冒険記録日誌
DiaryINDEXpastwill


2021年06月14日(月) ギリシャ神話アドベンチャーゲーム3 冒険者の帰還(P.パーカー他/社会思想社) その13

アリアドネと別れた拙者と長老は、兄のいるというエリュシオンの野に向かって歩き続けた。しかし、景色は相変わらず気の滅入るような霧につつまれてはっきりしないままだ。
「もうエリュシオンの野には、さしかかってますよ」
 長老は拙者の気持ちを察したように言った。
「そうなのでござるか?しかし、エリュシオンの野といえば、日光の降り注ぐ緑野に咲き乱れる花に満ちていると聞いたが、景色は変わらぬな」
 長老が手をひと振りすると、とつぜん拙者らは、春の陽光に満たされて、花々が咲き誇る野原に立ち尽くしていた!
「まえにもいったように、ここには現実というものはありません。今のはあなたが見たいと思った景色を見せただけですよ」
 長老はこともなげに説明した。だが、拙者はそれどころではなかった。花畑の中央に兄上テセウスの姿が見えたからじゃ。
「あにうえー!」
 拙者の呼びかけにテセウスはニッコリ笑って、駆け寄ってくれた。
「アルテウス!ようやく会えたな。よくぞ、兄の意思をついでミノタウロスを退治してくれた。父の死のあと、お前の身をどんなに案じたことか。無事でなりよりだ。お前の罪の穢れを払うことのできる一族の元へ案内してやろう。二人で一緒に黄泉の国を出るのだ」
「兄上。ともに母上の家に帰ろう。母上もさぞ喜ぶじゃろう」
 長老に別れをつげると彼は、兄を黄泉の国から連れ出すためには、拙者が先頭にたって歩き、生者の国へ戻るまで決して振り向かないことが必要だと助言してくれた。さすがギリシャ神話が舞台の冒険じゃ、いろんな神話がまぜこぜになっとるわい。

 生者の国へ登る長い長い階段を兄じゃと二人で登っていく。もっとも決して振り返ってはならないという長老の助言どおりにしていたから、後ろから兄上がちゃんとついてきているか不安がつきまとった。
 どのくらいたったであろう。頭上から細い光がもれさしてきたのをみて、ほっとする。そのとき後ろから兄上の声が聞こえてきたが、振り返ろうとするのをぐっと堪えて歩き続けた。そんなよくある罠にひっかかるものか。声はだんだん遠のいていき、逆に地上の光はどんどん強くなっていく。
 ついに日光の降り注ぐ地上に辿り着いた。
 「やったな兄上!」
 拙者は喜びに身を震わせながら振り返ったが、そこにいたのはなんと兄上ではなく、商人マルコスだった!
 「君のお兄さんから伝言を受け取っているよ。ピタロスの一族を探せっていってたぜ」
 「兄上はどうしたのでござるか!?」
 「さてね、俺にはわからないよ。それはともかく、船に乗せてやるよ。まったく旅は道連れさね」
 マルコスは黄泉の国で手に入れたオボール硬貨でいっぱいの袋をかつぎあげたまま、自分の船へ向かって歩いていった。拙者も他にあてもなく、首をふりふりついていくのみだった。
 
 例によって船旅は平穏なものではなく、怪物に乗務員が2・3人食べられることもあったが、マルコスはいつもより犠牲者は少ないと平気な顔している。港に寄港したときにマルコスは拙者を強引に酒に誘った。断わろうとも考えたが、あるアイデアが浮かんだため拙者は付き合うことに決めた。
 一晩、奴と飲みあかし、酒に酔い潰れたマルコスを残して、船を出港させる。船員は船長はあとで落ち合うことになるという拙者の嘘に疑うこともなく、意気揚揚と船を出発させる。行先はもちろんアテネだ。
 さらばマルコスよ。
 置き去りにしたマルコスのことを思い、多少良心がとがめる。あんな奴でもいつのまにか情がうつってしまったらしい。じゃが、腐れ縁だったマルコスとの別れは、この旅がそろそろ終わりに近づいている印ではなかろうか?

 10日後、船はアテネの港ピレエウス 何年ぶりかで帰り着いたアテネは、他人の町のようじゃった。通行人にきくと、アテネの王位はイテコン将軍の息子が継いでいるという。
 イテコン将軍……。父上が亡くなった時、民衆が怒っているといい、拙者をアテネから脱出させた男だ。今思えば、世継ぎである拙者を、ていよくやっかいばらいしたわけだ。
 ミノタウロスの生贄になりかけたあの若者たちにも出会った。拙者を旧友のごとく温かく歓迎してくれたが、そんな彼らも、もう若者といえないくらい年を重ねているのが痛々しい。
 そのなかの母上によく似た娘が拙者に微笑みかける。そうだ。母上はどうなさっているだろう。ふいに故郷にたまらなく戻りたくなった。
 翌朝、拙者は故郷のトロイゼンに向かって、街道を歩き始める。
 第一巻の冒険ではこんなボロボロの拙者の姿、想像もしていなかったでござるな。次から次へと悲惨なことばかり…。じゃが、なんとなくこの冒険もゴールが近い気がする。もうしばしの辛抱じゃ。
 そんなことを考えているとき、背後から衝撃が走り、拙者は気を失った。

 暗闇の中で縛られた状態で目が覚める。どこかの倉庫に閉じ込められたようだ。
 扉が開くと、鉤づめの足に鳥の仮面をつけた悪夢のような鳥人が入ってきた。縛られたまま飛びかかって、そいつともみあっているうちに、奴の鉤づめで縛られていた縄が切れた。しめた!奴を突き倒すと、そのままそいつはぐったりとなった。
 外はもう夜で、月明かりの中に薄ぼんやりと小道が2つ伸びているのが見えた。仲間がいるかもしれないので、その片方の小道を駆け出す。
 背後でキーキー、カシャカシャと騒ぎ声が聞こえ始めた。気付かれたらしい。必死に走り続けるが、前方の茂みから鳥人どもがあらわれたではないか。
 ふいに胸に鋭い痛みがはしる。見下ろすと胸に矢が突き刺さっているではないか。
 ぐったりと地面に崩れ落ちる。ゼウス神の助けを求めたかったが、なぜかその選択肢はない。
 おのれ……もう終盤の感じがするここまできて最初からやり直しとは。


by銀斎


山口プリン |HomePage

My追加