冒険記録日誌
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2015年01月19日(月) タイタンふたたび(山本弘/社会思想社)

 本書はゲームブックではなく、アドヴァンスド・ファイティングファンタジー(以下AFF)TRPGのリプレイ小説です。全一巻で、元々は雑誌ウォーロックに連載されていたものです。
 リプレイ本というのは、なにかというと……説明が長くなるので知らない人は適当に検索して調べてください。ウィキペディアの「リプレイ (TRPG)」の項目とか。
 作者の山本弘さんは、日本にリプレイ本というものをヒットさせた「盗賊たちの狂詩曲(ラプソディ)」(ソード・ワールドRPGリプレイ)のシリーズを書いた方。その方が本作がファイティングファンタジーシリーズ(以下FF)でお馴染みの世界タイタンを舞台にした冒険のリプレイ本を書いたとくるなら、ゲームブックファンとしては期待せざる得ないではないですか。
 そう煽りたいところですが、この作品はネットでの評価が低いんですよね。
 読んだのは結構前なのですが、そのときから低評価がわかっていたので期待せずに読んでいました。
 読んだ感想としては、思っていたよりは面白かったし、自分的にありなんだけど、低評価な意見もわかる。グループSNEのリプレイということを考えれば当たり前なんですが、全体にギャグ調なんですよね。AFFのルール本に掲載されていた「ダンジョニア・アドベンチャー」みたいな格好良いシナリオを期待していると、間違いなく裏切られます。
「FF=硬派なファンタジー」と考えているファンなら、本書を黒歴史扱いしても不思議はないです。本家FFでも「天空要塞アーロック」が黒歴史扱いされているのと同じ理屈ですな。アーロックはT&Tソロシナリオなら丁度いいんですが。

 どこから感想を書こうか迷いますが、とりあえずウィキペディア風に主な登場人物である6人のパーティメンバーについて紹介を書いていきます。この書き方が楽だし。
 あと若干のネタバレがあるので、この先を読むかどうかは自己判断でお願いします。

・カル・ニールセン
 人間の男。20歳。
 弓攻撃が得意なレンジャー風キャラでちょっとは魔法も使える万能タイプ。冒険記録紙によるキャラ紹介で最初にでるキャラクターだけあって、主人公的なポジションだったと思われる。(過去形)
 性格は一言で言うと普通。故郷から出て行った幼馴染の娘を探しているというプレイヤー設定があり、実際に冒険の途中にその娘は登場しますが、ゲームマスターの山本弘さんがあまりこの設定にのる気がなかったのか、適当に処理されてしまい、プレイヤー的にもなんだか可愛そうな扱いに。ここが主役になりきれなかった分岐点かなぁ。

・ミシャップ
 男の森エルフで行商人(パーティ内の役割は魔法使い)。125歳。
 卑怯者キャラという設定ですが、こいつは絶体絶命のピンチで、本当に敵方に寝返って仲間を邪魔したという、良い意味でひどいキャラ。
 敵が逃げたとたん、仲間を振り返って服の乱れを直し、「やあ、友だちじゃないか」には笑った。

・ティンラーン
 人間の女で傭兵。19歳。
 原技術点12と高い戦闘スキルにものを言わせた戦闘の主力キャラ。
 作成したばかりのキャラでドラゴンにも勝てるくらい強いというのは、AFFならではです。設定は勝気な性格ということで姉御肌タイプかと思ったら、単にわがまま娘でした。
 それにしても、気のせいかグループSNEのリプレイは、女の方が強いパーティが多いなぁ。

・シニア
 人間の女。22歳。
 カルと違って本職のレンジャー兼吟遊詩人。ちゃんとパーティに献上しているのに目立たない人。女同士ということでティンラーンと一緒に行動することが多いかな。

・ランスター
 人間の男。23歳。
 なぜか黒人というリプレイ小説では珍しい設定。パーティーが行動に迷うと、おもむろにウサギの骨を投げて骨占いをするという怪しい行動を始める。(ちなみに骨占いはルールにありません。実際はサイコロを一個振るだけのコイントスみたいなもの)
 この骨占いが意外と当たるので、最初は気持ち悪いとか言っていた他のメンバーも、後半になると「骨占いの結果ならしょうがない」という程信用してしまっているのが面白い。戦闘もストーリー的に美味しいところでクリティカルヒットで強敵を倒してしまうなど、キャンペーンが後半になるにつれ活躍するようになり、最終的に実質主役となった奴。

