冒険記録日誌
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2015年03月25日(水) スパイ指令 陰謀団Xをつぶせ!(スーパー頭脳集団アイデアファクトリー/桐原書店)

 本作は世界連合秘密情報局なる組織に所属する主人公が、地下組織をぶっつぶすという、007のような内容のゲームブックとなっています。
 この主人公というのは、過去には数々の任務を失敗してきて、局の受付嬢まで失笑を買ったことがある伝説をもつ男。プロローグでは、局長からナチスの残党が作り上げているとされる謎の組織の調査を命じられますが、そもそも組織が実在するのかも怪しいレベルの情報なので、下っ端の主人公にお鉢がまわってきたのです。続くルール説明でも、能力値を決定するくだりでは「君は天性の勘で練習不足を補ってきた感があり、いまいち安定性に欠ける。体力にしても、何かというと下痢を起こす体質で、いささか心もとない」と説明されています。いや、もうなにか散々な感じです。
 ゲーム中の様子では、腐っても秘密情報局員らしく、4・5人のチンピラ相手くらいはサイコロによる戦闘なしで倒せる実力はあるようですが、トイレに隠れた敵幹部に気づかずに捜索をやめて帰ってしまうなど間抜けなシーンもあり、性格も「もし地下組織の噂がガゼだったとしても、経費で旅行できるからラッキー」とか結構適当です。本書発売当時の言葉で言えば、スチャラカ社員とか新人類みたいな奴でしょうか。遊んでいて、火浦功のライトSF小説、スターライトシリーズを連想しました。
 それにしても、こんな主人公一人に壊滅させられる地下組織とか、なさけなすぎる。実際、主人公が捜査に行き詰っているのに、わざわざ主人公を襲って手がかりを与えてくれる親切な展開が何度かあり、どっちもどっちなレベルの戦いな気がしなくもありません。

 ルール面は、ファイティングファンタジーシリーズのような戦闘ルール(運試しにあたる要素はなし)と、装備品に“万年筆型拳銃”や“ライター型手榴弾”や“盗聴器”など10点の中から5点を選ぶくらい。スーパー頭脳集団アイデアファクトリー作品では、ルールが無駄に複雑ではないというだけでも素晴らしく感じます。(装備品を使用する際に消耗する操作力点という能力値と、主人公の愛用するワルサーP5の残り弾薬数の管理のルールもあったのですが、さほどゲーム的に重要に思えなかったので、2度目以降のプレイは省略して遊びました。)
 話しのタッチは主人公に合わせたのか軽いノリで、中の作者が違うのかもしれませんが、同シリーズの「暗殺ゲーム」(2005年02月23日の冒険記録日誌参照)に比べると、ハードボイルド的な行動は一緒なのに、全然雰囲気が違っています。地の文章はこっちの方が読みやすいです。
 主人公はスチャラカといいつつも、実際の行動は真面目に組織の手がかりを求めて、時々敵に襲われたりしながらも、フランクフルトやリオデジャネイロと世界中を移動していきます。
 クライマックスは、終盤のリオデジャネイロでリオのカーニバルに遭遇するシーン。サンバのリズムに乗って、小さな布きれの衣装で踊りまくる女たち、主人公もスーツ姿のまま、思わず一緒に踊りだしてしまうというものです。カーニバルに参加する展開は、捜査に行き詰って単に気分転換でパレードでも見に行くという、実は意味がない行動なのですけど妙に印象に残るシーンです。編集者もそう思ったのか、ここは本書の表紙カバーの絵にもなっている場面です。営業的にスパイもののタイトルの本で、この表紙カバーはどうなのかとは思わなくもないですが、いろんな意味で本書を象徴していますね。

 ゲームバランスは厳しめで、特に最初に選ぶ装備品の選択次第で、クリアが困難になったり、ゲームオーバー確定になったりします。理不尽といえば理不尽ですが、それをいえばファティングファンタジーシリーズの大半だって、死んで覚えろな高難易度ですし、それよりは楽な方です。パラグラフ210でさほど長くない作品だけに、どの装備品が重要なのかは数回挑戦すればわかってくると思います。
 数々の珍ゲームブックを生み出してきたスーパー頭脳集団アイデアファクトリー作品ですが、本作は遊んだ感じでは意外と良く出来ていました。そりゃ鈴木直人とかスティーブジャクソンのような、ゲームブックの代表的メジャー作品に比べると、みそっかすみたいなものです。知ってます。でも、スーパー頭脳集団アイデアファクトリー作品は普通に遊べること自体が凄い事なのです。
 真面目に言っても、同シリーズでは珍しい良作だと思いますよ。


山口プリン |HomePage

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