冒険記録日誌
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2013年11月29日(金) 超時間の檻(山本弘/創土社)

 クトゥルー神話のオマージュ・アンソロジー・シリーズからのゲームブック紹介もとりあえずこれで最後。とりは「超時間の闇」に収録されている「超時間の檻」です。
 まさか二十数年もたって山本弘の新作ゲームブックが拝めるとは、いやはや世の中わからないものですな。
 このレーベルのゲームブックとしては珍しく、本書には「超時間の檻」の進行状況を記録するアドベンチャーシートもしくは冒険記録紙にあたるペーパーが栞のようにはさまれています。もっともこの作品は、能力値の管理もなく、所持品もわずか、ゲーム進行で覚えるべき情報も少ない為、簡単に暗記だけで遊ぶことが出来ます。そのためペーパーの実用性はあまりないのですが、ゲームブックを遊んでいるという、テンションをあげる効果が私にはありました。 総パラグラフ数が200というのも、ウォーロック掲載のミニゲームブックを連想させ、もうつかみはバッチリです。  

 そして今回の私がプレイを楽しみにしていたのは、山本弘さんのブログでタイムループものに挑戦してみたと書いてあったことです。
 タイムループものというのは、主人公が同じ時間帯を何時も繰り返して体験するタイプのSFで、古典SFからライトノベルまでいろんな小説やドラマがこのアイデアを使っています。少し前では「涼宮ハルヒの憂鬱」にあるエンドレスエイドのエピソードでも使われていました。TVゲームだと「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面」もそうですね。
 実はゲームブックは、その構造的にタイムループものと相性がいいと昔から思っていたのですが、ゲームブックというものはSFよりファンタジー作品が多いためか、タイムループをテーマにしたゲームブックはありそうでないです。思いつくところでは鳥井加南子さんの「悪夢のマンダラ郷」なんかは、死んでも阿弥陀様によって時を戻されて最初からスタートさせられるので、ある意味タイムループものと言えるかな。

 さて、作品の話しに戻ると、夜中の山道で猛然と車を走らせているシーンから唐突にゲームはスタートしています。車は木立に衝突してしまい、山中に取り残され、しかも主人公は記憶喪失という、わけのわからない事態です。
 目的地として向かっていたであろう、山道の先にかすかに見える屋敷に向かうか、ふもとの町に引き返すかと、最初から悩ましい選択肢が出てくるのが序盤。
 しばらくゲームが進むと(ゲーム内時間で一定時間が経過すると)主人公の意識が暗転して、気がつくと猛然と車を走らせている最初のパラグラフに強制的に戻されているという展開が繰り返されます。
 基本的にバッドエンドはなく、死にかけて普通ならゲームオーバーになるような展開でも、何事もなく最初に戻るのです。繰り返して、いろんな選択肢を試しながら、自分の記憶や目的、そしてこの無限ループから脱出できる方法を探し出すのが目的となります。
 同じ時間を繰り返す焦燥感が主人公だけでなく、読者もダイレクトに味わえるのはゲームブックならではの面白さ。ただ、あまりに脱出のルートが発見できないと、延々と同じ展開を繰り返すことによってゲームがだれるので、ほどほどに迷う程度でクリアしたいところです。
 私の場合クリアまでに20回以上のループをしてしまいました。一巡するのが短いせいもあるのですが、我ながら勘が鈍すぎですね。

 それからこの作品は、主人公を男女のどちらかから選ぶことになります。男女によって、攻略できるルートが違うので一度クリアしても、主人公を変えてまた挑戦できるので2倍楽しめる……と言いたいですが、大まかな展開は同じであり、すでに散々ループしてクリアした後だと、違う主人公でまたループを延々と繰り返すのは、もはや苦痛な気が。これは、さくっとクリアできなかった私が悪いのでしょうか?(笑)
 私は男主人公から遊びましたが、男性バージョンはタイムループのうえにさらに捻った設定がついているので、最初はシンプルな女主人公から遊ぶ方がオススメです。男性バージョンのみバッドエンドが一つ存在している分、少しだけ難易度が高いですしね。

 読んでいると、新紀元社のゲームブック「スペイン屋敷の恐怖」(2013年06月15日の冒険記録日誌参照)を連想していました。主人公達の性格が似ているので、同一人物だろうかと、お互いの主人公の名前を確認したくらいです。高次の存在に人間が小馬鹿にされるくだりも似ているし。
 さすがに主人公は同一人物ではなかったのですが、スペイン屋敷の恐怖も元は「ラプラスの魔」というやはり山本弘さんの小説からの派生作品らしいので、似ていて当然なのかもしれません。
 いずれにせよ、ゲームとして楽しいゲームブックを楽しめた作品でした。次にタイムループもののゲームブックがどこかででるとしたら、今回の倍くらいのパラグラフ数で、もっと豊富な展開をガッツリ楽しませてくれるようなのがいいな。


山口プリン |HomePage

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