冒険記録日誌
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2008年07月18日(金) |
桃太郎電鉄―めざせ!大社長―(大出光貴・橋爪啓/双葉文庫) |
厳寒の北海道千歳空港。ヒュルルルル、風の吹きすさぶ中、踏みしめるようにタラップを降りる陣羽織姿の男がいた。 「ふっ、オイラにふさわしい旅立ちだぜい」 男はポツリとつぶやいた。その前を群れからはぐれたカモメがよぎった、トドもよぎった、ゴマフアザラシが、ペンギンが……。 「でええい、いつまでよぎっとるんじゃあ、凍死してしまうじゃないかあ」
<冒頭シーン、パラグラフ1より抜粋>
TVゲームでは最も有名なボードゲーム、桃太郎電鉄こと桃鉄が原作のゲームブック。知らない人は少ないかもしれませんが、一応説明しておくと桃太郎電鉄とは、プレイヤーが社長となり、スゴロクのような日本地図のうえを、目的地を目指しながら各地をまわり、数々の店を購入していき、最終年の決算の時点で一番資産が多いプレイヤーが勝ちというゲームです。(さらに補足すると、このゲームブックはファミコン版の第一作目が原作です。実は一作目は、現在おなじみの桃鉄のルールとは違う点が多かったりします。まず貧乏神が存在しない。路面電車も物件扱い。借金の概念がなく、赤字になっても「天下無敵の無一文」として所持金が0円より下がることはない。などなど……) それでゲームブック版ですが、まともに原作の要素を全て本に詰め込めば、ややこしい資産管理や収益の計算を手動でしなければならず、遊ぶのが非常に面倒くさい作品になっていたことでしょう。そのためなのか、ゲームブック版はほとんどオリジナルといっていい内容になっています。 まず、設定ですが主人公は桃から生まれた桃太郎。原作の桃鉄にも、司会役などで登場するプクプクほっぺの三頭身の桃太郎です。その彼が、同じく桃から生まれたと主張する桃太郎ブラックXというライバルと、大企業「桃太郎電鉄」の次期社長の座を争って、全国をめぐって桃鉄勝負を繰り広げるというものです。 原作のように自由自在に日本中を走り回るボードゲームタイプではなく、冒頭の抜粋文ように、桃太郎は北海道からゲームをスタートして、最終的には九州へと日本を南下していきながら、物件や資産を増やしていきます。 それで最初の方こそ物件を購入したり、コンサートなどのイベントを企画して副収入を得たり、収益を出したあと桃太郎ブラックXと中間資産比べをしたり、ときにはスリの銀次に所持金を半分盗まれたりなど、いかにも桃鉄らしいイベントが続くのですが、そのうち桃太郎ブラックXの放つ刺客たちが、次々と旅を続ける桃太郎に襲いかかってくるようになっていきます。この刺客がただものではなく、なんと地元の名産品と合体した改造人間なのです。巻末に登場する怪人大百科の一部を抜粋すると、
怪奇ミカン男――静岡出身のフルーツ怪人。ジューシーに迫りくる。 べったら漬け仮面――仮面からの酒カスの臭いで相手を泥酔させる。 フッグタイガー――トラフグの怪人。フグの毒肝を敵に投げつける。 烏賊本英世(いかもとひでよ)――函館出身。スペイン帰りの天才科学料理人。塩辛男に変身できる。 ヤリイカン――烏賊本老人のイカの改造戦闘員。集団戦を得意とする。 ウニドン魔王――札幌の怪人。全身のトゲが武器。 もみじまんじゅう男――秘技もみじ嵐を使う。ジミモォと鳴く。 サヌキング――讃岐うどんの怪人。駅の立ち食いそばに出現。
このように美味しそう…もとい、恐ろしい怪人たちを、仮面ライダーよろしく退治すると、店が手に入るようになるというパターンが増え、逆に普通の買い物で物件を入手するシーンが少なくなってきます。さらには桃太郎を敵とつけ狙う謎の美少女なんかも登場して、桃鉄とは何かが違うドラマが進んでいきます。 それでだんだんだんだん、資産勝負のことはどうでもよくなっていって、最後にいたっては巨大ロボット同士で大戦闘を繰り広げるという、もはや特撮ドラマみたいというか、今までの桃鉄勝負はなんだったのって展開になってしまうのでした。 しかし、ゲームとしては遊びやすく、全編にナンセンスギャグがこれでもかこれでもかと散りばめられており、これが山口プリンのツボに実にはまりました。アホらしいとは思いつつも、ついつい最後まで遊び続けてしまいます。まあ、原作の桃鉄自体がギャグティストですし、あえてゲーム性を忠実に移植することは捨てて、あのちょっととぼけた雰囲気を出すことを優先したのは正解じゃないでしょうか。
ちなみに、この桃太郎の登場する双葉のゲームブックは、原作つきから完全オリジナルの作品も含めて、全6作まで書かれたロングシリーズとなっています。そのどの作品もがお笑いに満ちた楽しい作品なのですが、特に2作目であるこの作品と、3作目の「桃太郎電光石火」(2004年08月30日の冒険記録日誌に掲載)は、ギャグ漫画ならぬギャグゲームブックの一つの完成形といえる出来だと思います。
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