くじら浜
 夢使い







墨汁に染まった日   2003年11月29日(土)

中学1年の時に、体の不自由なクラスメイトがいた。

子供というのは残酷なもので、この人は自分たちとはどこか異なるな・・と思った瞬間、その人を好奇の目で見たり、それが複数になると苛めというはっきりとした形になっていく。
大人の陰湿なそれとは違い、直線的な苛めである。
彼の場合も例にもれず、少なからず苛めにあっていた。
言葉での苛めであったり、ちょっとした嫌がらせであったり・・

でも元来明るく気の強かった彼はそういう目にあった時、苛めた奴を不自由な足取りで追いかけたり、おぼつかない口調で言い返したりしていた。

僕は彼を苛める他の人たちの気持ちがどうしても理解できず、苛めの輪には入っていなかった。

  ある人が彼に聞いた、
  「君はこのクラスで一番誰が好き?」
  「・・・じゅんぎが一番好き」
  と彼は答えた。

彼から「好き」といわれた僕はみんなからバカにされた。
でも僕は素直に嬉しかった。
このクラスの誰でもなくこの僕を彼は一番好きなのだ。
とても嬉しかった。


ある夏の日、
習字の時間に彼が突然暴れ出した。
たぶん積り積った鬱憤が一気に爆発したのだろう、顔を真っ赤にして大声で叫びながら暴れ出した。
周りのみんなはあっけにとられたり、驚いて教室の隅に駆けていったり・・
しかしだれも止めようとはしない。

僕は後ろから彼の手を獲った。
彼に好かれている僕が止めたら彼もおとなしくなるだろうと思ったのだ。
しかし・・
彼は振り向きざま、さっきよりも更に顔を紅潮させ僕に罵声を浴びせ、泣きながら腕をブンブン振りまわし、その度に持っていた筆の墨汁が僕に飛びかかってきた。

僕はかまわず彼を思いっきり抱きしめ、彼が暴れ止むのを待っていた。
彼は尚ももがきながらも徐々に落ち着いていった。

教室の床と机は墨汁で真っ黒に染まり、
僕の顔と制服も真っ黒に染まった。


僕は・・
ショックだった・・
何故、彼は僕にまで向かってきたのか



つい最近、
この出来事を友人に話した。
そしたら友人はこう答えた、
「よかったね、じゅんぎ。彼はじゅんぎだから向かってきたんだよ」

思いがけない言葉だった。

そうだったのか
僕だから向かってきたのか


長年痞えていた物が取れた一瞬だった。






poko   2003年11月28日(金)

あったかいね嬉しいね
ふたつのお茶わんよっつの手






染まる世界   2003年11月24日(月)

真っしろな空中に朱の絵の具を落とし
波紋が少しずつ静かに広がるように
僕の血もトクトクと宇宙に脈打ち
その振動はまた僕の細胞に戻ってくる

あらゆる生命は僕の中にあり
それは日々進化し
それぞれの循環作用は絶え間なく
振動と波紋を繰り返す






流れゆく雲の行方   2003年11月23日(日)

雨がふると雲はゆっくりと 流れる

晴れた日に真っ白な雲は
 また ゆっくりと流れる

徐々に曇ってきた空は
 ゆっくりと 雲を流す

僕の見た空はどれもひとつで
雲はたくさん 流れていった。






いつか見た光景   2003年11月16日(日)

闇に舟が一艘浮かんでいます
お尻から真っ赤な火を噴いて
その火が闇の中にぽっかりと舟を浮かせます

僕の宙(そら)には光がなく
舟の尻尾を追って歩いています

それは彼方の出来事であるような
夢の欠片でもあるような

光は確かに道を創りました






ビックバン   2003年11月14日(金)

そのすべてのものが爆発し
エネルギーは体内へと拡散された

飛び散った核の破片の
蚯蚓のような亀裂の奥に
己の意識を注入したら
無秩序の中の新たな細胞に生命が宿る

その生命がいくつにも分裂し結合し
破片と絡み合い融合し
やがてその小宇宙ははっきりとした眼になっていく

爆発を繰りかえし繰りかえし






寒い朝   2003年11月11日(火)

吐く息が白くはね返る
まっすぐにまっすぐに息を吐き
その息が見えなくなった頃に振り返ると
もう朝が始まる。






情報という名の栄養   2003年11月06日(木)

地中から水分を吸い
太陽から光合成を受け
蜜蜂から花粉を受け取り
たえず細胞分裂を繰り返していく。

根に葉に茎に花に
張りめぐらせた集中回路に情報が流れ込み
着実に成長していく樹のごとく
流れる情報
吸われる情報

情報に息を吹きかけるものたちの偉大さよ。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
IT革命が浸透し、インターネットも身近なものになってきた。
情報伝達のスピードやそれに伴なう諸々の環境はもちろん素晴らしいものだけど、それらの情報に生きた血を入れる「人の心」こそがIT革命だと思います。





初日 最新 目次 HOME