冒険記録日誌
DiaryINDEXpastwill


2015年03月08日(日) もしもソーサリーがライトノベルだったら その11

 子ども達に食料も金貨も魔法の発動体となるアイテムも全部とられてしまった。さすがに君は落ち込む。
「ジャン!空からガキどもが見えないか見てちょうだい。」
「わかったよー」
 路地を囲んでいる粗末な家々の上を目指してジャンが飛んでいく。
 アリアンナが君を引っ張り起こしながら怒鳴る。
「いじけてる暇があったら、さっさと追いかけるんだよ!」

 しばらくの捜索にもかかわらず荷物を取り戻すことはできなかった。街の狭い路地を知り尽くしている子どもたちに追いつけるはずもない。
 かろうじて子どもたちの一人を見つけたが、残念ながらそいつは荷物をもっていなかった。アリアンナが縄で縛りあげて聞き出したところでは、もう今ごろは荷物は街で売りさばかれているだろうとの事だった。
 残ったものを確認しながら身支度をする。ガザムーンから預かっている手紙は無事だった。今日にも届けるつもりで荷物から出していたのが幸いだったようだ。
「お人よしじゃなくて、ただのまぬけだな。ロータグとかいう学者を探して手紙を渡すために旅に出たのかよ。」
 アリアンナの毒舌にも反論する気力もなかった。
 すると、縛られていた子どもがロータグさんの居場所なら知っていると言い出した。この辺りの子どもたちに、よく勉強を教えてくれるそうだ。
「じゃあ、そこへ案内してくれないか?そしたら解放してあげるから」
 君がそういうと、子どもは石とモルタルでできた大きな建物まで、君たちを案内してから飛ぶように逃げ去った。よほどアリアンナが怖かったらしい。

 正面玄関でノッカーを鳴らすとガウンをまとった老人の男が出てきた。この男がロータグらしい。用件を伝えるとすぐに中に通してくれる。アリアンナは子どもの教育が足りないだのロータグに無礼を言いそうな気がしたので、あらかじめ喋らないように強く言い含めておいた。
 居間に入るとその光景に一瞬硬直した。
 壁には見たことのある人物を描いた大きなタペストリーがかかっていたのだ。ぽっちゃりした体型と大きな胸、そのにこやかな笑顔は、シャムタンティの丘でロータグへの手紙を託したガザムーンだ。よく見るとテーブルの上にはガザムーンを模した小さな陶器が飾られている。棚をみると飾り皿に大きく描かれたガザムーンの顔の絵が、こちらに向かってニコヤカに笑っている。
「なにかな?」
 ロータグがいかめしい声で聞いてきたので、なんでもないと返す。老人は微笑んだ。
「そうですか。この街を少しでも未来のあるものにしようと、子どもたちに学問を教えていますが。そのせいか私は少々変わり者扱いされていましてな。今しがたのあなたのように妙な顔をされるのには慣れていますよ。さっ、お茶でもどうぞ。」
 椅子に座り、出されたお茶を飲み干すと、カップの底にあらわれたガザムーンの笑顔を見つめることになった。話しをしようとロータグを改めて真正面から見ると、首にかかったガザムーンの顔が写ったロケットを見つめているロータグがいた。思わずアリアンナと目を見合わせてしまう。
「ガザムーンからの紹介と聞きましたが、それが本当なら私も喜んで手を貸しますよ。」
 ロータグがそういうと、君はおずおずと託された手紙を出す。老人はかすかに震える手でそれを受け取ると、手紙を読み始めた。
 途中から歓喜に震えたように顔を輝かせ、こちらに目をあげた。
「素晴らしい連絡だ!しばらく待ってください!」
 手紙を握りしめたと思うと、老人とは思えない身のこなしで、奥の「研究室」と書かれた部屋に飛び込んでしまった。
 後に残された君たちはボー然としていたが、顔を寄せ合わせて小声で話し合う。
「今のうちにこの家から出て行かないか。なんであの女の顔ばかりなんだ?気味が悪いを通り越して怖いよ。」
「僕は人間はみんな変だと思っているから気にならないよ」
「お前には言ってねぇ!」
 君もアリアンナに同感だったが、気になるので様子を見ることにする。

続く



山口プリン |HomePage

My追加