酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年10月06日(月) 『彼女は存在しない』 浦賀和宏

 香奈子は貴治と待ち合わせ場所で、「アヤコさんではないですか?」と人違いをされる。その声をかけてきた女、由子はあぶなかしく、成り行きで助けてしまう。聞けば家に帰りたくないらしい・・・。
 根元有希は疲れていた。母子家庭だったのだが、母が突然死してしまったのだ。しかも妹の亜矢子はトラウマからひきもりのような生活をしていた。母がいなくなった今、有希がなんとかしなければならない。しかし、亜矢子は突如豹変し奇行を繰り返すようになる。こいつは本当に俺の妹なのだろうか?
 香奈子にも人に知られたくない過去があった。そんな香奈子にとっていい加減だが貴冶は都合のよいシェルターだった。だが、ある日、彼はナイフでめった刺しにされ死んでしまう。香奈子は、由子が多重人格者で殺人犯ではないかと疑うのだが・・・。

 タイトルに惹かれて読んでみました。タイトルから受けた想像通り私の好きな‘多重人格モノ’でした。今でこそポピュラーな題材となった感のある多重人格モノですが、浦賀さんはこの物語をうまーく料理されていると思いました。幼児虐待にあった子どもが現実逃避から別人格を作り上げてしまう。人には大なり小なりそうして心を守りながら生きた瞬間があるのではないかな、と感じました。
 また、たまたまつい最近知人から「家族のことで相談を受けてくれる心療内科を紹介して欲しい」と頼まれました。この物語でも兄、有希が妹のためにある病院をたずねるシーンがありました。物語の中で医者はあまりいい対応をしていません。現在病んだ心を持つ人たちが通う病院の先生があんな対応をしませんように、と願ってやみません。
 読みやすかったですし、だまされましたし、おもしろかったです。だけどとても哀しい気持ちでいっぱいになりました。人の心ほど脆いものはないですね・・・。

「お母さんー。助けてよ。頭の中に誰かいるよ。私に話しかけてくるよー」

『彼女は存在しない』 2001.9.10. 浦賀和宏 幻冬舎 



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