酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年10月01日(水) 『晩鐘』上 乃南アサ

 母親が不倫のあげく殺された・・・。母親を殺された家族と殺人犯となってしまった夫の妻。そのふたつの家族たちの7年後の物語がはじまった。悲劇の連鎖はとどまることがないのだろうか。
 新聞記者の建部は、長崎へ左遷されていた。そこで中学生の殺人事件に遭遇する。その事件に興味を持つうちに彼はかつての悲惨な殺人事件の関係者とリンクしていることに気付く。東京へ戻ることになった建部は<事件のその後>を追ってみようとする。それが新たなるはじまりだとも気付かずに・・・。

 この物語は『風紋』から7年後の物語になります。事件が起こった時、加害者と被害者があり、そしてその両方の係累にまで影響を与えてしまう。過去を振り切ろうとする者、過去に囚われて生きる者、過去を知らされず生きる者・・・。さまざまな形で歪んで生きてしまうことになった人間たち。
 今年は、<加害者の家族>というテーマの物語に多く出会いました。穏やかに流れ続けると思っていた時が堰き止められ、せっかく築き上げてきた家族と生活、人生そのものが、一瞬のうちに幻のように消えることが、この世の中には確かにある。「誰の上にも等しく流れる時というものが、人に何を与え、何を奪うか、人はどう変わりながら生きていくものかを、改めて眺めてみたい」と願った記者、建部の思いもわからないのではないのですが・・・。触れずにそっと見て見ぬふりをする優しさも存在するのではなかろうか、と感じました。 
 さて、この心に傷を負った人々は下巻でどうなっていくのでしょうか。一度狂った歯車はもう二度と戻ることはないのでしょうか? 読み進めるに、ちと辛い物語ではありますが、読まずにはいられません・・・。

「それは無理ですよ。法によって償いを終えるときが来るとしても、彼は僕の人生をずたずたにしたことについての償いなんか、出来やしない。無論、僕だけじゃなくて、周囲の誰についても同じことですが」

『晩鐘』上 2003.5.20. 乃南アサ 双葉社



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