2004年01月07日(水) |
21話 『ジオシリンダー』 |
人間が仁王立ちして両腕を水平に伸ばしたような形状の鉄塔。 それらが延々と点在するこの砂漠。 変化の無い退屈な風景に突如出現した異様な物…
鉄塔達が作る見えない直線を遮る様に立ちはだかる、 直径200メートル、高さ70メートルあまりの円墳。 それは捜し求めていた"駅"の一部だった。 トライホイールのキャラバンはクヴィスの指示に従い、 巨大な車体を傾けてその円墳に登っていった。 頂上にすりばち状の穴が穿ってある。 まるで中に巨大な蟻地獄が住んでいるかの様だ。 始めに地面に降りたのはモーウィだった。 彼女はすり鉢のギリギリの所まで歩いていった。 固いブーツの踏みしめた砂がさらさらと流れて穴に吸い込まれていく。 この中にはいったい何が有るのだろうか…
クヴィスはトライホイールのウインチのワイヤーを腰に繋いで、 勇敢にも暗闇の奥へと降りていった。 額のサーチライトが暗闇の中で一筋の光を作った。 ゆっくりと下降しながら、クヴィスは周囲の状況を探索した。 エコーによる距離の測定でおおよその広さが解かった。 この建造物は約200メートルの円形で、 よく解からないがかなりの深さだった。 ウインチの長さが足りないので一旦引き上げてもらった。 今度はジオテックドームの梁を伝ってドームの内側を調べる。 クヴィスは手長ザルのような動作で軽妙に梁を伝っていく。 果してドームの縁、モノレールのプラットフォームらしき所に辿り着いた。 色褪せた広告が照らし出される。 笑顔の女性が髪をなびかせていた。 プラットフォームから延びる止ったエスカレーターを降りていくと、 緩やかに螺旋状に下降する通路に出た。 通路の内縁にはかつて人々の購買意欲を刺激したであろう、 着飾ったマネキンが並んでいる。 そのうちトレジャーハンターに荒らされたと思しき商店を見つけた。 電飾やアクリル看板がごっそりと剥ぎ取られている。 アンティークとしてのいくらかの価値があるのだろう。
さらに進むと透明な高架チューブにぶつかった。 これが駅の中心部へ繋がっているらしい。 クヴィスの導いた駅という名の巨大な建造物は、 かつて人類が昆虫から身を守る為に築いた砦のことなのだ。 古の時代、砦は無数に存在した。 しかし海上へと生活の場を移していった人類は、 放棄した砦を昆虫の根城にされないために破壊した。 たった一つを残して。 大陸の中央に位置するこのジオシリンダーだけは、 遠い未来の人類へ文明復興の希望をかけて残されたのだった。
夕暮れになると希望のタイムカプセルに開けられた小さな穴から、 無数のヘビコウモリがエサを求めに飛び発って行った。
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