酔陽亭 酩酊本処
いらっしゃいませ。酔陽亭の酔子へろりと申します。読んだ本や観た映画のことなどをナンダカンダ書いております。批判的なことマイナスなことはなるべく書かないように心掛けておりますが、なにか嫌な思いをされましたら酔子へろりの表現力の無さゆえと平に平にご容赦くださいませ。
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2002年09月01日(日) アナン

 数年前、深夜番組の 『NIGHT HEAD』 と言うドラマが、カルト的人気をはくしたことをご存知でしょうか? このドラマを見たきっかけは、私のミーハー心から。豊川悦司と武田真治が超能力兄弟役という設定に惹かれたのでした(笑)。岡山では特集で数日間に分けて深夜放送されたのを録画して観たのでした。しかしこのドラマどこかで見たことがある。なぜかしら? 
 その疑問を解消したのはずいぶん後に映画化までされたナイトヘッドの雑誌の特集記事からでした。 『世にも奇妙な物語』 の中でのトラブルカフェと言う作品がそもそも飯田監督作品で、ナイトヘッドの素地となるものでした。
 後に、キムサマ主演のテレビドラマ 『ギフト』、 映画とテレビドラマが連動した 『アナザ・ヘブン』 など飯田監督作品が世に出ました。そして不思議で奇妙な飯田監督作品にすっかり虜になっていました。

 そんな飯田譲治さんが、梓河人さんといっしょに書いた作品が 『アナン』 です。
 私は、2年前この作品を読んだ時の読書NOTEの感想にこう書いています。 “アナンという少年と流という男の生の再生の物語” と。読んでいると自分の心が息を吹き返すような物語なのです。
私は傷ついた全ての人にこの本を読ませてあげたい。
今はもういない本仲間の彼女にも読ませてあげたかった。
私にとってそういう位置にある本です。

 ホームレスに落ちぶれて‘流’と呼ばれていた男が、自殺しようとしていた夜に赤ん坊を拾う。その赤ん坊に惹きつけられ、大事に育てる流やホームレスたち。ホームレスをやめ、働きはじめ、アナンを育てる流。少年アナンはモザイクを作り始める。見る人の心をうち、素直な自分を取り戻すかのようなモザイク。アナンに出逢った人たちはアナンに自分の罪や苦しみを吐き出す。熱を出し、苦しみながら受けとめるアナン。昔の聖人は説教をするより話を聞くことがうまかったのだそうです。相談者はただ聞いて欲しいものだから。なにかが変わるためには、なにかを終えたり、生まれたりしなくてはならないものだから。
アナンは飯田譲治さんの好きなキャラ(おそらくキリスト)なのですねv

 この作品は上下巻だけあって、たくさんの登場人物が出てきます。いい人も悪い人もとても魅力的です。逃げながら、あがきながら、何気ない振りしながら、それでも一生懸命「生きて」いる人たち。 不思議な出来事がたくさん起こります。悲しい現実やせつない事実がアナンの目の前にたくさん出てきてしまう。苦しんでも苦しんでも、自分の苦しみと引き換えに誰かの苦しみを解き放つアナン。アナンは空から落ちてきた竜の子。

こういうふうにあらためて書いてみると、ファンタジーに近い物語みたいですね。

 私は、ナイトヘッドの直人と直也が姿を変えて進化した物語りだなぁと思いました。人を癒す力を持つ人間は繊細で優しく悲しく、そしてしなやかにしたたかに強い。ナイトヘッドの直也がそうであったように、アナンは直也のまた別の生の物語に思えたのでした。それもかなり昇華され進化して。

私は言いたい。なにかに疲れたら 『アナン』 を読んでみて、と。大人の童話なのかな。 

『アナン』上・下 2000年2月 角川書店



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