冒険記録日誌
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2014年02月23日(日) 10億円を奪え!(雅 孝司/朝日ソノラマ)

 ハローチャレンジャーシリーズの8作目のゲームブックです。
 本作の主人公は大学生とイベント会社のスタッフという、2足のわらじを履く青年。しかし、実は3足目のわらじを履いていました。それは“怪盗”です。ドーーン!!!
 ゲームブックでは、いわゆるファンタジーTRPG的な盗賊を主人公にしたものなら「真夜中の盗賊」や「クォーラス城からの脱出」などいくつか思い出すのですが、現代社会を舞台にした怪盗ものというのはなかなか珍しいですね。他には双葉のルパン三世シリーズくらいかな?
 ハローチャレンジャーシリーズは、オーソドックスな剣と魔法のファンタジーやSFから、アイドル業界や和風妖怪ものまで、毎巻いろんな舞台のゲームブックを出してきていて本当に飽きさせません。

 さて、話を戻して主人公の紹介を続けます。彼の名前は竜坂有瀬(たつさかあるせ)。
 自らを怪盗と名のり、また怪盗と名のるからには盗む相手は金持ち限定。それも後ろ暗い金を扱っている金持ちを狙うとの事。
 人殺しはしない方針なので、武器は護身用の麻酔スプレー以外には持たず、変装と策略を駆使して盗みを成功させる主義だそうです。
 また、恋人兼変身用の服を製作してくれる美少女、情報収集担当の後輩、チームのブレーンとなる教授、といかにもな仲間達もいます。
 いやぁ、格好いい設定ですね。
 それだけに彼が怪盗になった理由が、「自分の名前を音読みすると(りゅうはんあるせ)>それが訛ると(りゅぱんあるせ)>欧米式に姓を後にすると(あるせりゅぱん)>アルセールリュパン・・・・・・これに気づいたとき、君は怪盗を目指すことを決意した」というのが全てをぶち壊していて残念です。小学生か!

 今回の獲物は、政治家に不正な政治献金として渡される予定になっている10億円です。
 献金の情報を知ったきっかけが、「国会議事堂の近くで公衆電話を使用したら電波が混戦して、偶然闇献金の会話が聞こえてきたから」というのが相手も不用心というかなんというか。
 10億円を現金で受け渡しするところを横取りしましょうというわけなのですが、闇献金が現金払いというのは、少し前に猪瀬前都知事の献金ニュースをさんざん見た後だと、なるほどありそうな話しとは思います。あのニュースで猪瀬さんがなにやら苦労してバックに5000万円を詰め込んでいたおかげで、作中に登場する10億円を詰め込んだデカいトランク2つというのもイメージできました。ありがとう猪瀬さん。あなたの都知事時代は無駄にはならなかったよ。
 話しを戻して、近いうちに闇取引があるのはわかっているけど、その取引は具体的にいつどこで行われるかは不明という状態です。そこをさぐるところからゲームはスタートします。

 ゲームシステムの方は、能力値の管理や所持品の管理はありません。この場所は初めて来たか?など過去の行動フラグで分岐することはありますが、複雑な情報ではないので、メモを取らずに気軽に遊ぶことができます。
 パラグラフ構造は特徴的で、一方向システムでも、双方向システムでもなく、いくつもある選択肢(どこで情報収集をするかとか、どこを見張るか等)の中から毎日一つの行動を選択していき、それが終われば翌日になってまた次の行動を一つ選択する、の繰り返しとなっています。このシステムでは、例えば、初日にある会社に忍び込む行動を行ってもいいし、情報収集を先にして3日目にその会社に潜入しても良いという、非常に自由な行動を選べるようになっています。
 取引方法に関する真実の情報は一つですが、10億円を奪う展開はいくつか用意されてます。もちろん情報収集がうまくいかずに、知らないまま取引日時が過ぎてしまえばゲームオーバーです。
 遊んだ感じではなかなか面白かったのですが、ゲームのボリューム感が少なく、271パラグラフのゲームブックの割にあっという間に終わってしまう気がするのが残念に感じました。
 これには理由があって、間違った選択肢、例えば闇取引と無関係の企業に潜入するような行動を選んだ場合なども、多くのパラグラフを使って展開が広がっていくからなのです。
 普通のゲームブックなら不正解の行動を選べば、「どうやらうまくいかないようだ。知力点を1引いて、他の行動を選べ」のように罰則を受けてすぐに正しいルートに誘導されるものですが、この作品では的外れの場所だろうと、まるで正解のルートのように尤もらしくいろんな選択肢が続きます。挿絵付きで登場した美女がただの通行人だったり、何もないのに思わせぶりにここで見張りをするか?などと問われたり、ある人間の怪しい行動が実は主人公とは無関係の事件で動いていただけというオチが、この作品ではよくあるのです。
 これはこれで凝っているといえ、見方を変えればこの作品の長所とも考えられるのですが、自分がプレイした時は割と早めに正しい情報を掴むことに成功してしまったので、結果的に全体の半分くらいのボリューム感になってしまいました。つまり真実が判明した時は、その時点で残りのダミー展開はすべて選ぶ必要のない無駄なパラグラフの塊となるのですね。
 そんなわけでアイデアは優れていたけど、それを生かすほどの精練さに達してない、という印象を感じました。
 しかし、これに近い発想のシステムを使ったゲームブックは少数派ではあるものの、「送り雛は瑠璃色の」や「ティーンズパンタクル」といった名作が存在します。
 本書の発売時期を考えるにゲームブックの歴史でも比較的初期の頃に、このようなシステムをすでに使用していたことには正直驚いてもいいんじゃないでしょうか。

 あと、ストーリー的な面で不満をいうと、10億円を盗む手段が強引なものが多くて、怪盗というより単に強盗に見えます。予告状を相手に送れとは言わないけど、もっとスマートな手段を取ってほしかった。
 それから闇取引の現場はあるトラブルに襲われ、主人公側と政治家側双方に混乱をもたらすのですが、これがどうして発生したのか、どの展開を選んでも原因が明かされないままだったので、もやもやが残ったなぁ。


山口プリン |HomePage

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