冒険記録日誌
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2016年01月10日(日) 秋葉原からの脱出(岡本崇史/スマッシュ文庫)

 事情により今は休日しかネットができない私ですが、その貴重なネット時間でよく何を見ているのかというと、最近は「ゲームカタログ@Wiki 〜クソゲーから名作まで」がお気に入りです。
 フェミコン以前から最新ゲーム機まで、いろんなビデオゲームの評価が書かれているのですが、ここのクソゲーの評価が特に面白いです。
 議論をしたうえでの評価なので、アマゾンあたりのネガティブレビューとは違って、感情論や独善的な評価は控え、なぜこのゲームがクソゲーなのかが、ちゃんと説明されているので、気持ちよく読めます。
 クソゲーと一言で言ってもそのバリエーションの多さに感心しますし、なにより当時遊んで絶望したであろうゲーマー達の絶望を想像すると、ニヤニヤが止まりません。ファミコンゲームの中には、ゲームブック版の方が面白いと書かれているものまであって、ゲームブック者としてはまたニヤリです。
 もっともゲームブックの世界も、クソゲーは負けず劣らず多いのですが。冒険記録日誌では、あまり辛めな事は書かない主義なのですが、こうゆう風に書けるなら少しはアレなゲームブックを取り上げてもいいかなと思いますね。

 さて、そんな前ふりとは全然まったく関係ないですが、本日は比較的、最近発売されたゲームブック「秋葉原からの脱出」の紹介をしてみたいと思います。
 せっかくなので今回は、ゲームカタログ@Wikiのノリで本作を紹介してみましょうかね。


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秋葉原からの脱出

【あきはばらからのだっしゅつ】


ジャンル  ライトノベル系脱出ゲームブック

本の種類  文庫本
発売元  スマッシュ文庫
執筆者  岡本崇史
発売日  2014年1月29日
定価  619円(税別)
ポイント
  登場人物はテンプレ型キャラのみ
  時間切れで強引に〆る、手抜きなシナリオ
  とにかく恋愛ものとしてもスカスカ
  ゲームブックでやる意味のない薄い観光情報


概要
 秋葉原を舞台にした脱出ゲームということで発売されたゲームブック型ライトノベル。30年間秋葉原に閉じ込められているという超自然的存在「ジョーカー」と名乗る謎の敵によって、主人公たちは秋葉原から出られなくなってしまう。ジョーカーが次々に出す指令を、時間内に全て解かなくては永遠に秋葉原に閉じ込められてしまう!


問題点

◆脱出ゲームとして
 45パラグラフのゲームブックであるが、分岐せずにパラグラフジャンプをするだけの単なる小説部分が多いので、ゲームブックとして実質のパラグラフ数はかなり少ない。分岐もゲームクリアまでに3回くらいある程度である。ゲームブックというよりゲームブック風小説といった方がいいかもしれない。
 クリアは簡単ではあるし、短いので失敗してもやり直しは苦にならないかもしれないが、なにが正しいのか判断の難しい選択肢もあり、半ば運任せ。
 おそらくジョーカーの仕掛けた謎を解くのに巻頭の秋葉原の地図がヒントになっている気もするが、それを示唆するような描写はなく、わかりにくい。
 ジョーカーの指示に従って主人公たちが探し物を繰り返すのは、映画でいえば「ダイハード3」に近い。ゲームが進むとあっさりジョーカーが敗北宣言をして事件が解決した感があり、ジョーカーの結末は最後までよくわからないままで、その点はすっきりはしない。

◆恋愛要素
 本作はマルチエンディングとなっており、ハッピーエンドだけでも3人のヒロインとそれぞれ恋人になるエンディングに、もう一つハーレムエンドもあり充実している。
 しかし、意中の娘とのエンディングを迎える方法は、道中で主人公たち4人が二手に分かれて行動する場面の選択肢で、その娘を指名すれば良いだけ。恋の駆け引きもへったくれもない。

