酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年10月28日(火) 『鍵』 乃南アサ

 親父が死んだ。お袋の後を追うかのように。これで俊太郎は姉・秀子と妹・真里子を守っていかなくてはならなくなってしまった。しかし、俊太郎は妹・真里子に対してこだわりが捨てきれない。耳が聞こえないハンデを背負った妹を思う心労のあまり母が死んでしまったように思えるから。そんな真里子の周辺で通り魔事件が多発。どうやら真里子の鞄にねじこまれていた‘鍵’が鍵らしいのだが・・・。

 乃南アサさんはこんなマザコン男の物語も描けるんだーと言うのが感想です。本当にいろんな作風を持たれていて読むたびに新鮮に思えます。こうしてまだまだ乃南アサさん追っかけは続くのであったv
 この物語は、真里子の鞄に無理矢理隠された‘鍵’が事件の鍵となります。そしてこの一連の事件が‘鍵’となり、俊太郎たちが一皮むけて成長していく過程が描かれています。失われた家族を心に残しながら、あらたに深く強い絆で結びなおされる三人が清々しい感じでした。

 こんな生命力豊かな、これ程までにしっかりと生きる意志を持っている人間が、癌なんていうものに負けるなんて、この世から消されてしまうなんて、そんな不条理なことがあってたまるかと思っていた。

『鍵』 1996.12.15. 乃南アサ 講談社文庫



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