冒険記録日誌
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2021年06月13日(日) ギリシャ神話アドベンチャーゲーム3 冒険者の帰還(P.パーカー他/社会思想社) その12

 その後は邪魔者らしいものには出会わない。周りにたわわに実る果物を目の前にして餓えた男がいた。彼が痩せこけた手を伸ばすと果物の枝はすっと遠くに逃げるのだ。大岩を抱えて丘を登り続ける男がいた。見ていると、もう少しで頂上というところで大岩は手から滑り落ちて元の位置までもどってしまった。おそらく彼はこれを永遠に繰り返しているのだろう。そんな光景が延々と続いた。
 亡者に鞭を振るう男がいた。そいつは黄泉の国にいる管理人の一人らしい。 彼に聞けば兄、テセウスの居所がわかるかもしれない。
 彼は拙者が接近すると、鞭を振るう手も休めず目もあげぬまま、喋った。
 「アルテウスだな。兄に会いにきたのだろう。わしは黄泉の国の裁判官、アイアコスだ」
 「そうでござる。どこに行けば会えるのが教えていただきたい」
 「テセウスならエリュシオンのどこかにいるはずだ。案内人に長老をつけてやろう」
 うす汚れたローブを着た男が目の前に、ぼぅと現れた。
 「長老。この男をつれて黄泉の国を一通り案内してくれ。ここの神秘を見せてやるのだ」
 「かしこまりました」
 長老と呼ばれた男はアイアコスに一礼すると、足早に歩きはじめる。拙者は慌ててついていく。

 長老と拙者は霧のうずまく道を延々と歩いていたが、7つの分かれ道で長老は立ち止った。
 「どうやら、象徴的な選択の瞬間にきたようです」
 なにやら小難しいことを言う。どういうことか問い返すと長老はこともなげに答えた。
 「黄泉の国は何一つ現実的なことはないのですよ。この道をいけば(と、道の一方を指差す。)腐敗した廷臣たちのすみかに出ます。2つ目は色欲や物欲の亡者ども。その次は君主や支配者たち。次は自然の災害。次は工事中。その次は行きたくはないでしょうね。地獄の奥地へ向かう道です」
 「残り一つは?」
 「クレタの女王がいます。愛人に捨てられ、出産で命を落とした」
 拙者の背筋に冷たいものが走った。その道を進んでいくと、「アリアドネ」という小さな看板があるではないか。その奥からはかすかに水音が聞こえる。
 「彼女は死んだのか。姿は見えないようだが」
 「いえ、そこからやってきます。ああして永遠に水浴から戻るのが彼女に与えられた罰なのです」
 「水浴?珍しい罰だな。さほど辛い気もせぬが」
 「彼女の父は黄泉の国では裁判官の一人だったのでね。ああ姿が見えてきました」
 長老の指差した先を見ると、ああなんたることじゃ!拙者が置き去りにした女が近付いてくるではないか。彼女は拙者の姿をぴたりと見据えていた。
 「あら、アルテウス。こんな所にくるなんて?これも罪滅ぼしのつもりなの」
 「国に帰ろうとしているのじゃ。そなたの姿が再び見られるとは思わなかった」
 「国へ帰って、英雄の歓迎を受けようというわけね。でもあなたを喜んで迎えてくれる人がいるかしら?」
 彼女は痛いことをついてきた。
 「クレタの魔力がいまだ健在でなりよりだったな。水浴はさぞ気持ちよかろう」
 拙者の嫌みにアリアドネはキッとなって、にらみつけた。
 「出てお行き、アルテウス。出て行け!」
 長老とともにこの場を立ち去った拙者は思わず涙ぐむ。本当はアリアドネとこのような再開をしたくはなかったのう。


by銀斎


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