冒険記録日誌
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2014年09月27日(土) 80日間世界一周(相原冬彦/白馬出版)

 白馬出版からは3冊しかゲームブックが発売されていませんが、本書はその第一弾の作品です。
 タイトルからお分かりのように、本作には元ネタがあります。SFの父と言われるジュール・ヴェルヌの執筆した「八十日間世界一周」です。
 元ネタの小説は有名ですが、私は残念ながら子ども頃に、序盤を読んだくらいで、粗筋くらいしか知らない状態なのです。知らない人のために書くと、ビクトリア朝時代にイギリスの偏屈爺さんが、80日間もあれば世界一周は可能か否かで、クラブ仲間と意地の張り合いとなり、80日間で世界一周は可能であることを証明するため、お供の執事と一緒に2人で世界中を旅するという内容です。
 SF要素はなく、各国で登場する人物もいかにも○○人といったベタ表現(現在ならヘタリアみたいなもの?)なので、当時の世界の様子がわかるユーモラスな冒険ものとして、なかなか楽しげな様子です。この機会にちゃんと読むべきかな。

 そしてこのゲームブック版の方ですが、ヴェルヌ作品のオマージュ作品といえ、そのもののゲームブック化ではありません。
 舞台は明治33年(ヴェルヌの「八十日間世界一周」の舞台から28年後)の中学校(現在の高校にあたる)から始まります。
 主人公の宮崎賢次が日頃から何かとライバル関係である学友と「八十日間世界一周」を読んだ感想を話したことが全てのキッカケ。話しているうちに、本当に80日で世界一周は可能か否かで議論になります。賢次は自分の主張が正しいことを証明するため、父親の小切手帳を勝手に持ち出して、下男の乙吉をお供に2人で世界一周に挑戦するという、なんだか凄いプロローグです。
 本書の見どころは、賢次の常人離れした金銭感覚であり、非常識な金の使いっぷりでしょう。
 ヴェルヌの「八十日間世界一周」の主人公であるイギリス紳士も、裕福で金に物を言わせるような性格でしたが、それでも世界一周には全財産の半分を使い、残りの半分はクラブ仲間との掛け金にしています。いわば背水の陣で旅立っているわけです。それに対し、賢次少年はただ意地とメンツの為だけに親の大金を使っているのですからね。
 この賢次の実家である宮崎家は、大貿易商ということで、とんでもない金持ちだそうです。父親も少年が勝手に世界一周に旅立ったことにカンカンに怒ってはいるものの、金銭面のことは何も気にしていない様子でしたし。
 旅が始まってからのゲーム中のシーンでも、大陸を横断する鉄道が不通なら膨大な謝礼で馬車を雇い(あなたは新幹線代わりにタクシーを使いますか?)、警備が厳しい場所ではチケットを渡すかのようにごく当たり前に賄賂を握らせて入場(父親の跡継ぎとして、こんな事も学んでいるのだろうか)といった具合。海で遭難して別の船に救出されたシーンにいたっては、そのまま目的地に向かうため、即座に救助してくれた船をまるごと買い取ってオーナーになってしまう無茶ぶりです。

 また本書のキャッチコピーが「楽しみながら地理・歴史が学べる」と書いてあるだけあって、明治時代の日本から見た当時の世界の世相や交通事情を知ることができます。
 パラグラフ数は102しかない代わりに1パラグラフあたりの文章は長く、選択肢の多くは進路をどうするかに費やされています。そのため各国での独立したミニエピソードが集まってゲームブックが成立しているようなところもあり。ある箇所では案内人を雇っての旅の最中に、偶然にも山賊にさらわれた幼い王女を見つけ、計略を使って無事王女を救出、感謝を受けながら次の目的地に向かうまでの展開が1パラグラフ内に収まっていることもありました。
 道中でゲームオーバーになることはありませんが、良くない選択肢を選べばそれだけ日数がかかることになり、日本に帰りついたときに何日目かでエンディングが変わるルールです。

 最後のオチはヴェルヌの「八十日間世界一周」を読んだ人ならニヤリとすると思います。ただし、イギリス紳士と違って、賢次少年は最初にアジア方面へ旅立っていきましたから、結果は正反対です。「八十日間世界一周」をめぐる議論がキッカケで旅立った賢次少年がこの点を気づいていなかったのは不自然な気もしますが、長旅の疲労で忘れていたと解釈しておきましょうかね。
 ちなみに私は初プレイで、78日目で東京に戻ったのですが、最後の選択肢には「79日かかったなら」からしかありませんでした。あれぇ?どこかで一日、計算を間違ったかなぁ。
(あと、パラグラフ95の方の「70日かかったなら」の表示は間違えと思います。)


山口プリン |HomePage

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