酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年09月01日(月) 『幻の少女』 安東能明

 松永秀夫は気がつくと記憶を失っていた。病院に妻や会社の人間が出入りするのだが、記憶は混乱するばかり。勤めている会社社長の右腕であったという松永は、負債を抱えそうになった社長と愛人の心中事件に関与しているのではないかと疑われている。どんどんと失われていく記憶。俺は殺人をおかしたのか? 苦悩する松永の前に夢か幻だと思っていた少女が現れる。その少女の正体は・・・。

 ある事件に関与した男が、若年性の痴呆になってしまう。自分が病気を免罪符にまた犯罪を重ねようとしているのではないかとさえ恐れおののく。いたずらに現在の自分の思考がしっかりしているからこそ苦悩が深まる様が痛々しいです。
 最近、‘記憶’や‘痴呆’など<失われていく自分>をテーマにした物語をよく読んでいる気がします。これって一種の流行テーマなのかしら。安東さんの今回の物語の主人公の‘痴呆’の原因が大きなポイント。そしてかなり残酷。

 親しい友の顔も楽しかったことも思い出せず、流れる砂みたいにどんどん過去のことが抜け落ちていってしまう。

『幻の少女』 2003.8.30. 安東能明 双葉社



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