酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2003年07月18日(金) 『グロテスク』 桐野夏生

 怪物じみた美貌の妹を持った女(わたし)は、名門Q女子高を目指すことで自分の居場所を確保する。しかし、知能は劣っても美しいと言うだけで編入してくるユリコ。中流家庭に育ち名門高校へ入れたことを自慢に思い、張り切りすぎる和恵。さりげなく名門高校でトップを守り抜くミツル。
 女(わたし)はただのフリーターとなり、ユリコは美貌で世の中を渡り歩き、和恵は大手建設会社総合職として勤める。東大医学部に進みながら新興宗教にはまり、テロ行為に加担し犯罪者となるミツル。ユリコと和恵は娼婦へ落ちていき、同じ犯人に殺されてしまう。ユリコと和恵の殺人事件の裁判で再会する女(わたし)とミツル。性交だけが彼女たちにとっての世界を手に入れる手段だったのだろうか。

 桐野夏生と言う作家さんは‘超越’しているな、と思います。読者の読後感や思惑などまったく斟酌していない(と私は感じる)。『柔らな頬』を読んだ時に、いったい犯人は誰だったのか、物語はどこへいきつくのか、すごーく悩まされたことを思い出しました。今回は『柔らな頬』ほど放置プレイ的もどかしさは感じませんでしたが、誰の語りが本当なのだろう、と思います。読んだ今でもわからない。最初は怪物じみた美貌を持つ女ユリコとその醜い姉の物語なのかと思っていたのですが、ふたりの共通の知り合いの和恵と言う女性が真のヒロインだったようです。
 これは東電OL殺人事件を下敷きにしている。和恵は努力の人で大手建設会社の総合職にまでのぼりつめます。しかし満たされないアンバランスな心と体をもてあまし和恵は娼婦となり、昼の顔と夜の顔を持つことで自分を保ちます。ほんの数千円で立ちんぼしながら体を売る和恵。そして中国人に殺されてしまう。
 登場する人物のそれぞれの語りがあり、それぞれが食い違う。だから真相は藪の中。しかしラストにユリコを凌ぐ怪物じみた美しい少年の登場には、まさに‘グロテスク’と感じてしまいました。
 好き嫌いはありましょうが、私的にはものすごく面白かったです。桐野夏生あなどれず。

 怪物とは、何かを歪ませて成長し続けて、その歪んだものが大きくなり過ぎた人のことなのです。

『グロテスク』 2003.6.30. 桐野夏生 文藝春秋



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