冒険記録日誌
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2013年12月02日(月) 深海の悪魔(スティーブ・ジャクソン/社会思想社)

 この作品はすでに2002年04月07日の冒険記録日誌で感想を書いているのですが、10年以上も経過すると日記の書き方も変わり、作品に対する新たな感想なども出てくるものです。それでこの作品に対してももう一度書きたいことができたので、再びとりあげたいと思います。

 「深海の悪魔」はファイティングファンタジーの一作品であり、アメリカのスティーブ・ジャクソンの作品です。シリーズお馴染みのタイタンの世界の話しですが、海中が舞台というのが変わっています。
 海賊達によって海につき落とされた主人公が、幸運にも水中で呼吸する魔法を受けることができ、海中世界を探索しながら海賊どもに復讐する方法を探すという内容です。
 この作品はファイティングファンタジー作品の中では珍しく、クリアが簡単すぎるという評価を受けることが多いようです。
 それは海中で沈没船を泳いで探索したり、人魚やイルカたちと交流するとか、ゆったりとした感じを受ける独特の世界観のせいもあるかもしれません。それにクリアには黒真珠を沢山集めるのが必要なのですが、入手する方法はいくつもあり、力押しでシードラゴンなどの強敵を打ち負かしていくだけで割と簡単に入手できるからだと思います。
 海賊達を降伏させるベストエンディング以外にも、複数のベターなエンディングが用意されているので、黒真珠がなくても他の方法でなんとかなる救済処置が多いのも難易度が低いと感じる要因でしょうね。
 ただ簡単なのは事実ですが、もしもこの作品を「簡単すぎてゲームバランスが悪い」と考えている人がいたら「それは間違っている!」と、ここで力説しておきます。
 なぜなら、この作品はファイティングファンタジーのルール説明にある「最小限の能力値でも真の道を通ればクリアができます」を本当に実践している貴重な作品だからです。
 このルール説明は有名にもかかわらず、残念ながらファイティングファンタジーシリーズの多くの作品では守られていないのです。
 比較的このルールを守っているものは米英双方のスティーブ・ジャクソンの作品くらいですが、イギリスのスティーブ・ジャクソンの方は真の道以外のルートはデットエンド確定になる作品も多いのが難点。これはこれで、自由に冒険できるというゲームブック本来の意義や能力値の意味が薄れると思います。
 他の方の後期のファイティングファンタジー作品にいたっては、真の道以外はクリア不能なうえ最低技術点10以上は必要とか、酷い時には、技術点12・体力点24・運点12で遊ぶことを前提に製作していないか?と疑ってしまうくらいの作品がありますからね。

 「深海の悪魔」は技術点7、体力点14、運点7で始めた場合でも、真の道を見つけることができれば、ベストエンディングも達成可能です。
 このルートに発生する戦闘は決して少なくはないものの、比較的弱い敵を相手にするだけですみます。また、パワーまかせのプレイでは平坦に思えたシナリオも、弱いキャラクターで真の道を探していくと、終盤のクラーケン戦がクライマックスとして自然に位置づけられてくるのがわかります。まともにクラーケンと戦えば敗北が決定的でも、道中に戦闘に役立つアイテムやイベントが散りばめられているのを手に入れていくと、最低能力でもクラーケン相手にギリギリ有利に戦えるようになっているのです。
 この作品は最低能力値のキャラクターを基準にゲームバランスを調整していると言ってもいいでしょう。
 ランダムで能力値を設定するゲームブックの場合は、能力が高ければ高いほどクリアができるルートは広がるので攻略に有利、しかし初期値の能力が低くてもクリアは可能という、本作品のようなものが、本来理想とするべきゲームバランスじゃないかと思うのですが、そうなっているのはアメリカのスティーブ・ジャクソン作品以外には、ソーサリー(戦闘以外で対処できる場面が多い)、ティーンズパンタクル(検証したところ、初期値の能力ポイント計が最低値+2以上なら安定してクリア可能)、ブラッドソード(ルール上の能力値は固定ですが、仮に死人が出て戦力ダウンしたパーティーでも真の道ならクリアできる)などがあるものの、残念ながらあまり多くないですね。

 というわけで、ゲームブックブーム当時に遊んで、この作品に物足りなさを感じた方。試しに技術点7、体力点14、運点7で遊んでみてください。かなり歯ごたえを感じる作品になって新鮮に遊べると思いますよ。もちろんベターエンディング狙いなら、さらにクリア可能なルートは増えます。いろいろ試してみてください。一応正解ルートは、2008年08月の冒険記録日誌に書いてあります。
 面倒なので戦闘は全て勝ったことにしてサイコロを使わないというプレイヤーも実際多いご時世ですが、出来ればこういったパッと見には気づきにくいゲームバランスにも注目してあげてください。各作品の個性が見えてきて面白いですよ。


山口プリン |HomePage

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