酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
DiaryINDEX|past|will
2003年10月24日(金) |
『風紋』上 乃南アサ |
高浜則子は、二浪している娘・千種の家庭内暴力にあっていた。下の娘・真裕子はやさしく素直なままいてくれるので安心だ。夫は家庭を顧みない・・・。則子は笑顔で耐えながら、真裕子にメモを残し父母会へ出かけたまま帰らぬ人となってしまった。則子は姉・千種の元担任の松永先生と会っていたらしい。則子は不倫の末、松永先生に殺されてしまったのだろうか。突然報道の嵐の中に放り込まれる真裕子たちと松永の妻・・・。
『風紋』は先日読んだ『晩鐘』の根っこの物語です。『晩鐘』では『風紋』で事件に巻き込まれた人々の‘その後’が描かれていました。家庭内崩壊をしていた主婦が不倫の末、娘の元担任の先生に殺される(?)と言うスキャンダルに巻き込まれ、ますます破綻していきます。片方の犯人と目される教師の妻は安定して平穏に生活していましたが、夫の犯行で一気に奈落へ突き落とされます。ひとつの蛮行がふたつの家族の関係者たちを否応なく不幸へ陥れる・・・。 『晩鐘』では、‘その後’の転落ぶりからがらりと人間まで変わってしまった犯人の妻でしたが、『風紋』ではごく普通の幸せな主婦でした。事件の与える影響の大きさを身震いして感じてしまう物語です。 この『風紋』は何年か前に読んでいて、今回『晩鐘』を読んだので再読したのですが、『晩鐘』によって『風紋』までまた新たに重みを増している気がします。どちらから読んでも心にぐっと迫る物語には違いないようです。
死体の身元確認をさせる作業は、いつだって辛いものだ。刑事という職業柄、いくら慣れている、神経を鈍磨させているとはいえ、そこには必ず一つ一つの人間のドラマがあり、突然、変死という形で家族を失った人間の、やり場の無い感情が渦巻く。
『風紋』上 1996.9.15. 乃南アサ 双葉社
|