冒険記録日誌
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2014年09月17日(水) 失われた体 魔法使いディノン1(門倉直人/新紀元社)

 創土社編集の酒井さんの退社とともに、新紀元社へ版元を衣替えしたディノンシリーズですが、無事1巻「失われた体」が出版(復刊)されました。
 入手した本の帯には今年の11月には2巻「闇と炎の狩人」も発売予定と書かれており一安心。酒井さんのゲームブックへの情熱には頭が下がります。

 さて、知らない人に説明するとディノンシリーズは昔、早川書房のゲームブックレーベルから出ていた全2巻のゲームブックでして、幻想ファンタジーという言葉がぴったりくる雰囲気の作品です。
 ストーリーは、主人公がユルセルームという異世界に呼び出され、謎の男に体を乗っ取られてしまうという、冒頭からピンチな展開。主人公は謎の男のものだった体を使い、自分の体を取り戻すため、ディノンという魔法使いとして未知の世界を冒険するというものです。
 ゲームブックというのは文体が素っ気ない作品が多いですが、ディノンは艶めきのある文章が特徴です。
 例えば選択肢の表現なんかすごく回りくどい。鳥がディノン目がけて急降下してくるシーンの選択肢で、普通のゲームブックなら、「とどまって戦うか(73へ)」「鳥をかわすか(166へ)」と書いてすませる2択が、ディノンだと「ディノはその鳥が降りてきたところに一撃を食わえるべく、この場所に足を踏みしめてとどまった。(73へ)」「ディノは目の前の情景にもはや確信が持てなかった。そして。とにかくこの攻撃を回避すべく、とっさに横にとんだ。(166へ)」と長々と読ませてくれます。これ、選択肢の重みが増す効果を感じたので、ストーリー重視のゲームブックには案外いい手法かもしれません。
 そういったこともあって、小説部分に重点を置いている作品と思いきや、ゲーム性も特徴的です。
 戦闘はサイコロ一振りで決着がつく簡潔なもので、能力値は「知力」や「体力」の2つのみと、あとはフラグチェックと、ルール面は比較的シンプルですが、魔法システムが独特。2003年04月25日の冒険記録日誌でも一度紹介していますが、物語中で突然主人公に湧き上がる山や鎖や蝶などのイメージ映像を読み解くことで、魔法の力を発揮することができるというもので、これがこの物語の幻想性をいっそう高めつつ、この作品のゲーム性に直結しています。

 この作品を前に遊んだのはずいぶん昔ですが、ディノンシリーズは正直好きではなかったです。しかし、今回は改めて遊び直してみたところ、意外にも面白かった。
 昔に比べると、いろんなゲームブックを遊び倒したおかげで、面白いと感じるストライクゾーンが広がったせいもありますが、昔の山口プリンは悪い奴を倒してハッピーエンドという結末が当然と思っていたので、敵の正体や物語の結末に納得できなかったんですね。
 「失われた体」のストーリーが受け入れられるようになったのは、それだけ山口プリンが大人になったということなのでしょう。うんうん。(しみじみと頷く)
 ヒロインのフィリオンに対する主人公の心理描写とか、終盤の「深遠なる国」での狂った世界の緊迫感など、読み応えのある小説を読んだような気分になりました。パラグラフ数が227しかないうえ、難易度はさほど高くないので、ボリューム的にはあっさり終る印象はありますが、ゲームブックを「自分で選択できる小説」と定義するなら、ディノンシリーズはピカ一かもしれません。


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