◆秋葉原の紹介
 序文やあとがきによると、本書は秋葉原の観光ガイドブック的な使い方もして欲しいという考えもあるらしい。
 作中では確かに実在の店などが登場しており、巻頭に秋葉原の地図も掲載されてはいるのだが、ゲーム中にあまり地図を見比べる気にならないので記憶に残らない。そのため観光ガイドブック的な使い方をすべき地方の人間にとっては、本文を読んでもピンとくるものがなく何も印象に残らない。ここは時間ポイントを設定して、寄り道や遠回りするほど時間が経過していくようなシステムにするか、双方向システムを採用すべきだったのではないだろうか。
 そもそも、秋葉原の観光ガイドブックとしての要素が必要だったのかが疑問である。秋葉原の見た目の姿を紹介するだけなら、普通に秋葉原のガイドブックを買うなり、ネット検索で調べるなりした方が早いのではないだろうか。
 小説の書き方作法の一つに、「物語に不要な文章はなるべくそぎ落とす」というのがあるが、本作は秋葉原を紹介しようと、道に並ぶ店名をずらずら書くなど、率先して余計な描写を繰り返しており、読むのがだるくなる。例えば「末広町地域安全センターという建物があって、ここは以前、交番だったそうで警察OBの”地域安全サポーター”が勤務している。」という文章を読んで楽しいかどうか。ストーリーと無関係なだけでなく、誰得な豆知識である。
 

賛否両論

◆登場人物
 元気いっぱいなお兄ちゃん大好き妹(ただし血はつながっていない)、ツンデレな幼馴染(イラストがなんとなく涼宮ハルヒっぽい)、全然関係なかったのになぜか事件に巻き込まれたゆるふわ系お嬢様(実は腐女子)という3人のヒロインが主人公と一緒に行動する。現実にはいないだろうが、すべてがどこかで見たような方々ばかりであり新鮮味に乏しい。これを安易とみるか、ベタだからこそ安心できると見るかは人それぞれ。個人的には自称発酵女子のお嬢様が好み。
 主人公は少し霊感があることを除けばごく普通の少年である。これはラノベのうえ、本作がゲームブックということを考えると、当然かもしれない。しかし、さほど凄いことをしていないのに、なぜこんなに主人公がもてるのかは不明。ラノベのお約束ではあるが。

◆敵の正体
 一方で敵役であるジョーカーであるが、秋葉原という地域限定ではあるものの、神にも等しい力を持つという存在である。神に等しい力というのに、作中では主人公たちを閉じ込める以外には、主人公のガラケーをスマホに変化させただけという、しょっぱい力の使い方しかしていない。このため、幾らでも派手にできる設定のわりに話しの内容は地味である。
 ジョーカーが30年前に主人公と同じように秋葉原に閉じ込められ、悩んだ末に自分が秋葉原を脱出するため主人公を新たな人柱にしようと今回の事件を起こしたらしい。30年間も悩みすぎだろ。探せば喜んで秋葉原の神になりたがるニートの一人や二人は見つかりそうな気もする。


評価点
 あっという間に終わってしまうボリュームだが、ゲーム的に軽いのでむしろ丁度良い。ヘタに長いと最後まで遊ぶ気力がもたなかったかもしれないので、ある意味バランスがとれている。
 1パラグラフの文章量が長いゲームブックは、移動先のパラグラフを探し出すのが難しい作品が時々あるが、本書は全ページにパラグラフ数が表示されているので遊びやすい。


総評
 脱出ゲームが流行っているようだから、ちょっと出してみようか?というノリで書いたのではないかと思ってしまう作品。ゲームブックファンのサイトでも、さほど話題にならず、あまり高い評価は見かけない。
 ただ、ラノベ風のゲームブックで、有名作品のタイアップではないオリジナル作品を出す例は近年では珍しく、その試みは支持したい。
 ゲームブックを知らない人が、本作品をみて第二弾を第三弾のゲームブックを期待するかは別だが、もっと後続が続いて欲しいものではある。


山口プリン |HomePage

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