冒険記録日誌
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2021年07月03日(土) トロール牙峠戦争(スティーブ・ジャクソン/新紀元社)

 これはゲームブックじゃないのですけど、ファイティングファンタジーシリーズを遊んだことがある人には有名なゲームブック作家、スティーブ・ジャクソンが執筆した、タイタンの世界が舞台の冒険ファンタジー小説なんです。
 30年くらい前から存在したのに、日本では未訳でずっと読めなかった、この幻の小説が今年日本で発売されたのですから、当時のゲームブック少年だった大人たちも胸をときめかせて待った方も多いのではないでしょうか。
 この小説は内容も豪華。
 「バルサスの要塞」に登場したボス“バルサス・ダイア”と、「モンスター誕生」に登場したボス“ザラダン・マー”が戦争をおっぱじめるのです。後半には、火吹き山の魔法使いこと“オルドラン・ザゴール”も登場して、悪魔の三人揃い踏み!
 そんな状況の中、人間の国サラモニスの命運を任されたチャッダ・ダークメインという人間もこの戦争に絡んできて〜という三つ巴の戦いなんですね。関連するゲームブックを遊んだ人ならニヤニヤすること間違いなしです。
 私は正直なところ、もうすぐ発売される「火吹山の魔法使いふたたび」も含めたファイティングファンタジーゲームブックセットよりも、読むのが楽しみでしたからね。
 最近のライトノベルなファンタジー小説に慣れた身には、新鮮な一陣の風のように感じて、購入早々あっという間に読んでしまいました。

 それで小説のネタバレを避けるように感想を書こうとすると、これがなかなか難しい。で、これから読む人も多いと思って、そこは避けて当たり障りのない事だけ書くことにします。
 最初に読んで一つ思ったのは、悪魔たちの戦争と、人間側の冒険が最初はバラバラに進行するので、一本の小説としてはまとまりがなく感じた事。しかし、個々のシーンは良く出来ていて、総合的には面白かった。
 例えるなら、自分にとっては、あの名作ファンタジー小説「指輪物語」というのは、一つの小説としては冗長でつまらないとも思えるのですが、世界観が描き込まれて描写もよくできているので、お気に入りのシーンとか何度も読み返したくなるんですよね。そんな感じ。

 他には、「なんでザゴールはあんな弱点を不用心においてあるんだろう」とか、「ザラダン・マーもあんなもろい弱点を作ってどうするんだ」とか、ゲームブックを読んだときはそれほど気にされずに済むけど、小説として見ると不自然さを感じるような点がありました。もっともゲームブックの方を知っていると、そこもニヤニヤしながら読めるところではありますが。
 まあ、これは小説には無関係ですが、ゲームブックのときでも、バルサス・ダイアはあんな窓を設置するな、とか思ったりもするね。
 悪魔の3人の中では、イラストも含めてザゴールが一番好きな私にとっては、今回のザゴールの役どころはなかなか美味しいんじゃないかと喜んでいます。結果的に漁夫の利みたいに一番得しているし。そもそもゲームブックでも、他の2人に比べて、サゴールは特に悪さをしていないんだよな。「火吹山の魔法使いふたたび」では、また違うのだろうか。

 意外であり、嬉しかったのは、善の魔法使いヤズトロモが登場したこと。彼はリビングストン作品でしか登場させないものだと思っていました。
 発売予定のファイティングファンタジーゲームブックセットの中身は、「火吹き山の魔法使い」「バルサスの要塞」「盗賊都市」「モンスター誕生」「火吹山の魔法使いふたたび」の5冊です。
 この小説の方にヤズトロモが登場したことにより、このセットの「盗賊都市」を「運命の森」に差し替えれば、小説に関連する主要ゲームブックが全て揃うようになると思いました。小説にはポート・ブラックサンドは登場しないので、「盗賊都市」だけ小説とは無関係。まあ、「運命の森」より、セット唯一のシティアドベンチャーでもあり傑作とされる「盗賊都市」を選んだ編集の気持ちはとてもわかるのですが、小説と合わせて考えると惜しい気もしなくはないです。

 後書きでは人間側の主人公、チャッダ・ダークメインが登場する作品は他にもあるそうで、それらが日本で日の目を見ることができるか、また今後の新しいゲームブックの発売はどうなるか、それは本書やゲームブックセットの売れ行き次第だそうですので、良かったらこの小説を是非購入してみてください。
 この日記を読んで興味をひかれた方なら、きっと満足できることでしょう。
 


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