酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年08月28日(木) 『死者の鼓動』 山田宗樹

 洋子は玲香の見舞いに行く。玲香は美少女で洋子にとってかけがえのない親友だった。玲香の病気は、特発性拡張型心筋症。予断を許さない状態でCCUに入っている。洋子は十五歳の誕生日にドナー登録をした。なにかあったとき自分の心臓を玲香にあげるために。その見舞いの帰り洋子は転落事故で脳を損傷。植物人間になってしまうかもしれない。
 洋子の心臓をめぐってさまざまな思惑が錯綜する。玲香の父親は玲香の入院するつくば医科大学附属病院の教授だった。そして洋子の容態は急変し、脳死判定を受ける。洋子の父、洋子の担当看護婦の自殺と不審死が相次ぐ。そして心臓移植が成功し娘・玲香が死なずにすんだ神崎のもとへかかってきた電話。
 『わたしの、しんぞうを、かえしてほしいのです』

 臓器移植というデリケートな問題をテーマに山田宗樹さんが優しい目線で挑んでおられます。植物状態の人間の安楽死の是非や、臓器移植にまつわる不正など人間の生命に関わる問題というものは尽きないものなのだなぁと思います。
 いずれにしても26歳で同い年の恋旦那が病死した私にすれば、「たかが人生、されど人生」、なにがあっても限られた‘生’を慈しんで生きたいものだと思うのです。しかしお金になる限り闇の臓器移植は続くのだろうなぁ。ため息。

「それにしても馬鹿な女だな。死んで嫌がらせしてやろうと思ったのかどうか知らねえけど。死んで花実が咲くものかい」
 内海は、女性患者の顔を見ながら呟いた。あんた、まだ若いんだぜ。死ぬなんてもったいない。まだまだいいことあるよ。
「人間、いつかは絶対死んじゃうんだからね。そんなに急がなくてもいいのに」
 横に立っている西岡看護婦が何げない口調でいう。数え切れないほどの人間の死を見てきた看護婦の言葉には、重みがあった。
「まったくだぜ。ほんとに大馬鹿野郎だ」

『死者の鼓動』 1999.3.30. 山田宗樹 角川書店



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