・バーク
 ドワーフの戦士。男で130歳。
 典型的なドワーフとの性格設定だけど、実際のプレイでは変装のためとはいえあっさり髭をそってさっぱりした顔になってしまうこだわりのなさは、ドワーフというよりただのおっさんな感じ。
 ドワーフらしくエルフ嫌いだから、ミシャップを嫌っているとの事だが、パーティメンバー全員がミシャップ嫌いだから特徴になってない。(笑)


 全体的に地味なメンバーが多いパーティでして、目立つのはミシャップとランスターくらいかな。AFFは戦闘で個性を出しにくいので、プレイヤーの行動で個性を表現する必要がありますね。
 リプレイの舞台はアランシア大陸。最初の依頼は、ある女の頼みでバルサスダイヤ亡き後のバルサスの要塞に潜入してほしいというもの。
 ゲームブック版でお馴染みのつむじ風女とかガンジーとかのキャラ、いや妖怪が沢山登場するのは懐かしい。
 ゲームマスターはもちろんのこと、プレイヤーもゲームブックをプレイ済の人ばかりみたいで、プレイしながら前世の記録が湧いてきただの言いつつ、ゲームブックと同じ罠に引っかかったりしてます。プレイ当時もすでにゲームブックブームがほぼ終わっている時期だったせいか、みなさんほどよく記憶が薄れているようです。
 最後は窓のカーテンが剥がされていて、傍になにかの白骨が転がっている部屋(笑)で、ボスと対決するわけですが、このボスの存在と扱いが許せるかが、良くも悪くもこのリプレイの評価が分かれる基準だろうねぇ。 
 この後の展開ですが、2番目の冒険はポートブラックサンド(盗賊都市)、3番目にして最後の冒険はダークウッドの森(運命の森)と、ゲームブックの冒険の舞台ばかりを再訪問するようなシナリオばかりです。登場するNPCも主要人物はゲームブックで登場した人ばかり。
 ダークウッドの森にミニマイトが生息しているとか、100%ゲームブックと同じ設定ではないですが、個人的にはこのリプレイの舞台はゲームブックに縛られ過ぎてやや窮屈な印象を受けました。ゲームブックの事を思い出しながら読めるのは悪くないけど、時々はオリジナルの都市とか人とか、ゲームブックにないものを使って、新しい空気を感じさせてほしかったところです。

 それから、AFFは結構アバウトなゲームデザインらしく、ここはどうするの?とプレイ中にみんなが迷ってしまい、ゲームマスターが即興で判断することも多いです。金貨一枚の価値とか、ゲームブックでは各自バラバラですから、経済なんかメチャクチャになりそう。(このリプレイでも魔術師ヤズトロモの塔で買い物なんかしていますが、ゲームブックと同じということで魔法の品が金貨2・3枚で買えるから格安です。実際、ここで買った万能薬を、後でミシャップが街で転売していました。ドサクサに普通の薬草まで高値で売りさばく小悪党ぶりがいいですね。)
 特にゲームデザインの根本をなす経験値のルールが、ルール通りではいまいち機能していないと判断され、リプレイ中に変更されてしまうのは大味すぎる。
 ただ前向きに言えば、遊ぶ人が手軽にルールをいじりやすい、このゆるさがAFFの魅力とは思います。
 シンプルイズベストという意味では、アドヴァンスドのついていないFFのTRPG(2002年12月25日の冒険記録日誌を参照)の方がさらに上とは思いますが、最近のTRPGに比べればルールは簡単だし、ちょっと人が集まったらすぐにルールを覚えて遊ぶことができるという意味では、忙しい現代こそ向いているTRPGかもしれないですね。
 あんまり目くじらを立てずに、気楽に読む分には良いリプレイ本だと思いますよ。


山口プリン |HomePage

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