酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年08月26日(火) 『汝の名[WOMAN]』 明野照葉

 三上里矢子は見誤ってしまった。ブラウン管の向こうにいる中岡啓一の姿を目で追いながら、彼ではなく瀬永耕を選んだことの失敗に暗澹たる思いでいた。耕と言い争い、飛び出した先で里矢子は美しい女性を見かける。彼女を見た瞬間、里矢子のなにかが叫び声をあげたのだった。「勝ち組になりたい」
 麻生陶子は、仕事に生きる女。男さえも利用価値のある人間としか付き合わない。同居している引きこもりがちな久恵を口実に男との付き合いをさらりとかわして帰宅する。陶子の頭の中には仕事のことしかなかった。壱岐亮介に出会うまでは・・・。

 なるほど。意味深なタイトルは読了後に判明する仕組みですね。明野照葉さんの描く女性はいつも悲しいまでに孤独に孤高を保ちながら闘っている印象があります。そういう点において今回の物語のラストは私には意外でした。
 女性が勝ちながら現代社会を生き抜くハードさをこれでもかと描いておられます。したたかにしなやかに賢く美しく。努力のない人間に勝利はないってことでしょうか。フェイクするも本物を知る人間なら本物に見せることができるかもしれない・・・。
 今回、明野照葉節が穏やかに感じられました。いつもの焼け付くような息苦しいような焦燥感のある文章も好きですが、今回の文体も私は好きだなぁ。いつもと同じところに落とさなかったところが明野照葉さんらしいのかもしれませんv

 ほしいものはすべて手に入れる。あれもこれも、一切諦めることはしないし、そのためならどんな努力もする。自分の人生は自分で切り開くし、自分でコーディネイトしてみせる。

『汝の名[WOMAN]』 2003.8.25. 明野照葉 中央公論新社 



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