2004年01月19日(月) |
30話 『芸術家集団』 |
巡行スピードで走行する電車もどきの中には、 運転席にドーラ、助手席にサウム、 そして後部座席の真ん中にどっかと座っているのは黄色いロボット。
「名前が無いと都合が悪いな、ロボットさん」
振返りながらドーラが言う。
「名前と言うものはありませんが、 私のタイプを設計者の名前をとってカミロデスタイプと呼んでいました」
合成音声が返す。
「なら…カミロさんでいいじゃないか?」
にこやかに言うドーラ。
「…そうですね」とロボット。
「さっきは命拾いしました。改めてお礼を言いますカミロさん」
振り返ってぎこちなく礼を言うサウム。 実際、あの時サウムには本当に天の助けに思えたのだ。 既に何匹かのヘビコウモリが上空から2人を伺っていたのだったから。 そこへ突如として現れた彼。 もう少し救出が遅かったら…
数時間走っただろうか。 ドーラはある事に気付いて電車のスピードを緩めた。 サウムは窓から首を伸ばして壁面を確かめている。
「ガガスさん、壁面に落書きのような物が見えますよ」
幾何学模様がびっしり描かれている。 描く…? 誰かが居るのだろうか。
やがて2つ目の駅に到着した。 プラットフォームにはテントのような物が並んでいる。 人が住んでいるらしい。 この前のような事もあるだろうから素通りした方が安全だろう。 そう判断したドーラは停車せずにゆっくりと進んだ。
走りながらテントの方を注意深く伺う。 一方テントの中では息を潜めて外の侵入者を見つめる者達が居た。 白いふわふわした毛皮をまとい、 顔には蛍光岩石から作った粉で化粧をしている。 彼らは“芸術家”だった。 数10年前にここへ住み付いたのだ。 彼らは白い犬を弓矢で狩り、炎の前で舞踏をし、詩を語り、壁に絵を描く。 ふいに現れた侵入者に身を固くして構えている。 やみくもに侵入者を攻撃したりしない。 彼らは平和主義者であった。 もともと迫害されてここへ逃げ延びてきたくらいだ。 やがて『真の芸術は対象を必要としない』という信念を持つようになった。 言いかえれば独り善がりなのだが。彼らには彼らの事情があるのだろう。
そんな複雑ないきさつなど露知らず、電車は駅を通り過ぎていった。
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