日の地元は、

春から冬に逆戻りしたような天気で、雪もたくさん降ったそうです。

一人で川原を歩いた義理母は、

息も凍るような寒さの中で死んでいったのです。

たった一人で。






元義理母は何時も天真爛漫で、明るくて元気で、

大きい身体を揺すってよく笑っていました。

薩摩女を絵に描いたような、懐の大きな人でした。

一度はアタシの「母」になった人です。

一度は同じ苗字を名乗った人です。

もう二度と会えない人です。






元義理母の訃報を告げた電話口の元旦那は、

「半ば諦めていた」と泣いていました。

「俺のせいだ」と泣いていました。

死んだ元義理母が可愛そうでなんともいえませんでした。




++++++++++++++++++++++++++




今年に入ってから、

アタシの廻りで、既に参人の方が亡くなってしまいました。






彼女達の冥福を心から祈ります。

■ とりこし苦労 ■



アタシだってシュウの過去が気にならない訳じゃない。

けれど、昔の話を何時までも引きずる気もないし、

アタシとシュウがこう云う関係になった時から、

アタシ達の歴史は始まったわけで、

其れ以前の事はアタシの中では何でもない事だ。




アタシだってシュウが何時か心変わりするんじゃないかって、

突然心配になったりもする。

気持ちは永遠ではないし、

好きになってしまう心は誰も止められない。

自分に自信が在る訳でもない。

不安要素を挙げたらキリが無い。



アタシはシュウより随分年上だとか、

バツイチで子持ちだとか、

かつて人を死ぬほど傷つけたりしたとか、

誰かのせいにして笑っていた事があるとか云々




けれど、其れが単なる言い訳にしか過ぎない事をアタシは知っている。

其れが自分を甘やかしてる材料だって事をアタシは知っている。





シュウの気持ちが変わる事を懸念するのは卑怯な事だ。

だったら、

シュウの気持ちが変わらないように努力をするべきだ。

アタシが出来る事を精一杯に努力した結果、

其れでも彼の気持ちが変わってしまったら、

アタシは多分、自分を責めずに済むだろう。





今のアタシは、シュウにとても愛され、大事にされている。

だから、

此の侭、其の素晴らしい待遇に胡坐をかくのではなくて、

アタシもシュウをとても愛し、大事にするべきなのだ。

当たり前の事だけれど、忘れちゃいけない事なのだ。

簡単そうだけど、とても難しい事なのだ。






どんなに嫌な事が在っても、

ほんの些細な幸せの瞬間が、其れを一瞬で吹き飛ばしてしまうから、

すごく不思議だと思う。

アタシはその一瞬の為に生きているのかもしれない。

永遠に続く一瞬の為に。






アタシがこんな事を真剣に考えている時に、

素敵彼氏のシュウくんは、な、な、なんとっ!!









ほらね?

在りもしないことに疑心暗鬼になって心を動かすのが、

何程クダラナイかって事、わかったでしょ?





■ 大いなる無駄 ■



シュウは大いに不安がっていた。

かつて味わった苦い思いが蘇ったらしい。



俺はあかねを愛してるし裏切ったりしないけど、あかねは?



勿論アタシだって裏切るつもりなど無い。

そんな当たり前の事を不安がっているシュウ。

アタシにとっては取るに足らないような些細な事でも、

シュウにとってはとてつもなく重要な事なのだ。




如何してそんなに不安がるの?アタシはこんなに愛してるんだよ?



愛されてる実感は在ると言う。

アタシが信じられない訳じゃないと言う。

其れでも心の中のモヤモヤが消えなくて、

不安で仕方がないと言う。









シュウの中で何時までも消えない過去の亡霊。

アタシが何かしらのスイッチを押す度に、

こうやって不安だらけの時間を過ごすのだろう。



考え込むだけ無駄なのに・・・

人の形は様々で、誰もが同じ結果を辿る事など有り得ないのに・・・



恐らく、頭では理解しているのだろう。

けど、

心が言う事を聞いてくれないのだろう。






アタシに出来る事は、

シュウの不安材料を取り溢し無く排除する事。

長い時間を掛けて、諦めずにシュウの事を守っていよう。






永い永い沈黙の時間が過ぎ、弐日経った昨日、

シュウはやっとアタシを力強く抱きしめた。






■ アイシテルの先に在るモノ ■



何時に無く神妙な顔でシュウが悩んでいた。

今度は何さ と自棄に冷ややかに聞いてみた。

今までのパターンを考えれば、大体、

アタシが何かをやらかしたか、或いは仕事の事か、

はたまた、彼の家のゴタゴタか、そんなようなとこだ。

だから、

何で悩んでるか判る? とシュウが言った時、

アタシは何の迷いも無く、其の三つを挙げた。

けど、

シュウは其の三つの答えには首を横に振り、

俺が悩んでいるのはスーちゃんの事だよ と言った。







アタシはシュウの言葉に愕然として、

とうとうこの時が来たのだと、猛烈な悲しみに包まれた。



やはり自分の子供とは違うのだろう。

やはり受け入れるのは難しいのだろう。



スーさんについてしきりに悩むシュウを見て、

アタシははっきりと思い出した。

子供の事を受け入れられなかった男達の事を・・・。

『シュウだけは違う』 そう勝手に決め付けたアタシの思いが、

音も無く崩れ去り、アタシは一体何を信じればいいのだろうと、

また勝手に落ち込んでシュウを困惑させた。







シュウは続けてこう言った。















は?








何だ其れ。

其の事でキミは頭を悩ませていたのかい?

アタシったらうっかりうっかりちゃっかり。



シュウ曰く、

そうすれば、自分自身の管理も出来ると思うし、

いろんな意味で大人になれると思うんだよね。

今までは周りの人が手を差し伸べてくれてたから、

随分とわがままに甘やかされて育ってきたでしょ?

来年はもう六年生なんだから、もう少ししっかりしないと!




アタシはシュウの話を聞きながら、愚かな自分を痛感した。

シュウを年下の若造と甘く見ていたのはアタシかもしれない。

シュウを家族として考えていなかったのはアタシかもしれない。

シュウはアタシが思っている以上に、

ずっとずっとアタシ達の事を考えていてくれた事に、

凄く驚いたし、また、改めて感謝もした。






シュウは眩しいくらいの笑顔で話を続け、

スーさんの事から、アタシ達の此れからの生活にまで及んだ。



二人の収入を合わせたら、結構な金額になるから、

生活費を除いた分を貯金をして、

あ、毎月壱拾万は貯金するつもりだからね。

で、其の中から旅行に行ったりするんだ。

一年に壱度は海外旅行に行きたいな。うん。

それからそれから、子供が出来たら・・・・




夢見たいな話だなって思ったけど、

シュウと一緒なら、其れも夢じゃないような気がしたよ。





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