冒険記録日誌
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2015年01月17日(土) 運命の道(オー・ヘンリー)

 いやー、週に1回に更新をすると目標を立てて、いきなり破ってしまった。
 でも、先週は日記のネタにと、去年発売されていた新作ゲームブックをちゃんとやっていたんです。
 パズルと融合している、どちらかといえば私の苦手なタイプのゲームブックでしたが、これはさらに自己啓発本っぽい要素を入れているせいか、小説面が抽象的でつまんなかったです。日記に取り上げるのは没にします。

 そんなわけで今回代わりにネタにするのが「運命の道」という小説です。
 「あの最後の葉っぱが落ちたら私は死ぬの……」で有名な「最後の一葉」を始めとする沢山の短編小説を書いたオー・ヘンリー。そんな古典ともいえる大御所作家が、ゲームブック風の小説も書いていたという情報をネットで見かけたので、さっそく収録されていた短編集を読んでみたのですが。
 うーん。残念ながらこれはゲームブックじゃないです。
 ストーリー的にはフランスの田舎に住む羊飼い(&自称詩人)の男が、恋人と喧嘩して家を飛び出し、田舎を出る街道の3つの道のどれを選んだかで運命が分岐してしまうという短編小説です。
 これをゲームブック的に考えると、わずか4パラグラフの作品なのです。それより問題なのは、道が分岐するときに主人公が選択に迷うシーンが描写されていないこと。
 ゲームブックの定義自体は曖昧なものではありますが、これをゲームブックと呼ぶなら、パラレルワールドネタのSF(例えば、涼宮ハルヒシリーズの“分裂”や“驚愕”とか)や、結末が複数ある実験的小説(マイナー作品ですが“羊飼いの指輪”とか)など、ifの展開がある小説は全てゲームブックになってしまいます。
 それでも冒険記録日記のネタに取り上げたのは、小説としては面白かったから。さすが有名作家だけあって文章は旨いですが、それよりもオー・ヘンリーらしからぬ内容が逆に印象に残った感じです。

(オチが重要という作品ではないのですが、ここから先は一応ネタバレを含む感想なので注意してください。)

 まず、オー・ヘンリーの作品というのは、私の好きな「二十年後」など、時々はビターな結末の作品もあるものの、基本的にほのぼのというか牧歌的といいますか、大抵はハッピーエンドな作品ばかりです。
 しかし、この「運命の道」は結末が3つもあるのにどの道を選んでも、撃ち殺されるだのピストル自殺をするだの、主人公がロクな死に方をしないという、救いがまるでない作品なのです。
 どの道を選んでも助かる見込みはあったはずなのに、ヘタクソな詩に夢中になって現実がみえていない愚かな男という、ドンキーホーテみたいな主人公の性格が自ら破滅を招いてしまうという展開ばかり。
 違う状況を3つも用意しておきながら、全てこんな結末になっているのは、なんでしょう?結局、失敗する人はどんな状況になっても、自分に問題がある限り失敗するという暗示ですかね。
 チャンスに恵まれないとか、世の中の不景気とかのせいにして自己弁護する人には耳が痛い小説かもしれません。
 反面、どんな状況でもやり方次第ではうまく成功するチャンスはあるともいえます。
 「運命の道」で、決闘する展開では行動次第では社会で成り上がるビッグチャンスに巡り合っていたともいえるし、ピストル自殺する展開は心構え次第で幸福に過ごすこともできた。革命に巻き込まれる展開では成功に結び付けるのは難しいかもしれませんが、少なくても主人公が普通にすごしていれば革命に巻き込まれる事もなく無事にヘボな詩を書き続けられていた事でしょう。
 主人公に詩の才能がなかったのも不幸でしたね。熱中することは悪いことではないけど、現実も見ようという教訓にも思えます。詩の才能はないから諦めて仕事しろと言う内容を、主人公に告げる時の牧師さんの実に婉曲な言い回しが妙に印象的。
 主人公を現代人に例えると、売れない芸人や商業デビューできない漫画家みたいな感じなのかな。主人公のモデルは作家の道を歩み始めた当時のオー・ヘンリー自身とする説もあるようですが、本当のところはどうなんでしょうかね。


山口プリン |HomePage

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