…………!
妙に張り詰めた空気を感じ取ったドーラ。
「退散だっ!」
本能的に危険を感じた2人は即座にバイクに跨ると、 車体を傾けその場でグルリとターンして、アクセルを全開にした。 前輪を持ち上げて走り出す鉄の馬。 だがそこへ発射された捕虫ネットが2台を絡めとってしまった。
ドゥドゥドゥドゥ…
虚しく鳴り響くエンジン音。 倒れこんだふたりは無様に這い起きると、 脛に巻いてあるナイフを掴んで振りかざし抵抗した。 だが多勢に無勢。 青い鎧に包まれた信者達によって取り押さえられてしまった。
「聖地を荒らす不届き者めがっ」
ツルハシで小突かれながら2人は担ぎ上げられて、 最寄の電波塔の太い柱に括り付けられた。
「リンチ(私刑)は本部に認められているんだからなぁ」
防塵マスクをはずした青いやつの1人がそう吐き捨てていった。 このまま夕暮れ時になれば、ヘビコウモリの餌食だ。 いっそ一思いに殺せばよいものを。 2人は顔を見合わせて思案した。
「…まだ諦めるな」
とドーラ。
「ガガスさんは怖くないんですか?」
サウムは泣き出しそうだった。
「怖いさ。だがこんな所で生きたまま食われるのはご免さ」
縛られた手首と足首を捩ってみるが固くてダメだ。 そろそろ日も暮れるという頃だった。 ドームの方でなにやら騒ぎが起きた。
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キレネーズと新入りの3人が、こぞって地下へ降りてみると、 そこには1体の黄色いロボットが居た。 このように自分は墓守をしていると言うので、 さっき上がってきた連中はなんだと訊いてみたら、 北の国からやってきた旅人だと言う。 そうか、じゃあ死んでもだれも気に掛けないだろう…と呟くと、 黄色いロボットは胸のLEDを激しく点滅させると、 ふいに4人を突き飛ばして地上へと駆け上っていった。 踊り場から踊り場へひとっ跳び。 開口部から飛び出すと、 作業を止めて今宿営地へ戻ろうとする信者をひとり捕まえて、
「旅人をどこへやった殺したのか?!」
胸ぐらをグイと絞める。
「さっさあな」
「答えないとこうだ」
黄色いロボットは空いている片腕をクズ山の方へ向けた。 次の瞬間、クズ山が丸ごと蒸発した。 巨大なスプーンで抉ったかのように凹んでいる。 そこから蒸気が立ち昇る。
「いっ言うよ。あいつらなら西の塔に縛られているよ。生きたまま」
手を離された巡礼者はドサリと地面に落ちた。
(いったいなんなんだアイツは)
ロボットは長く影をのばし始めた塔へと走っていく。 それを見た信者たちは咄嗟に小火器を発砲する。
パンパンパン!
早くて命中しない。いや命中していても効いていないのだ。 ロボットは疾走しながら後ろに180度腕を回転させると、 適当な所へ例のエネルギー砲を放った。 18人の青いやつが蒸発した。 それを見て腰が退けた仲間達は、一目散に逃げ惑う。 宿舎の後ろに隠れようとしているのもいる。
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「なんだか騒がしいなぁ」
ドーラは首を伸ばして遥か彼方の聖地を伺った。 何かが疾走してくるのが見える。 土埃を舞い上げて黄色い物がぐんぐん近づいてくる。 ……彼だ。
「助けに来ました」
指先から出る光線で縄を焼き切りながら言う。
「どうして?」
とサウム。
「あなた方はこれからの世界に必要なニンゲンですから」
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